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吉田大八監督の、映画「敵」を観ました。(テアトル梅田にて)

映画「敵」を観ました。(テアトル梅田にて)


筒井康隆の原作を吉田大八さんが脚本・監督をした映画「敵」。公開から10日ほど経ってやっと観に行くことが出来ました。筒井康隆さんと言えば私たちの世代の憧れの作家でした。筒井康隆さんは関西人で、茨木の春日丘高校から同志社大学に進学され作家になられました。高校大学時代の環境が近かったこともありますが、多作で若い人に人気で爆発的な過激な作品群というアナーキーさも魅力でした。もともと俳優志望だったらしく、何度も映画などに出演されています。筒井さんの持っているアングラさや過激さはある種、人生の先輩としてとても魅力的でした!その魅力は赤塚不二夫先生やタモリさんやビートたけしさんなどに引けを取らないものではないでしょうか?同時に筒井さんは「時をかける少女」などのセンチメンタルな作品も並行して手がけるという幅の広さ、1970年代から80年代には関西にこうした面白い方がたくさんいたことも事実です!この映画の主演は長塚京三さんです!この映画を見て、サントリーのオールドというウイスキーのTVCMを思い出しました。https://www.youtube.com/watch?v=XmfLDpIZTY0

「恋は遠い日の花火ではない。」という小野田隆雄さんの名作コピーとともに、部下と一緒にバーで飲み終わった長塚さんが、部下の女性に「課長の背中見てるの好きなんです」と言われます。その後、長塚さんの後ろ姿が映され、長塚さんがジャンプして足をマンガのようにばたばたさせるシーンで終わります。このCMの監督は日本映画の世界でも有名な市川準さんの手になるものでした。いま、このCMはコンプライアンス的に放送が難しいと言われています。異性の部下を個人的に飲みに連れていくこと自体が時代に合わなくなったと。しかし、この映画は原作からの脚本でしょうがそうした男の妄想が描かれています。その相手をするのが3人の俳優です!妻役の黒沢あすか。そしてフランス文学研究者の役である長塚さんの昔の教え子でもあり現在は出版社で編集者をしている瀧内公美さん。そしていきつけのバー「夜間飛行」のオーナーの姪であり、立教大学でフランス文学を専攻している大学生の河合優実さん。この3人が、現在は妻に先立たれて一人住まいをしている長塚さんとの交流が描かれます。それを見て、まさに先ほどのTVCMを思い出しました。「恋は遠い日の花火ではない。」。長塚さんは、瀧内さんや河合さんと会うととても楽しそうです!一人暮らしだからということもありますが、それ以上にドキドキとする何かがあるのではないでしょうか?それはたぶん、筒井さんの原作にあるものなんだと思います。そんな老境を迎えた退任して10年以上たつ80代前後の元教授のところに「敵」がやってきます。敵とは何なのか?これが筒井さんのアバンギャルドさ!見ていて「敵」とは迫りくる「老い」のことなのか?それともその先の「死」のことなのか?それとも「敵」は自分自身なのか?それとも「敵」は?北からやってくるという設定の北とはなんなのか?モノクロームの画面で描かれる本作は、いい意味で色の情報量がないので、観客の想像力を刺激します。そして旧家が舞台でもあるので、昭和の薫りが漂い過去の日本映画の秀作を見ているような気持になります。基本、長塚さんと俳優たちの会話で成り立っています。時々「敵」をイメージさせる映像が挿入されますが、それは現実なのか夢なのか?わかりません。これってもしかしたら溝口監督の「雨月物語」や黒澤監督の「羅生門」のように夢と現を描いているのかもしれません。そして老境に達するとはそういうことなのかもしれないな?と思いました。私が62歳なのに一番若いのではないか?という年齢層の観客でいっぱいの映画館で観た体験は何だったのか?これを見た映画好きの杉さんから連絡がありました。杉さんはベルイマンの「野いちご」に似ている!とまたまた意味深な言葉だけを私に投げかけました。大学の学園祭で見てから40年以上見ていない「野いちご」を見てみようか?という気になりました。「敵」という題名なので怖くておどろおどろしい映画なのでは?と思われる方もいるかもしれません。いやいや、これはまさにユーモア満載の筒井さんらしいブラックジョークな物語と言えるのではないでしょうか?それを真面目に長塚さんたちが演じることでそのユーモアの感覚が倍加していきます。そんなことまで考えてこの映画を作った吉田大八監督とそれを支えたスタッフ、そして制作会社のギークピクチャーズに感謝です。唐突なエンディングも素敵です!「そこまで言って委員会」の終わり方にも通じる、ギャグかシリアスかわからないという夢現(ゆめうつつ)の映画体験でした。時々挿入される弦楽器が美しい音楽も素敵です。音楽は、メロディーパンチが制作です。ぜひ、映画館で。1時間48分。


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