少女たちが紡ぐ虚構と現実…「倒立する塔の殺人」感想
皆川博子「倒立する塔の殺人」
表紙が美しいなと思った。そして、カバー裏など細かいところも美しく、惹かれた。
あらすじ 戦時中のミッションスクール。図書館の本の中にまぎれて、ひっそり置かれた美しいノート。蔓薔薇模様の囲みの中には、タイトルだけが記されている。『倒立する塔の殺人』。 少女たちの間では、小説の回し書きが流行していた。ノートに出会った者は続きを書き継ぐ。手から手へと、物語はめぐり、想いもめぐる。やがてひとりの少女の不思議な死をきっかけに、物語は驚くべき結末を迎える…。 物語が物語を生み、秘められた思惑が絡み合うり万華鏡のように美しい幻想的な物語。 (カバー文より)
戦時中、ミッションスクール、「殺人」という言葉の入った不思議な本…要素の組み合わせが珍しいなと思った。
そういうわけで、私はこの本を手に取って読み始めた。
感想
昔から、戦争を扱ったものは苦手だった。パニックを起こしてしまうのだ。
けれど最近は、戦争について、きちんと知らなくてはいけないと思う。
悲惨な中での醜さと助け合いの美しさ。
国のためにという犠牲の精神。
戦争が終わって、一変した教育。
今の自分たちも考えねばならないことが沢山ある。
ただ、この本は思春期の少女たちの物語でもある。
きっといつの時代も、思春期の少女たちは似たようなものを持っているのだなと思った。
友情、悪意、愛情、嫉妬…
それらが交錯して、語り手も交わり、それこそ万華鏡のようにくるくると回転する。
倒立するという言葉に沿うように、読み進めていく中で、最後の方で各登場人物に対しての印象が一変したり。
とても興味深いなと思った。
この本の中には、絵の話題が出てくる。
私も絵画に興味があるので、それもこの本が気に入った理由かもしれない。
最後に、「あとがきにかえて」で、話題に上った画家たちの絵が収録されている。
カラーではないけれど、それも良かった。
昔の日本という「和」と、ミッションスクールや海外の楽曲・小説・画家の話という「洋」の組み合わせ。
日本的で昔だけれど、どこか異国的で。
狂気に満ちた、一方では希望がのぞく結末。
幻想的という言葉がぴったりだ。
少女たちが紡ぐ虚構と現実に魅力された。