ベルギー三都物語③アントワープ
3つ目の都市は、アントワープ。
以前は旅の通過点としてだったので、今回ようやく街を観光する事ができた。
ルーベンスの家
童話フランダースの犬の中で、少年ネロが見たいと願っていた絵を描いたのはルーベンス。
彼はこの街に工房を持っていた。
建物は2030年まで修復中となっており、現時点では庭のみ修復終了。
庭は、当時をほぼ忠実に再現したそうだ。
庭から見える工房の外観。
内部に絵はほとんどなく、映像で彼の生い立ちや人物像などが語られる。
工房修復後に再訪したい。
市庁舎と広場
アントワープといえば、フランドル地方の毛織物残業、ダイヤモンド加工技術で財を成した豊かな街。
かつての富の面影が残る贅沢な市庁舎や建物が、広場に並ぶ。
マーケットでは、ハム入りのラクレットをいただいた。
ヘットステーン
街の西側を流れるエスコー川のほとりには、かつての古城を利用した観光案内所がある。
Het Steenとは石を意味しており、かつては砦として建てられ、カルロス1世の時代にお城として建て直しされたそうだ。
プランタン・モレトゥスの家屋・博物館
活版印刷を発明したグーテンベルクの出身地マインツにも、印刷についての博物館があり見学させていただいた。
そして、このアントワープには、建物自体が世界遺産に登録されている家屋・博物館があり、世界最古の印刷機も保存されている。
私はこの博物館を訪れる事を、長い間楽しみにしていた。
思い出したくないのだが、残念ながらここのスタッフの一人から心無い扱いを受けた。
やんわりとではあるが、反論すること約5分。
(私は、しぶといのです。笑)
向こうは渋々折れたが、あまりにも気分が悪く、駆け足で見学し出てきてしまった。
ブログには負の感情をほぼ残さないが、こんな酷い扱いは初めてだったので、思い出として書いておく。
世界遺産としての誇りは素晴らしいことだ。
しかしそれは一歩間違うと、高慢かつ横柄な態度に変化する。
しかし、ベルギー全般では親切な方が多く、街を楽しんでくださいと声を掛けてくださる市民のかたもいらっしゃり、とても嬉しかった事を付け加えておきたい。
マインツのグーテンベルク博物館についてはこちら。
この時のように、一つ一つじっくり見たかった。駆け足見学は、やはり良くない。
アントワープ王立美術館
ヤン・ファン・エイクを巡る旅。
最後の訪問地は王立美術館。
2011年から2022年までの長い期間をかけて、建物は修復工事が行われていた。
ヤン・ファン・エイク
聖女バルバラ
同じく泉の聖母
ジャン・フーケ
ムランの聖母子
ルーベンス
ルーベンスの間という大きなホールがあった。さすがアントワープだ。
放蕩息子
凍えるヴィーナス
ハンス・メムリンク
父なる神と奏楽の天使たち
展示はそれぞれの部屋でテーマが決まっており、ここは音楽。
他にも、ベルギー出身マグリット。
9月16日
同じくベルギー出身、アンソールの特別展が開催されていた。
とにかく作品数が多いので、美術館の詳細は別記事にまとめたい。
聖母大聖堂
大聖堂の塔は、123メートル。
アントワープで一番高い建物であり、「フランドル地方とワロン地方の鐘楼群」の世界遺産に登録された塔の中でも、一番の高さだそう。
それだけでも、この街の繁栄や豊かさが感じられる。
大聖堂の前には、ネロとパトラッシュが横たわる像が。
以前この前に立った時には固く閉ざされていた扉をくぐり、私はようやく聖母大聖堂に足を踏み入れた。
聖母マリアが大切に祀られている。
そして、中央祭壇にあるルーベンスの絵の前に進む。
この絵にやっと出会えた感動が、静かな波のように私を包み込む。
ネロがこの絵の前で、亡き母を思うシーンが蘇る。
ルーベンスは聖母被昇天を、下絵を含み5枚描いている。
ウィーン 美術史美術館とリヒテンシュタイン美術館
デン・ハーグ マウリッツハイス(下絵)
デュッセルドルフ クンストパラスト
アントワープ 聖母大聖堂
私はいつかリヒテンシュタイン美術館を訪れ、5枚目の聖母に会ってみたい。
そして、キリスト昇架。
ネロが見たいと願っていた絵を、私も何十年か越しにようやく見ている。
何度も本や画像で見てきたが、やはり圧倒的な迫力だ。
続いて、反対側にあるキリスト降架。
ドイツを含めたヨーロッパでは、フランダースの犬の知名度はそれほど高くないそうだ。
実際に、知り合いに聞いてみたが、知っている人はいなかった。
このお話の原作はイギリス人作家ヴィーダによって書かれ、実話ではなく、フランドル地方を訪れた作者が見た景色を参考に描かれたそうだ。
ネロは児童労働を強いられており、児童虐待にあたると解釈される事、そして救いようのない悲しみの物語は、現代においてはあまり好まれない内容だという。
私が子供の頃に見たのは、世界名作劇場の再放送だったのだろう。
悲しいストーリーとしてではなく、軽やかなオープニング曲を一緒に歌い、ネロと可愛いアロアのおしゃべりを聞き、風車のある風景で二人が遊び回る姿に憧れ、パトラッシュとネロの友情に心を打たれ、そしてアントワープの都会の雰囲気と特別感を、私はその映像から感じ取っていた。
教会の壁を隔ててすぐ外、街はクリスマスマーケットで賑わっている。
ネロがこの絵の前で、冷たくなって朝を迎えたのもクリスマスだった。
そんな事を思い出し、私はふと身震いした。
ピエール・マルコニー二
ベルギーといえば、チョコレートも忘れてはいけない。
街を歩けば至る所にチョコレート屋さんがあるが、デュッセルドルフにも店舗があるので、特別なものだけを食べようと思っていた。
ピエール・マルコニー二は最近デュッセルドルフに店舗を開いたばかりだが、せっかくなので最終日にエクレアを購入。
アントワープ中央駅
英米誌マシャベルが、2014年に世界一美しい駅として発表したほど、この駅は美しい。
ホテルは、中央駅正面に建つラディソン ブルーを選んだ。
今回の旅、ベルギー三都物語は、ヤン・ファン・エイクを辿る旅。
ヘントの祭壇画。
ブルージュでは、ファン・デル・バールの聖母子と、マルガレータ・ファン・エイクの肖像画。
そしてアントワープでは、聖女バルバラと、泉の聖母。
そして一方では、長年の夢を叶えた瞬間でもあった。
ネロがルーベンスの絵を見たいと願ったように、私もこの大聖堂にあるルーベンスの3枚の絵を見たいと、何十年も願っていた。
またルーベンスに関する街、ジーゲン、ケルン、アントワープを訪れる事も、私にとって長年の夢であった。
待つ期間が長ければ長いほど、その地を訪れる期待値は上がり、憧れに似た気持ちが芽生えてくる。
その期待を裏切ることなく、私の願いの全てが一気に叶った旅は、私にとってこれ以上望めないほど、最高のクリスマスプレゼントとなった。
アントワープの街は、クリスマスムードで賑わっていた。
私の心の中もまた、数々の絵の思い出が一つ一つのイルミネーションのように、キラキラと輝いていた。
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2016年、ベルリンのクリスマスマーケットで、トラックがマーケットに突入するというテロ行為により、12人の犠牲者が出てしまいました。
あれから、同じようなテロ行為が各都市で繰り返されています。
今年もまた、マクデブルクで死傷者200人に登る事件が発生してしまいました。
楽しく穏やかな気持ちでクリスマスと新年を迎えたい時期に、このような事件が再発し本当に悲しいです。
犠牲となったかたがたとご家族の皆様へ、心からのお悔やみとお見舞いを申し上げます。
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皆さま、どうぞ素敵なクリスマス、そして良い新年ををお迎えください。
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ベルギー三都物語
ルーベンスが生まれた街、ジーゲン