【色エッセイ#6】私が「緑」から思い出すもの
旅先で出会い、心に残った景色や食べ物、日常で心動かされたものたちを「色」から捉え直す試み。私が「緑」から思い出すのは、こんなもの。
1. ハノイのカフェ
ベトナム ハノイを一人で旅していた時のこと。
ハノイ大聖堂の近くにカフェを見つけた。おそらく人気のカフェで混雑していた。
私が座ったのは、2階のテラスに面した席。趣ある古い建物もさることながら、テラスの目の前まで大きく葉を広げている元気な街路樹がとても印象的だった。
カフェから大聖堂が見えるかも、と期待して入ったが、いい意味で期待を裏切られた。
パワーをもらえるような緑いっぱいの景色の方が、ずっと素敵に思えたから。
2. 雨の井の頭公園
朝6時過ぎ。深夜から降り続いた雨が止みかけていた。
いつものルートで井の頭公園まで歩く。私の好きな、公園の南の雑木林のエリアに着くと、雨上がりで森の香りがより一層強く感じられた。
大好きな香りの中で深呼吸をして、池の方に向かう。すると、普段はあまり目についていなかった、木の幹に生えたコケの緑がとても鮮やかなことに気づいた。本当に生き生きとしている。
これほど公園に通っているのに、初めて気づいた美しさ。雨上がりの公園の主役はコケたちだと思った。
3. 夏の十和田湖
私が一番好きな木漏れ日の景色の一つが、十和田湖畔の森だ。
北東北に来たと感じる、あの広葉樹の森は、太陽の光に照らされて美しく輝いていて、足もとを見ると、少し薄暗い中を下草が大きく葉を広げている。
夏に何度か訪れている十和田ホテルから、森の中を散歩して、湖畔の桟橋まで歩く。あの時に見る緑は本当に美しいと思う。
4. 明日葉
三宅島の地元のおばあちゃんとの出会いも緑の思い出の一つだ。
彼女は、収穫してきたところだという明日葉を手いっぱいに持っていて、ただ通りがかっただけの私たちに、「明日葉持ってけ!今家に戻って袋取ってくるからな、ついでに家にも寄ってけ!」と声を掛けてくれた。
図々しくもお宅に上がった私たちは、コタツでたくさんの手料理までご馳走になり、明日葉のほかに、手作りの煮物や干し椎茸などもお土産に持たせていただいた。
帰宅後、明日葉は、天ぷらや和物など様々なアレンジをして楽しんで、おばあちゃんに報告した。
5. ヘルシンキの海
夏のヘルシンキ、スオメンリンナ島の海岸から眺めたバルト海は緑がかった青色をしていた。太陽に照らされて、キラキラ光る地平線には、いくつかの島と船が浮かんでいた。
ジョン・レノンのYou Are Hereを聴きながら、岩の海岸で何時間も眺めていた。
6. 近江のお茶
大津駅から琵琶湖まで歩く途中、たまたま見つけたお茶屋さんに立ち寄ってみた。
老舗のお茶屋さんのようだが、お菓子付きでお茶を試飲させていただいた。試飲用の茶器もとっても素敵だった。すっかり一息ついて、近江のお茶をお土産にする。
お茶の香りとお店の方の優しい近江弁の心地良さを思い出し、翌年も再訪した。
7. 地元のバジル
私の実家は都内だが、住宅街の一角に現れる農地と軒先販売が残る地区にある。実家近くの軒先販売で、バジルを見つけたので購入して自宅に帰った。
バジルの袋を開けた途端、爽やかないい香りが広がる。私はすぐにジェノベーゼソースを作り、パスタと和えた。生のバジルから料理するなんて、我ながら素敵、と思いながら。
それから少しして、実家に帰ったら、ダイニングテーブルにバジルが生けてあった。近所の方からいただいたらしい。バジルの青々とした色は、確かに目で見ても楽しめる。
都内でも、生活の一部にでも「地産地消」がある暮らしは、やっぱり素敵だと思う。
8. 森林限界
「さっきの場所が森林限界だったんだね」
富士山の須走口五合目。6月の山開き前に訪れた。標高は2000m。
当然、登山道には入れないが、「まぼろしの滝」というスポットまで歩くことができた。針葉樹に囲まれた急な山道を登ると、突然視界が開けた。眼下にダイナミックな景色が広がり、山中湖が小さく見える。
その手前には針葉樹がまばらに広がっていて、枝の先の方は、まだ黄緑色で、新芽のやわらかさを残していた。
ここを越えると広がっていたのは、砂利の道。緑の世界から、ごつごつとした岩と砂利の広がる茶色の世界に一気に様子が変わった。
森林限界で見た緑は、6月でもまだ春の余韻を残していた。
9. プリムローズヒルの芝生で
ロンドン在住の友人宅でサンドイッチを作ってから、歩いてプリムローズヒルにピクニックに出掛けた。ヒルの上からは、ロンドンの街並みが一望できた。
サンドイッチや飲み物を芝生に広げてピクニックを楽しんでいたら、どこからか乱入してきた犬にサンドイッチを1つ横取りされてしまったハプニングもあったっけ。
それから、ポール・マッカートニーがこの曲を思いついたと言われるこの場所で、The Fool On The Hillを聴いた。
芝生でピクニックなんて、東京でもよくやっているじゃん、と言われそうだが、こんな素敵な場所があるから、ロンドンが好きだと思った。
10. 翡翠
新潟の糸魚川にあるヒスイ海岸へ翡翠探しに行った。バケツや水中眼鏡をもって探している人もいたが、見分け方もままならない私たちは、自分が美しいと思った石をいくつか拾った。
その上流にある、小滝川ヒスイ峡にも訪れ、巨大な翡翠の岩石も見た。翡翠は緑のイメージが強いが、白のものも多いというのをそこで学んだ。そういえば、ヒスイ海岸で拾った石の中に、白い石もあったなあ。おそらく違うのだろうけど。
11. 下津井の羊羹
瀬戸内海に面した港町、下津井。江戸時代は、北前船も出入りして賑わった、風情ある街並みが残る。
ふらっと訪れたこの町の和菓子屋さんで見つけた「磯乃羊羹」は、青のりが練り込まれた羊羹で、鮮やかな緑色をしていた。食べてみると、しっかりと青のりの香りがして、なんとも美味しい。
風情ある店構えも素敵で、旅情を感じるお土産が買えて嬉しかった。
12. ドーバー
8月のイギリス、私は一人、ドーバー海峡の淡い緑に包まれて、一日を過ごした。
ドーバーのホワイトクリフで最も美しいと感じたのが、軽やかに、でも自由に振る舞う植物たちだった。
ホワイトクリフは淡い緑の絨毯で覆われていて、足もとよく見ると、いろんな種類の小さな花が咲いている。背丈が高く、無造作に伸びている草、歩道までせり出して花を咲かせる植物たちも、私と同じように海風を受けて、心地よさそうに見える。
私は、そんな植物たちの、軽やかで自由な姿にすっかり心を奪われてしまった。
13. 年明けの抹茶
我が家は年明けを迎えたら、毎年簡易的に抹茶を点てることにしている。大体、ゆく年くる年が終わった頃から準備を始める。
一緒に食べるのは、スーパーの安い和菓子が多いけど、意外と美味しいし、年の始まりに抹茶を飲むだけで、何だか良いことがありそうな気がする。
年末年始のあの雰囲気を思い出すだけで、何だか嬉しくなって、早くもお正月休みが待ち遠しくなってしまった。
書き出してみると、植物ばかりに偏っているが、私は木漏れ日と芝生が好きすぎるので仕方がない。
これから出会いたい緑は、屋久島の縄文杉。本来なら今日、屋久島を訪れているはずが、体調不良で断念。またの機会を楽しみにする。
そして、何といってもオーロラの光。太陽フレアの活動が活発な今がまさにチャンスだと思っているので、来年頃には出会いに行けたらいいな。