ベートーヴェンを毎日聴く322(2020年11月17日)
『ベートーヴェン/カノン「お願いです。変ホ長調の音階を書いてください」WoO172』を聴いた。
このカノンのタイトルを知ったとき、「いったいベートーヴェンに何が起こったのだろうか?」と不思議で仕方なかった。
大作曲家である。それなら「変ホ長調の音階を書いてください」なんてお願いするはずはない。
「変ホ長調」はベートーヴェンが大好きな調性。交響曲第3番「英雄」をはじめ、ベートーヴェン作品では多くの作品で使用されている調性なのだ。
難聴が進んでいて、ほとんど聞こえない状態であったのは事実。とはいえ、そのハンデを覆すような名作を生みだしているのに、こんなお願いなんてしないだろう。
カノンを贈られたヴェンセンツ・ハウシュカは、宮廷の会計を担っていた人物。優れたチェリストでもありベートーヴェンとはとても仲が良かった。
一緒にいた時、次の作品を作るアイデアをベートーヴェンとハウシュカは話していたのだろう。きっとこんな感じで
ハウシュカ: 「ところで、次の作品の調性は、何調にするのかい?」
ベートーヴェン:「そりゃは変ホ長調に決まっているさ。
でもさ、変ホ長調ってどんな音階だったっけ?
お願いだ、変ホ長調の音階を書いてくれよ」
(と、このカノンを書き出して歌う)
ハウシュカ: 「おいおい、冗談もほどほどにしてくれよな(笑)」
以上、想像上の会話の様子(筆談帳を介して)。
1813~24年の長い期間のどこかで作られたと考えられている。その期間に作曲された変ホ長調の作品はというと、弦楽四重奏曲第12番が該当する(完成は1825年)。弦楽四重奏曲なのでチェリストの意見も重要になるだろう。
出来上がった(と思われる)弦楽四重奏曲はとても素晴らしいものになった。
ユーモアあふれるこのカノン。第1声と第2声がうまく絡みながら、変ホ長調の音階を上下するのがとても面白く、よく考えられている。