起きたら犬がいなかった/宙(そら)という名の犬/土星の消失
朝9時に起きたら犬がいない。
いつもいる階下のソファは黒い毛だらけで、タオルがしわくちゃだ。タオルのしわをゆっくりとのばして自分の今の気持ちを考える。ぬるい午後に起きたら親がいない子供の頃の感覚では全然ない。
村上春樹の小説の主人公が猫を探しに行く時にこうなんだろうという、そのまんまな気持ちで階段を上がっていくと、珍しくオフィスで犬が「刀」の形(起筆方向が頭)で寝ていた。
午前中、受けたセキュリティに関する質問について、システム開発社長とやりとり。
例えばどこかの国の、吹けば飛ぶよなmom-and-popな小さな代理店の営業マンが、WebExやBlueJeansを使って行われる製品開発会議で、競合の開発者から謝礼をもらい、同室で傍聴させたらどうなる、と問われている。
しかしでは、対面の(出張を伴う)会議なら安全なのか?ICレコーダーをポケットに潜ませて会議に出席されてしまうリスクをどう回避するのか?それ以前にメールで頻繁にやりとりされる設計計画書はどうなのだ?
ここまでくるとセキュリティの担保は、取引先採用時に行うのが何より安全なのだ、という話になる。
だが、にわか営業マンな自分は、顧客が求めているのは、科学的安心じゃないのだと気付く。誰かからの心理的太鼓判押しだ。ここで「そこは取引先採用時にやるべき内部統制でしょう」と言ってはならないのだ。
で結論:ログインは画面上に映し出されたQRコードをかざして読み込む。
終ったらログと会議記録をコピペしてセッション自体は直ちに削除。
もし閉鎖都市トムスクから誰かが傍受したのではないかということが、夜中に心配になったら、IPアドレスはログされているAWS(アマゾンウェブサービス)プラットフォームのことだ。お金を払ってもらえればエンジニアがIPアドレスを拾います、と答える。
玉川学園前の看板も出ていない店に行く。
玉川学園の丘の上の方から白い帽子を被った学童が流れ落ちてくる。突然流れがゆるやかになる。
「止まらな~い!(命令形)」と先生が叫ぶと弁を開けたように、ざざざと白い帽子の流れが速くなる。その前を各駅列車が走る。カーブを曲がるときに車体をうんと斜めにして通り過ぎる。
店には看板犬がいて、おしぼりを差し出す女将のように、ウチの犬のためにおもちゃを咥えて現れてくれる。
「ちょうど生まれた年に…が見られたので宙と書いて「そら」と読むんです」と物腰の柔らかい女性がおっしゃる。聞いた瞬間はそうかそうかそれをnoteに書こうと思うような聞いたことのある天文現象だったが忘れた。
後で宙(そら)ちゃんが11歳だという証言を手掛かりにhttps://www.astroarts.co.jp/alacarte/2009/index-j.shtmlを見てみるけれど、これと思うものはない。「中秋の名月」とか「皆既日食」とか、デパートのセールみたいにしょっちゅうあるやつではなかった。
代わりに「土星の環が消失」というのが目に留まった。15年ごとにあるらしい。
そんなことに気付かずに今まで生きてきたのだと唖然とする。