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ドレスデン ドイツ最古のクリスマスマーケット
数あるクリスマスマーケットの中で、ドレスデンは特に有名だが、理由はその歴史による。
クリスマスマーケットの起源は諸説あり、ウィーンでは1296年に開かれた。
ドイツでは、ミュンヘンで1310年に開かれたとされる説、また1384年にバウツェンの街にてクリスマスマーケットのような催しがあった説、フランクフルトの1393年説など、様々な文献が残っている。
ドイツの記録協会によると、ドイツ最古のクリスマスマーケットは、1434年に『認定マーケット』が開かれたドレスデンとされている。
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街には、15箇所のマーケットがある。
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クリスマス・ピラミッドとは蝋燭立てで、キリストの誕生を表す人形が飾られる。
蝋燭を灯すと上昇気流により上部のプロペラが回り、同時に人形も回るという、エルツ地方発祥の木工細工おもちゃの一つだ。
そして、多くのマーケットでは、この巨大版が飾られる。
アルトマルクト広場に立てられるピラミッドは世界最大級で、なんと14m。
そしてこのピラミッドの立つマーケットこそが、ドイツ最古と言われているStriezelmarktだ。
このマーケットを見るため、私はこの冬ドレスデンを再訪した。
Striezelは中高ドイツ語で、シュトレンと同じ意味。つまりシュトレンマルクトだ。
シュトレンは中世の修道院のパン屋が発祥で、イースト、小麦粉、水から作られる四旬節のパンだった。
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またシュトレン祭も開かれ、1.8トンもの巨大シュトレンが街を練り歩く。
お祭について書かれたニョコロ*さんの記事をご紹介します。
ニョコロ*さん、素敵な記事を読ませて下さりありがとうございます!
滞在は、以前宿泊した事のあるアルトマルクトに建つNH Collection。
部屋から広場を見渡せるので、クリスマス時期に是非ここに泊まりたいと、長い間願っていた。
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ドイツ最古のクリスマスマーケットの全貌が、暖かい部屋から眺められるなんて、なんと贅沢なことだろう。
マーケットは21時まで、そしてツリーとピラミッドは、23:30まで点灯している。
毎晩飽きることなく、消灯されるその瞬間まで、私は広場から目が離せなかった。
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秋の訪問時にこの大きな広場を見た時には、ガランとしており、これほどの賑わいを想像することはできなかった。
このマーケットに、私は完全に一目惚れした。
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中央の大きな舞台では、子供向けのイベントが始まり、サンタさんの掛け声で、マーケットにいるみんなが一斉にもみの木を歌う。
この一体感が、たまらなく心地良い。
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子供向けのメルヘンの世界も。
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エルツ地方の特産品、木工細工のお店がたくさん並んでいる。
レース屋さん、そしてこのマーケットの代名詞であるシュトレン屋さんも。
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私は、以前食べたEmil Reimannの焼きリンゴ入りシュトレンが忘れられず、再購入。
そして、ドレスデンが本拠地のKreutzkamのバウムクーヘンもお土産に。
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こちらは、フラウエン教会前のノイマルクト。
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ここで、ドレスデン発祥のHandbrotというパンを初めて頂いた。
中には、たっぷりチーズやハムが入っており、サワークリームが乗っている。
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教会内
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Stallhofは、選帝侯クリスチャン1世によりトーナメントや狩猟、馬上槍試合の会場として1591年に完成した場所。
大きな広場に所狭しと屋台が並び、活気溢れる。
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エルベ川を挟んだ対岸のマーケットには、観覧車も。
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さて、今回のドレスデンの楽しみはマーケットだけではない。
2つ目の楽しみは、アルテ・マイスター絵画館への再訪。
(詳細は別記事にて取り上げたい)
前回訪問時は修復中だった、フェルメールの手紙を読む女。
今年2月のアムステルダムで既にお目にかかっていたが、この美術館では初めての鑑賞となった。
じっくりと館内を見ていたら、あっという間に5時間が過ぎていた。
こんな風に、時間を気にせず過ごせる一日は、とても幸せだ。
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そして、3つ目の楽しみはドレスデン城内のHistorisches grünes Gewölbe 緑の丸天井と呼ばれる宝物館。
前回は宝物館以外を見学したので、今回は宝物館を是非見たかったのだ。
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2019年、ここから116ミリオンユーロ相当の宝石が盗まれた事が記憶に新しい。
1ユーロ=155円とすると、約180億円の被害総額。
犯人グループは捕まったが、盗まれた宝石の一部はまだ不明だという。
2023年5月に懲役が下されたのだが、それほど重い刑罰にならなかった事で更に話題となった。
館内は、写真撮影不可。
そして二重ドアに守られた厳重なセキュリティーにより、数人ずつこの場所に入る事を許される。
部屋は全部で8つ。
琥珀の部屋、象牙の部屋、白銀の部屋、銀の部屋へと、次第に部屋は豪華になり、壁の鏡の数も増える。
館内で一番大きな部屋は、その広さ200㎡。
こちらは、購入した絵葉書より。
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紋章の部屋を通り、7つ目の宝石の部屋は、この宝物館のハイライト。
そして、まさにこの部屋から、数々の財宝が盗まれたのだ。
室内は目も眩む豪華さで、アウグスト2世の権力と富の力を存分に見せつけられる。
そして、4つ目の楽しみは、ゼンパー・オーパ。
街のシンボルの一つでもあるオペラ座で、バレエ白鳥の湖を鑑賞した。
演奏はSächsische Staatskapelle Dresden ザクセン州立歌劇場管弦楽団。
ベルリン・フィルハーモニーと共に、世界最高レベルの実力と人気を誇る管弦楽団。
リヒャルト・ワーグナーが1843年から6年間指揮者を務めていた事もあり、ワーグナーの初演がこの場所で行われた事でも有名。
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私が今まで見たバレエ白鳥の湖は、白い衣装を身に付けたダンサーが華麗に踊るものだ。
4羽の白鳥の踊りでは、4人が両手を交差させて繋ぎ、息の合う踊りをする。
黒鳥は、32回転のグラン・フェッテを見事にこなし、観客は割れんばかりの拍手を贈る。
今回私がドレスデンで見たバレエは、しかし白い衣装のダンサーはいなかった。
白鳥の湖の基となったザクセン州ツヴィッカウが舞台のムゼーウスの童話『奪われたヴェール』を再現している。
舞台天井には大きな丸鏡が設置され、ダンサーは手を打ち鳴らし、股下をくぐり、時には叫び声もあげる。
まるで裸のような衣装で、薄いヴェールを纏い踊る。
滑稽な振り付けや踊りで、観客席から笑いが起こったりする。
これは、今までに数々の伝統的なバレエに、新しい振付を与えてきたスウェーデンのバレエ振付師ヨハン・インガーの作品だ。
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トレイラーはこちら。
ねぇ、あなた、このバレエが好き?
途中の休憩時間に、隣に座ったおばさまが、声を掛けてくださった。
私が今まで見てきた白鳥の湖ではないこと、とてもモダンなバレエだと思うこと。
そして、私は恥ずかしながらそのバレエを理解するレベルにないため、白鳥の姿の方がしっくり来ると感じること。
素直な気持ちを言ってみたところ、おばさまも、そうよね!やっぱり白鳥の湖には、白い衣装がお似合いよね!と顔を明るくして答えて下さった。
デュッセルドルフにも住んだことがあるというおばさまとは、休憩時間の間にたくさんおしゃべりをした。
それでも、舞台はストーリー展開が面白くて、時が経つのを忘れて見入った。
公演が終わると、おばさまも私も惜しみない拍手を送った。
公演で白鳥オデットを演じたのは、広島県出身の綱木彩葉さん。
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公演は、ドイツ放送局arteにて、ネット観覧ができるようになると案内があった。
以下サイトにて、3ヶ月間視聴可なのでご紹介。
客席からは見えていなかった細かい仕掛けや、全体の構造が分かり、とても面白かった。
世界最古のクリスマスマーケットでは、ホットワインにほんのり酔う。
美術館では、レンブラント、フェルメール、ルーベンスらの作品に、溜息を漏らし酔う。
宝物館では、煌びやかな宝石や財宝に心を奪われ、その魅力に酔う。
そしてオペラ座では、バレエダンサーとオーケストラの美しいハーモニーに酔う。
冬のドレスデンは、私を心地良く酔わせてくれる、そんな街だった。
帰ってきたばかりなのに、また行きたくなってしまう。
芸術の都、ドレスデンへ!