茄子中毒(茄子中の夏)

「秋茄子は嫁に食わすな」って言う諺もあるくらい、美味しくて独り占めできる食材だって、同意される人も多いと思うわ。

道の駅で知り合った茄子生産者の方から「送料だけで良いんで、皮に傷のついた茄子を10キロ引き取ってくれないか?」と言われたの。
「送料だけなんて言わず、2000円お払いします」と、お返事したらたいそう喜ばれて、最初は10キロ段ボールいっぱいの茄子。
送料込で2000円。傷と言ってもほとんどわからないぐらい。
でも、大手のチェーンスーパーとの契約だとコレでもダメなんだそうで、3000キロの在庫に困っていたのを少しでも助けになるならと、喜んで引き受けたの。

意地悪な姑が嫁に食べさせたくないのもわかるわね。
麻婆茄子、焼き茄子、天ぷらにして、美味しくいただいたわ。

次の週はお礼にと、ししとう、プチトマトと茄子がプレゼントで届いたの。
その時に「まだ茄子も沢山できます。他の野菜も入れます」とお願いされ、毎週2000円で野菜を送ってくださるとのこと。
お願いしたら、すぐに茄子メインの野菜ボックスが来たわ。

急いでお裾分けをしたんだけど、近所の子ども3人いるママ友に「わたし料理しないんだよね」と言われ、調理したものをお裾分けしたり、そろそろ茄子の手強さを感じ始めたわ。

そして3回目の野菜が届いたけど、茄子が多めで、ダチョウの卵みたいな茄子や、白い長い茄子もあったけど、茄子が多めには間違いなくて、毎日茄子ばかり料理していたわ。
茄子としらすのパスタ、ミート茄子グラタン、茄子多めのラタトゥユ、茄子カレーなど、洋食移行しながらも毎日茄子を食べないと終わらないのよ。

すると身体と繊細な精神が茄子に蝕まれ始めたの。
茄子中毒を発症したのよ。

その時私は高級なホテルに勤めていたの。
時々結婚式の配膳手伝いもしてたのよ。
新婦のお父様が歌がうまくて、中島みゆきの「糸」を歌って、新婦が感動して泣いたの。
わたしも「ステキなお父様とご家族だわ」って感動してたの。
あのサビの部分「縦の糸はあなたー。横の糸はわたしー。織り茄子布はー」ってところで、わたしの中の何かが壊れて、「わたしは今日家に帰っても茄子なんだ」って実感しちゃったのよ。

それまで、いろいろな事に感動したり、笑ったり、悲しんだりしていた感情が全て茄子になってしまう。
そんな感覚に精神が蝕まれていったわ。

中島みゆきが好きだったんだけど、中島みゆきは茄子が好きみたいで、「草原のペガ茄子ー。モノクロのビー茄子ー」って歌うし。
カラオケ居酒屋では「茄子は他人同士にー、なるけーれどー」って氷雨が他人同士になるより近づいてきたわ。

チューブは「あー、茄子休み」って、茄子の歌しか歌わないし。
玉置浩二は「茄子の終わりのハーモニー」を奏で、JITTERIN'JINNの「茄子祭り」は「きーみーがーいたナースは遠い夢の中ー」だったり、チャゲ&茄子鳥のファンだったあの人から暑中見舞いが来たり。

もうね、バイクで15分かかる寛容な友人ところにまで茄子を運んで、「茄子中毒になったの!助けて!!」って言い出して、それを打ちあけられた友達は「へ?」って感じで、反応が薄くて。

一番辛かったのは森山直太朗だわ。
最初の歌い出しは心が安らぐのに「ナースのおーわーりー」ってところの感情が込もりすぎてて、「あなたに会いたくナァァァスの〜」のところでは自分のこの茄子に支配された感情をどこにどうしたら良いのか?完全に見失われてしまうのよ。茄子を歌わせたら直太朗の右に出れないわー。

茄子中毒は伝染するの。
とうとう恐れていたパンデミックが起こったわ。
「これから茄子をお裾分けに行くね」とLINEした友人から来たLINEが
「茄子が来るー。なっすが来るーby大黒摩季」
「いつも悪いね。お返しするものもナッスィングで笑」
なんて、本人はまだ気が付いてないから呑気だけど、いつも「茄子の駄洒落ないかな」って考え始めているのよ!!怖っ!!

茄子をサイコロ切りにして、オリーブオイルと塩で煮る茄子ジャムをジップロックに詰めて冷凍して、「もう、茄子は大丈夫です」って、とうとう生産者の方にお伝えしたの。
「もう茄子のシーズンも終わります。ありがとうございました。最後の茄子を来週送ります。それはプレゼントです。ありがとうございました。」
ってお返事が来たわ。

海沿いのカーブを君の白いクーペ
曲がれば 茄子も終わる
茄子のクラクション ベイビーもう一度
鳴らしてくれ インマイハート

こうして、ナス中毒な夏は終わったのよ。

でも、茄子が来れば思い出す

って思ったから、今も完全に治ってないのかもしれないわ。



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