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手回しオルガンの響き
毎年、11月終わりに美容院へ足を運ぶ。
12月になると、近隣諸国からデュッセルドルフへいらっしゃる方が増え、ますます予約が取りにくくなる。
新年を綺麗な髪で迎えたいのは、みなさん同じだ。
予約が取れたので、美容院へ出かけた。
丁寧にブローされた髪と、いつもと違うシャンプーの香りを纏い、心も軽く美容院を出た。
昨日、11月27日から、今年のアドベントが始まった。
アドベントは、クリスマス前の4週間を指し、キリストの誕生を待ち望む祈りの季節。
4つの蝋燭に、1週間毎に火を灯していく。
4つの蝋燭に火が灯れば、クリスマスがやってくる。
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デュッセルドルフでは、アドベントより早く11月17日からクリスマスマーケットが始まった。
2020年は、クリスマスマーケットは開催されず、寂しい冬となった。
去年も、街によってはクリスマスマーケットを開催しなかった所もあるが、今年は無事に開催された街が多いようだ。
今まではびっしりと建ち並んでいた屋台も、去年からは等間隔に距離を取り建っている。
その姿は少し寂しいけれど、街は確実に華やかに彩られている。
デュッセルドルフ市内では、合計8か所でクリスマスマーケットが開催され、それぞれが近い場所に位置しているので、足を伸ばせばそのほとんどを訪れる事ができる。
Altstadt-Markt / Handwerker-Markt
こちらがメインとも言える旧市役所前広場
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Engelchen-Markt
エンジェルにたくさん会えるマーケット
今年はこちらの会場は工事中のためか、開催されていなかった
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Kö-Bogen-Markt / Kö-Lichter-Markt
ここには毎年スケートリンクが設置される
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Märchen-Markt / Schadow-Markt
以前は旧市役所前にあったメリーゴーランドは、去年からこちらに移動されている
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Sternchen-Markt
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Burgplatz-Markt
こちらは大型の観覧車もあり、お店もとても可愛らしい
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詳細は、以下デュッセルドルフ市のHPを
美容院に行った日は、偶然だが、嬉しい出来事があった。
「私の人生」と呼ぶには大袈裟過ぎるし、まだ薄っぺらい経験しか積んでいない私だけれど、今までの苦労が報われた日だった。
そんな日に、髪を綺麗に整えていただき、今年初めてデュッセルドルフのクリスマスマーケットを訪れる。
誰かが私を、そっとお祝いしてくれている気分だった。
勘違いだとしても、それでもいい。
その勘違いが、私を喜ばせてくれるのだから。
何度も通った石畳の道に差し掛かり、ここを初めて歩いた日の事を思い出した。
まだ、この街を好きになれず、どこか居心地の悪さを感じていたあの頃。
新しい街での生活と、新しい仕事が不安でたまらなかったあの頃。
一人で俯いて歩く私の足元に、この石畳があった。
あれから数十年。
ようやく今までの苦労が報われたとしても、私はまだ自分が未熟だと思う。
そんな事を考えながら歩いていると、遠くから美しい音色が聞こえてきた。
Amazing graceだ。
私は引き寄せられるように、その音の正体を探し、耳を澄ましながら歩いた。
音の正体は、おじさまが弾いている手回しオルガンだった。
何故か、熱い涙がじわりと込み上げた。
かなり図々しいけれど、こんな未熟な自分が救われた気分になった。
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ありがとうと伝えながら、コインを手回しオルガンの上に置くと、おじさまはその手を休めることなく、笑顔を返してくださった。
私は道の反対側に立ち、繰り返される曲を聞いていた。
過去の自分を少しだけ褒め、そして未来を想った。
音色を満喫し、おじさまに手を振って立ち去る。
すると、別の曲が流れ始めたのを背中で聞いた。
もしかしてあのおじさまは、私があの曲を好きだと知り、繰り返し弾いて下さっていたのだろうか。
勘違いだとしても、それでもいい。
その勘違いが、私を温かくしてくれるのだから。
Amazing Grace, how sweet the sound
That saved a wretch like me
I once was lost but now am found
Was blind but now I see
路面電車に揺られながら、頭の中で何度も同じ曲、同じ歌詞が流れた。
一文一文を自分と照らし合わせると、まるでパズルを組み合わせるようにぴったりと収まった。
この言葉に、あのタイミングで出会えたのは、やはり誰かが私を見守ってくれているのだろうか。
勘違いだとしても、それでもいい。
その勘違いが、私を強くしてくれるのだから。
アドベントは、祈りの季節。
私も目を閉じ、見えない何かに向かい、そっと感謝の祈りを捧げた。
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ドイツの美容院について