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田んぼの向こう側
おいでませ。玻璃です。
時は昭和へと戻る。
母、昭子は産後落ち着くと、牛乳屋の仕事に本格的に戻った。
牛乳屋は朝が早いため、姉たちがまだ暗い中起こされ、母と交替をしてお手伝いさんが来るまでの間、私の添い寝をした。
少し大きくなると、日中は父方のフチばあちゃんに預けられたり、母が牛乳の処理工場の事務所に連れて行って事務員のみんなが子守をしてくれたりした。
そんな毎日を送っている中、ある二つの事件が起きた。
そのひとつは、辰一の浮気に怒ったトメが辰一を追い出し、牧場と牛乳屋を息子博正に譲り、その土地に旅館を建てた。
(Family History②を参照)
そしてもうひとつ、なんと洋平の浮気がばれて昭子と大喧嘩になり、その拍子に昭子は転んで肋骨にヒビが入ってしまった。
そしてその事に激怒したトメが洋平を追い出してしまったのだ。
なんてしょうもない男たちなのだろう。
そしてトメの強さ。
ただこちらのふたつの事件、大きく違うのは昭子は小学生の舞姉さんと幼稚園に入ったばかりの私を連れて洋平を追いかけて実家を出た事だ。
家を出た私たちは市内のアパートに引っ越した。
海沿いのカーブの国道に建つ小さなアパート。
ここで4人の生活が始まった。ただ、私と舞姉さんの記憶に母、昭子の姿があまりない。母は家は出たものの、実家の旅館の手伝いをしていたようだ。
父、洋平は、大型免許を持っていたので遠距離のトラック運転手をして働くことになった。
萩の海で獲れた魚を新鮮なうちに各地に運ぶため夜通し走るのだ。
関東をはじめ、いろんな市場に運んでいた。
ある日、いつものように魚を積んで走る洋平。
鮮度の問題もあるのでゆっくりトイレ休憩も取れない。
我慢の限界が来て、真夜中の誰もいない道沿いから少し入った、真っ暗な田んぼのあぜ道で用を足そうとズボンのチャックに手をかけた瞬間・・・。
あちらのあぜ道にボーっと白い光を放つものが見える。
目を凝らして見てみると、白い着物を着た家族だと思われる人たちが5人横並びに立ってこちらを見ている。手招きをしているようにも見える。
「ひ、ひ、ひえ~~~!!」
腰が抜けそうになるのを必死に耐え、もつれる足でトラックまで駆け戻った。感じていた尿意はどこかに吹き飛んでしまった。
ガクガク震えながら、どこをどう走ったか全く覚えてなかったという。
そして後日、テレビを観ていた時、あの場所が取材されていた。
あの田んぼの近くの民家で一家皆殺し事件があり、遺体が見つかったと・・・。
では、またお会いしましょう。