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モンキーマジック
おいでませ。玻璃です。
父、洋平は喫茶店の仕事をタカシ兄さんに任せて、旅館や通りがかりの観光客に販売する萩焼を作ることにした。
といっても、陶芸の経験があるわけではない。
知り合いのつてで工房を借り、ろくろの使い方から教えてもらった。
器用で凝り性の洋平はすぐに習得し、ごく一般的なお土産用の萩焼を作れるようになったという。
そして、旅館の前の人通りの比較的多い場所にちいさなプレハブのお店を作り、みやげ物の萩焼を売った。
その店番を月子姉さんや舞姉さんはよくやらされていたようだ。
店番をしている姉のところに行こうと、幼い私は店の脇を小走りに通ってヒョイっと入り口の方に曲がった。
「ウキ~!!」
ガブッ!
「痛い!!」
一瞬何が起こったかそこにいた全員理解できなかった。
当人の私は尚更状況がつかめない。
ただ頭部に衝撃的な痛みを感じて泣き叫んだ。
血も出てきたし軽いパニックの中、
「コラッ!」と怒っている声がする。
何が起きたかと顔を上げるとそこには一匹のお猿さんがいた。
そうだ。この猿だ。猿にやられたのだ。
月子姉さんの後輩が、飼っているお猿さんを連れて遊びに来ていた。
抱っこされていたお猿さん、急に物陰から飛び出した私に驚き、丁度そこにあった私の頭を噛んだのだ。
その後一応病院に行って手当をしてもらい事なきを得た。
そして、時は流れ平成へ・・・。
ある日、母から電話があった。
「今日は、玻璃ちゃんのところに泊めてくれん?」
「ええけど、どうしたん?」
「お父さんがね・・・。」
母は、いつものように父が帰ってくる時間に合わせて、お風呂も食事もビールも準備して待っていた。
ピンポーン
「おかえりなさーい」
と、母が玄関を開けると、父がなにやら大きなかごを持って立っている。
「あら、お父さん。何それ?」
とりあえず、家にかごを持ち込み開けてみると・・・。
「ウキー!」
なんと、小猿さんが!!
「可愛いから、知り合いのところから買ってきた。」
と、もう可愛い小猿さんに心を持っていかれている父。
だが、母は断固反対だった。
今までも犬を連れてきては飼うことになるが、お世話は全部母の役目。
このお猿さんだって、結局は母が面倒をみる事になる。
相談もなしに連れて帰った父に猛烈に腹が立った母は、
「結局うちで飼ってもかわいそうなことになるんやから。返してきて!
返すまで私は帰りません!!」
と、家を飛び出してしまった。
母が面倒をみなければ明日から仕事に行くのに誰が面倒をみるのか。
困った父はさすがに次の日に、可愛い小猿さんを売主さんに返してきた。
その後、そのお猿さんは子供のないご夫婦のもとで、本当の子供のように幸せに暮らしたそうだ。
お猿さんの思い出が人生の中で二度もあるというのは、多いのか少ないのかわからないが、もしも夫が小猿さんを連れて帰ったら・・・私ならどうするだろうか?
では、またお会いしましょう。