映画レビュー2023
今年はTOHOのシネマイレージ会員になり、劇場でそこそこ映画を観た一年でした。観た映画に点数をつけて、感想をつらつらと書いていきたいと思います。
評価一覧
まず、一覧はこちらです。
今年は個人的に「怪物」と「ラーゲリ」の二強でした。そこに「首」が割って入れるか入れないか、くらいです(「ナポレオン」と「PERFECT DAYS」はまだ観れていないのですが…)。
それでは、一つひとつの感想を言っていきたいと思います!ぜひ最後までお読みください。
S評価(歴史に名を残す傑作)
98点 怪物
もの凄い映画を観た。観終わってからも映画のことが2,3日ずっと頭から離れなかった。。。
安易にあらすじを説明したくない、いや、できない作品。優しくもあり苦しくもあり、1回鑑賞するだけでは到底咀嚼しきれない映画を観たのは久しぶりだった。坂元脚本の、視点がそれぞれ異なる三幕構成により出来事の全貌が徐々に明らかになるという演出が観る側に良い緊張感をもたらし、怒涛のように伏線が回収されていく様は圧倒的である。誰が加害者・被害者かという明確な答えは存在しない。言葉の持つ無意識的な偏見、棘がひたすら描写されていく。一方、特に子どもの発する一つひとつの言葉は自然体ながらも時に美しさすら感じる。
特定のテーマを超え普遍性を備えた作品になっているのも素晴らしい。子どもの葛藤を当人同士の世界に閉じ込めた形ではなく、最後まで学校や家族という社会との関係性のなかで描ききったがゆえにそのように仕上がったのだろう。だからこそ、最後の2人だけのシーンが際立った輝きを放つ。---以下多少のネタバレ---
本作では「世界は生まれ変われるか」という問いかけをしたかったと是枝監督は述べている。ラストの「生まれ変わったのかな?」「そういうのはないと思うよ、もとのままだよ」という会話の後、二人が野原を駆けていくあのシーンはまさに、"自分たちが"生まれ変わることが大きな意味を持つと考えていた二人を描いていたそれまでとは反転して、"この世界が"生まれ変わったのだ、という希望を示しているのだろう。しみじみと余韻に浸れるラストシーンである。
また、映画本編と当初の脚本の違い(ラストを含む)がけっこう面白い、というのが2回鑑賞した後にシナリオブックを購入して読んでみた後の感想。特に是枝監督の"引き算"の絶妙な塩梅に脱帽した。映画は最終的には監督ゲーだ。
98点 ラーゲリより愛を込めて ※22年公開
シベリア抑留の実話を元にしたストーリー。事前に何も情報を入れずに観に行ったのは大正解だった。頭を使わず純粋に心で感じることのできる作品。映画館でラスト40分ほどずっと泣いていたと思う。エンドロールが流れるころに劇場のあちらこちらから啜り泣きが聞こえてくるのも稀有な光景だった。
作品を一言で表すなら、日本版「夜と霧」と呼ぶのがふさわしいだろう。未来に対する静かな祈りを噛みしめたい。
A評価(2回以上楽しめる名作)
94点 首
戦国時代特有の血生臭さと刹那的な死生観をエンタメとして昇華できているのが素晴らしく、不思議な魅力に溢れた作品。好きなシーンはたくさんあるが、一つ挙げるとすれば清水が切腹するときに秀吉がある一言を放った箇所が個人的には痛快だった。
「首」は劇中で重要な意味を持つ。登場人物のなかで生き延びたのは結局、首に拘泥することのなかった秀吉と家康のみである。どことなく示唆的だ。
92点 ほかげ
戦争を生き延びた一般市民の"終わらない戦後"に焦点を当てた物語。登場人物ほぼ全員の名前が最後まで明かされなかったことが、それを象徴している。
限られた予算のなかで映画の可能性を最大限に広げてくれる問題作である。中規模以下の劇場でしか公開されてないのが非常に惜しい。特に前半はほぼ密室のシーンのみでかつ音響がソリッドなこともあり、スリル満点だった。
こちらが想像したような予定調和的な展開を裏切り、ストーリーを牽引する存在が女性から子どもへ次第に変化していったのも見応えあり。
同時期に公開された時代設定も同一の『ゴジラ-1.0』に比べよほど誠実に戦後と向き合っており、同作とは対照的に最小限のセット・人物で構成された空間は興味深い。それでいて同作に勝るとも劣らない重厚感を有しているのだから不思議だ。『RRR』『ゴジラ-1.0』のようにド派手な作品も映画らしくて面白いが、逆にこれはこれで新鮮な驚きがあった。
91点 RRR ※22年公開
大画面・大音量の劇場で鑑賞するからこそ価値のある作品。山場がこれでもかというほど何度も何度も来るため、3時間という長尺なのに全く弛緩しないのが素晴らしい。物語が現実とかけ離れているといった批判は、この映画の有無を言わせぬ迫力の前には無意味である。
91点 名探偵コナン 黒鉄の魚影
歴代20数年の劇場版コナンの中でも5本の指に入る。展開が終始良い。そしてスピッツがこれほどコナンの世界観にがっちり噛み合うとは思わなかった。歌詞の灰原に対する解像度が高すぎる。
90点 劇場版 優しいスピッツ
終映日に駆け込み鑑賞。全部良い……!!それまで有名曲プラスαくらいしか知らなかったが、スピッツ沼にハマりそう(ハマった)。
B+評価(満足できた作品)
88点 燃えあがる女性記者たち
カーストの影響が色濃く残存しており、政治と宗教が密接に連関しているインドの社会構造がよく描写された良質なドキュメンタリー。若い女性記者を見ていると教育の重要性と可能性を感じる。時には命がけの取材を試みる記者が淡々と等身大の姿で記録されていた。安全地帯からちまちまと後方射撃してヒロインを気取っている日本のジャーナリズムに比べ、文字通り心血注いで仕事をしている記者の姿に敬意を表したい。もっと話題になっていい。
83点 極限境界線 救出までの18日間
主役二人がかっこいい。タイトルからして結末の予想は事前についてしまうが、その割には観ている側が飽きないような進行になっており、緊張感が持続したままあっという間に時間が過ぎていった。コメディ要素が良い塩梅で入っていたのが良かったのだと思う。
B-評価(満足できたが所々惜しい作品)
77点 ゴジラ-1.0
VFXをはじめ評価できる部分はそれなりにあっただけに全体として勿体無い。終戦直後という時代設定は面白かった(時代考証の杜撰さは指摘できるが個人的には気にならない程度であった)し、橘と敷島があのように再会する脚本も上手かった。一方で中盤以降は容易に予想できる結末をただ見守るだけのやや間延びする展開になっており、最後に典子が生きていたシーンは蛇足そのものであった。物語に必要な要素を取捨選択したうえで、選択した部分をもっと掘り下げるとより良い作品になっただろう。
76点 沈黙の艦隊
続編が前提で作られている作品であり、原作を全部読んでいない身からすると海江田の目的や行動原理が謎に包まれたままである。評価は保留したいが、マイナスポイントは今のところ見当たらず面白かった。
75点 憧れを超えた侍たち 世界一への記録
栗山監督、大谷、ダルに加え源田もキーマンだったのだなという発見。一野球ファンとしてワクワクできた。ただアマプラでの無料公開は早すぎ(文句)。
70点 シャイロックの子供たち
ザ・池井戸作品。丁寧に伏線が回収されていくのは気持ち良い。可もなく不可もなく、俳優の演技も素晴らしい。ただ、あえて映画館で観るスケール感ではなくスペシャルドラマで十分な気がしたのでこの点数。
C評価(やや不満は残るが及第点の作品)
68点 インディ・ジョーンズと運命のダイヤル
「インディー・ジョーンズ」シリーズが好きだからこそこの点数にしているのであって、その補正がなければせいぜい60点だろう。前半の貯金を後半で全て使い果たすような作品で、特にシチリアに着いてからの脚本の失速が顕著である。
本シリーズの醍醐味は、多少のトンデモ脚本はツッコむのも野暮だろうと思わせてくれる圧倒的な高揚感にあると考えているが、今作はリアルにもファンタジーにも振り切れておらず、どうもすべてが中途半端だった。特にとってつけたような謎解きもどきのシーンやオマージュシーンが多いのがやや残念だ。
最も落胆したのはラストの場面。あまりにもインディーを雑に扱いすぎではないか。また、インディー以外の登場人物が十分に掘り下げられていないのも問題である。例えば、アメリカの情報機関の黒人女性はポリコレのためだけに用意されたもので明らかに不要だった。物語に何ら影響を及ぼさない無価値な登場人物が多い作品は駄作であるが、本作もまた例に漏れず、といったところか。
シリーズ完結編ということに加え、コロナ禍で公開が延期されたことで発表から何年も待たされた分、個人的には余計に期待値が上がっていただけに、もっと素直に世界観に浸れる作品であってほしかった。
67点 正欲
朝井リョウの原作小説は未読だが、映画よりそっちを読んだ方が断然良いのではと思わされてしまった。思ったことを何点か述べていく。
まず、本作は現代社会における多様性を主題にしている。そのなかで稲垣吾郎演じる検事がかなりステレオタイプな"普通の人"を終始演じているが、これがどうも気に食わない。結局"マイノリティ"対"普通の人"のよくある分かりやすい二項対立の話に物語が収束していったからである。多様性を謳っている割には「小児性愛=悪、水フェチ=善」と法律を道具にバッサリ区切ってしまうような演出も同様だ。ああ、「観る前の自分には戻れない」などという胡散臭いキャッチコピーに見合った安っぽい商業主義的な作品だな、と思わざるを得ない。複雑な事象をありのまま提示できていた「怪物」などと比べるとこのあたりが決定的に物足りない。
また、説明的な台詞を好んで使っている割には全てを説明しきれておらず、かといって間を楽しむ余地があまりないのも好みではなかった。振り切るならもっと振り切っていい。
加えて、細かい演出が雑なのがかなり気になる。心に余裕のない人(佐々木)が着ている服にしては小綺麗だし、家の内装を見るにそこそこ裕福そうな生活を送っていそうなのも奇妙だ。また、劇中に登場する書類や台詞ではyoutubeを採用しているのに、スマホの端末にはnowtubeと表示されているのも見過ごせない。一度でも細部に違和感を覚えてしまう作品は良作とはいえないだろう。
ただ、新垣結衣の死んだ目つきは素晴らしかったし、特に何か解決されることのないまま物語が終わったのはリアリティがあり良かった。
66点 リボルバー・リリー
綾瀬はるか全BET作品。大正〜昭和を舞台にした作品はあまり見かけないのでその点は評価できるが、同じテイストの『るろうに剣心』などと比べるとどうしても一枚落ちる。それなりに面白く、劇中つまらない・長いなどと感じることはなかったのだが…。
65点 ミステリと言う勿れ
菅田将暉と広瀬すずのかけあいは楽しかった。犯人が比較的わかりやすく中盤以降が尻すぼみ。脈絡なくポリコレが登場するシーンがあったのもマイナス。
60点 劇場版SPY×FAMILY CODE: White
劇場版ナイズドされているなというのは何となくわかる。一定の面白さは担保されている。ただ、映画館でわざわざ観るかと言われたら…アニメでいいや。
D評価(下駄を履かせて合格点の作品)
59点 キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
インディアンを搾取するアメリカ人について描いた作品。安易に白人捜査官をヒーローに仕立て上げていない内省的な映画であることには好感が持てる。ディカプリオの演じる主人公は、観ていて苛つくほどひたすら情けない男だった。
ただ、映画にしては起伏少なに一定のペースで進行していき、だいぶ長い。連続ドラマにした方が良かったのではないかと個人的には思う。観る側にある程度の覚悟が必要な作品だった。長いからといって、では無駄なシーンがあったかと問われればそんなこともなかった。僕が観たときは睡眠不足でコンディションも悪かったこともあり総合的にあまりフィットしなかっただけなので、この点数をつけるのはやや申し訳なく思う。
53点 Mr.Children GIFT for you
市井のファン達がミスチルの思い出を語る形式で進むドキュメンタリー。せっかく映画を作るなら、ツアーのセトリ決定の舞台裏や30周年を迎えるにあたっての準備など、メンバー中心に密着してほしかった。
ただ、まだLIVE DVDが発売されていないなかで、スタジアムツアー限定で披露された「終わりなき旅」を冒頭に大音量で聞けたのは満足。
F評価(駄作)
41点 コンフィデンシャル 国際共助捜査
コメディが面白くアクションシーンもそれなりだが、それ以上でもそれ以下でもなく…。
35点 レジェンド&バタフライ
キムタクはどこまでいってもキムタク。新解釈の信長像が提示されているのは多少面白いものの、3時間弱もの間、終始信長と濃姫の関係性に焦点を当て続けている割には全体的にあと三歩ほど物足りない。
10点 ミッション・インポッシブル デッドレコニング
2時間半以上も尺を使って「後編に続く」がオチだったのは、トム・クルーズのアクションシーンが素晴らしいことを差し引いても苦痛にすら感じられるほどだった。内容をレビューしようにも印象に残ったシーンがなく困る。
7点 君たちはどう生きるか
ジブリ作品の凄みは、登場する脇役がみな個性的かつ物語の進行に欠かせない触媒になっていること、メッセージ性を有しながらも純粋に物語そのものが面白いこと、の二点にあると個人的には考えているが、その双方、特に後者が決定的に欠如した作品だったように思う。映画に関する様々な考察は、あくまで物語そのものの付属品にすぎない。
宮崎駿特有の冒険活劇的な高揚感は冒頭にこそ健在だが、徐々にそれは影を潜め、単に支離滅裂な展開が最後まで続く。この作品を面白かったと評することのできる感性をわざわざ持ち合わせたいとは思わない。
3点 アバター ウェイ・オブ・ウォーター
映画が退屈なときはしばしば本能的に腕時計に目がいきがちになるが、今年観たなかでは最もそれに当てはまる。クライマックスに達した場面から物語を1時間も引き延ばしたのには横転しそうになった。節々でストーリーに必然性が感じられず、シーンありきの安直にとってつけたような展開が目立つ。映像美ではこの失点を到底カバーできない。
2点 ザ・クリエイター 創造者
AIの進化というのはまだそこまで使い古されたテーマではないはずなのに、物語の面白味に欠け冗長。独創的な要素が見当たらず、映画を貫く統一的な世界観も不在なのが致命的。細部もハチャメチャで、それを上回る圧倒的な迫力も当然あるわけがない。
おかしな点は指摘するとキリがないが、最大の問題は劇中に登場する国家「ニューアジア」だろう。日本・東南アジア・インドあたりを全てごちゃ混ぜにしたようなテイストで、アメリカ人の想像する典型的な出鱈目アジアだった。この時代にまだこのような描き方をする監督がいるのかと逆に感心する。
ただ、AI撲滅を推進するアメリカ側が批判的な視点で描かれていたのはやや意外ではあった。おそらくベトナム戦争と重ね合わせているのだろう。しかしそうはいっても、結局は主人公の白人アメリカ人ヒーローが一人で国家を裏切り世界を救うという、やはり既視感のある展開にすぎない。
以上です!
番外編ですが、東京国際映画祭の期間中にミッドタウン日比谷で屋外上映会が開催されていましたが、そのときに観た「カサブランカ」と「俺たちに明日はない」もとてもよかったです。
来年もたくさん観れたらいいなぁ。