抜け出せない沼
おいでませ。玻璃です。
ショージ先生の逸話はまだまだあるのだが、しばし休憩。
この頃、我が家族はどんな状態だったのか少しお話ししようと思う。
これまでのエピソードをずっと読んでくれている読者の皆さんは、私の父母の性格はおおよそわかって頂けていると思う。
お人好しの見栄っ張り。
この性格ゆえに大きな旅館を手放すことになった。
やっとそこから持ち直し、家も父方の実家を引き継ぎ定住できることになったし、父の工務店のまずまずの経営状態。
こうなってくると「お人好し」部分が顔を出す。
親戚のヒロくんを我が家に住み込みで働かせることとなった。
ヒロくんはこの時で20歳前後だっただろうか?
ヒョロリと痩せた体型で、少し影のある笑顔だが、小さい頃から私にもとても優しくしてくれていた。
工務店の手伝いをしてもらいながら預かったのには訳がある。
彼はシンナー依存だった。
家庭環境が複雑で、昭和不良あるあるの酒、タバコ、シンナーというコースを辿ったらしい。
さすがに大人になったこの時、見た目には普通の青年だったが、なかなかシンナーがやめられないという事で、仕事も続かなかった。
それを聞いたうちの両親は、それならば工務店の手も欲しいし、うちで家庭的に接していれば、依存症も治るのではと預かることを買って出た。
ヒロくんの使う部屋は2階の私の隣の部屋。
その時、念のため私の部屋に鍵を付けた。
うちに来てからは、真面目に現場に行き働いていたし、お昼ご飯は母が父の分と一緒にせっせとお弁当を作って持たせた。
夜ご飯も家族の温かい雰囲気の中、共に食べた。
ところがある日から、なんとなく目がうつろな日もあった。
父は
「ヒロ、お前まさかシンナー吸ってないやろうなぁ?」
「いや、吸ってないですよ。」
疑わしい…。
そして、あの日がやって来た。
隣の部屋から何度か物音がする。
おかしいなと思いつつ、私は部屋の鍵を閉めてラジオを聴いていた。
その時、ドーン!ガシャーン!
「うぉー!」
え?何?何?
恐怖に震えているとドアをノックする音が聞こえた。
「玻璃ちゃん、事務のヤマモトやけど早く部屋から出て!おばさんと下に降りよう!」
当時、事務員として働いていたヤマモトさんに連れられて私は車に乗って外に避難した。
この時両親は出かけていて、ヤマモトさんがいなかったらと思うとゾッとした。
それでも両親はすぐにヒロくんを追い出すことはしなかった。もう一度チャンスを与えたようだ。
その頃、三女の舞姉さんが沖縄出身の義兄さんと結婚をする事となり、我が家は親戚一同で沖縄へ出掛けることとなった。
結婚式の最中に、次女の月子姉さんに電話が入った。月子姉さんの古い友人で消防士のテラカワさんからだった。
ヒロくんがまたシンナーを吸って暴れていると。
結局、月子姉さんは早々に沖縄から引き上げ、対処に当たった。
ヒロくんはそのまま警察に引き渡され、精神科に入院したという。
沖縄から帰ると2階はシンナーの異臭が凄すぎて、私の部屋にまで充満している臭いは消えず、しばらく下の部屋で過ごしていた。
父母の想いは届かず、ヒロくんとは二度と会うことはなかった。
だが、その後もヒロくんはぬかるんだ「依存症」という沼からなかなか抜け出す事ができなかったと聞いている。
そしてこの後も私は、両親のお人好しエピソードに付き合わされ、振り回されていくのだが、不思議と両親を恨んでいるということはない。
なんとなく、憎めないキャラの二人だからだろうか。
ではまたお会いしましょう。
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