読書メーター 2024年11月
11月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:3901
ナイス数:28
リンパのふしぎ ――未病の仕組みを解き明かす (ちくま新書)の感想
リンパの基本事項から最新の研究まで、著者の趣味にやや寄っているのを加味しても充実した内容。実験や観察の方法まで併せて載っていて、ちょっとして推論の訓練にもなる。しかし、周辺知識や高校生物レベルの内容への言及がリンパに関する内容とごちゃ混ぜに挿し込まれているのと、膨大な箇条書きをまとめたせいか因果関係に関する助詞や接続詞があやしい箇所も散見されて非常に読みづらい。基礎知識は注釈やコラムで補完して、情報の取捨選択を吟味して欲しかった。内容への興味は十分にあるのに何となく中断した人も多そう。勿体ない本。
読了日:11月03日 著者:大橋 俊夫
文明のなかの科学の感想
連載をまとめたものという事もあってか具体的な事例や人物の引用は最小限で、観念的でエッセイ風の仕上がりになっている。科学と技術が連結したのは19世紀後半からであり、科学にせよ科学技術にせよ文化や文明から切り離して考えるものでもないことを指摘する。異文化間での相互不理解:共役不可能性を対処するにあたって、自身の文化に引き付けて理解するにとどまらず、仮面を付け替えるように、複数の「価値観」を取得することを推奨する。弁証法的に絶対的なものを追求するのではなく、それとは逆向きに、個別の文化を抱えるべきだという。
読了日:11月03日 著者:村上陽一郎
告白 I (中公文庫)の感想
恐ろしいほどに現代にも通ずる。一人の人間の内面にここまで迫れるものか。どの時代の人にとっても「現代に通ずる」ものを感じさせたからこそ語りづかれてきたのだろう。
読了日:11月05日 著者:アウグスティヌス
文系学部解体 (角川新書)の感想
大学が育てているのは「人材」ではなく「人間」。大学における教養の育成が政府によって軽視されている。また、時々の文科省大臣の気まぐれのような拙速な方針決定に、大学教員たちは振り回されている。やみくもに市場原理が導入されようとしているが成功例は一つもないという。そもそもそのような事項における成功の真否も難しいし、そもそも大学の役割ではないという。また戦後に決まった大学のランク付けが現在も慣行として残っており、予算の振り分けなどにそもそも公平性など少ない。この手の本にありがちな愚痴っぽさは抑えめで諦念も感じる。
読了日:11月07日 著者:室井 尚
歴史とは何か 新版の感想
現代から過去を照らし、過去から現在を照らす。また、一般化の希求と個人や偶発の役割。双方向的な思考を大切にしている。体系性はかなり放棄されていて、イギリス中心の見方もある程度見えるので、訳者解説で見通しを立ててから本編を読むことを勧めしたい。 『笑』だけは本当にやめて欲しかった。
読了日:11月07日 著者:E.H.カー
イスラーム文化−その根柢にあるもの (岩波文庫)の感想
アブラハムの崇敬などの通りイスラームは(当時の)新しい宗教ではなく、古く、しかし真の宗教の復活だという。イエスを預言者の一人として扱ったり、聖典解釈を重んじていたりと、どこかストーリーテラーとしての性格を感じて親近感が沸いた。スンニ派とシーア派も指導者の選びかたくらいしか差を知らなかったが、(乱暴に分けると)外面派か内面派という違いとそこを起点にした思想や神への向き合い方の違いを知れて理解が深まった。 1h×3の講義をもとにしているためこの本だけではやや簡素なので、次々読んでいこう思う。
読了日:11月11日 著者:井筒 俊彦
レコンキスタ―「スペイン」を生んだ中世800年の戦争と平和 (中公新書 2820)の感想
イベリア半島の中世史の地政学的な視点を強調し、レコンキスタ・イデオロギーが苛烈に実践されていたわけでは無いことを示す。地理的な分断や前線地の過疎によって、文化的な分離が強化されていて、郷土史の集合ともいえる様相でもあった。戦争面については、キリストイスラムの争いは重要拠点の包囲・降伏勧告が主であり、会戦は避けられる傾向にあった。また、お互いに相手側の内紛を見計らい攻め入っていたり、降伏した側の都市住民の安全は基本的に保障されていたりと、緊張関係の常態化とともにある程度の寛容心もうかがえる。
読了日:11月17日 著者:黒田 祐我
「差別」のしくみ (朝日選書1040)の感想
しても良い区別の考察などから、差別とはなにかを考えていく。差別とはあからさまで組織的な差別から、自覚のない個人的なものに変化しているというか、射程が広がっている。夫婦別姓や同性婚や女性の貶めが実例として上がっていて、これは差別だとほとんどの人が了解していそうだ。しかし、漠然と差別は駄目だ以上の論拠を示すために、悪意の有無に関係なく、合理性のない区別のほとんどは差別とか慣習が差別を助長しているのに気づかれていないという論理を用いていて、文化や習慣との峻別を考察しないと窮屈な世になりそうな厳格さではある。
読了日:11月18日 著者:木村 草太
カラー図解 アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第1巻 細胞生物学 (ブルーバックス 2163)の感想
非常に事細かかつ幅広くカバーしている。コラム的な内容がさらっと文中に紛れ込んでいるので、そこまで通読が苦にならないと思う。各種の知識が頭に残るかは分からないが。自分なりに興味深かった部分は線を引くかノートにまとめるかしないと雲散霧消してしまう危険がある。そのくらい濃く多い。 章末問題の質が低いこと以外完璧な本。
読了日:11月23日 著者:D・サダヴァ
草枕 (新潮文庫)の感想
教養深いというよりは衒学的、漢文や俳句の引用が豊富というよりは単なる文学的な遊びではないか、と中盤までは思っていたが、非人情の俳句的小説、芸術としての文学ということで、まさに作者としても読者としても流れるままに居られるのがこの作品の価値だと分かった。 読みづらいとかなんだか分からないと、途中で読むのをやめるのは勿体ない。
読了日:11月28日 著者:夏目 漱石
連帯と自由の哲学 二元論の幻想を超えての感想
「外に」真理を求めず、共同体内(言語ゲームを共有する人たちで)の整合性や、歴史性を以て「真なり」とすることを推奨する。伝統的哲学の認識論や形而上学が投げかける問いの一部を、そもそも問いとならないような思考の形式に組み替えようとしたり、過去から受け継がれた価値観の総決算としての現代にとどまらず、未来によりよい価値観になっている可能性を念頭に置いていたりと、討論や相互作用を大事にする感覚が随所にあって、とてもしっくりきた。
読了日:11月28日 著者:R. ローティ
イブン=ハルドゥーン (講談社学術文庫 2053)の感想
期待していたよりも若干退屈だったが、14世紀頃の北アフリカの事情とともに、社会哲学のはしりも確認出来て興味深くはあった。連帯意識の重要性の強調とともに、宗教も相対化する視点は、現代風の冷徹さを感じ、画期性を強く感じる。それと同時に、当時の北アフリカ独自の歴史・政治事情や、地理的な条件から導き出される考察には、現代科学の相容れないものもある。しかしそれも、文化や慣習から生み出された視点だと捉えれば、特定の時代・地域やそこから生まれる気風の資料として、研究される価値があるのだろう。
読了日:11月30日 著者:森本 公誠
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