見出し画像

紀伊国屋書店を彷徨いし旅人


本を読むのは、昔から好きだった。
なんなら「本屋」という存在が好きで、学生の頃は学校帰りに最寄りの大きめの書店にしょっちゅう入り浸っていた。
いや、夫と結婚して初めて住んだ町にも大きい本屋さんがあったのでよく出入りしていたなぁ。
もちろんお金も本棚のスペースも限りがあるので、毎回買うわけではない。
でも、うっとりと眺めるのが好きだった。

ぐるりと書棚を眺めて回る。
好きな本の傾向はあるから、そういう本がまとまっているであろうスペースは念入りに。
そうじゃないところもサラリと視線を走らせる。
気になるタイトルや目を引く表紙があれば、手に取ってみる。
店員さんが描いた自筆のポップを眺めるのも大好きだった。
雑誌も少し手に取ってぱらぱらとめくる。気になる記事だけちょっぴり読んでみたり。
その時々で気になるテーマは少しずつ移ろっていた。そんな自分の変化も楽しかった。


誰に似たのか、我が子は生まれついての読書家だ。
喃語しか話せないころから絵本を読み聞かせると静かに聞いて目で追っていたし、自ら動き出すようになるとハイハイしてお気に入りの本を手に取って読むようにとせがんでいた。
言葉が出るようになってからは「モッカイ」「モッカイ」とエンドレスリピート。そのうち、ひらがなも読めないのに自分で読み始めるようになってしまった。
自然と、お出かけスポットの一つに「本屋」が追加された。
電車で少し出かけたところにある大きめの本屋。最寄り駅にある小さな本屋。たいてい、子どもがくつろげるようにキッズスペースが設けられているのでそこに腰掛けて時間が許す限り一緒に絵本を楽しんだ。
対象年齢的に難しいであろう本(絵本ではない)も我が子は「よんで〜」と持ってきた。好きなジャンルのものであれば、難しいながらもなんとか食らいつこうと頑張っていた。我が子は、わたしにとって憧れの人間の1人である。


そんなことを思い出しながら、ある日わたしは1人で本屋に足を踏み入れた。
我が家は大抵家族みんなセットで行動するが、たまたまわたしだけが新宿に用事があったので夫・子どもとは別行動をしていたのだ。
いわゆる、一人時間。
用を済ませたわたしはウキウキと紀伊国屋書店新宿本店へ入って行った。

催事スペース、新刊スペースを眺めているうちに、ウキウキだった心にすこし翳りが出てきた。あれ?
今回はいろいろな雑誌がバックナンバーとともに並べられていた。ananの表紙、こんなにバリエーション豊かだったんだなぁ。
2階に上がって、ブックサロンを眺める。うんうん。
うーん?

あれ?

なんだか、どんな本を見てもピンとこないのだ。
キュンとしない。ハッとしない。


こういうことは、初めての経験ではない。
はじめての妊娠出産をコロナ禍で経験したわたしはとにかく自宅に篭りきりで、それか人混みを避けてお散歩するくらいの社会から切り離された生活を長く送っていた。
産後、頻回な授乳が不要になってから初めて夫に一人時間をもらって外に出た時も似たような感覚を味わっていた。

あの頃みたいなときめきが、ないのだ。

これって子育てを始めてわたし自身のライフステージが変化したせいなのかな?それとも若干の抑うつ感があるのだろうか。
好きだったものに、前と同じような興味を持てない。
無限にも思える本の山の中から「これ!」と思える一冊を見つけ出そうというエネルギーが湧いてこない。
なんなんだろうな、これ。

試しに絵本コーナーへ行ってみた。
そうすると、子どもが興味を持ちそうな絵本をいくつか手に取って眺めている自分がいた。
絵の感じはどうかな、文量は少なすぎないかな、適切な内容だろうか…。

うーん、これは今まで通りにできるんだな。
やっぱりわたしのライフステージの変化によるものなのだろうか。
なんだかちょっと、切ない気持ちである。


ここ最近のわたしの読書は、図書館に頼りきりになっていた。
SNSで話題になった本、仕事する上で参考になりそうな本、ありがたいことにほとんど区立図書館には所蔵されていた。
お金も、本棚のスペースも有限なのだ。
だから図書館で何冊か借りて、2週間の期限内にいそいそと読んで、返却しながらまた新しい本を借りる。そういうサイクルが出来上がっていた。
読みたい本も、今はネットで予約することができるから。図書館の本棚から選び取るという作業も最近はほとんどしていなかった。
(高校生の頃なんかほとんど毎日図書館にいたのに…!)

つまりわたしは、たくさんの本の山から自分が読みたい本を選びとる力がめっきり弱くなってしまったのだろう。
失ってみるとわかるのだが、これも一種の筋肉のようなものが必要だったみたいだ。慣れ、とでもいうべきだろうか。
頻繁に本屋や図書館の書棚を眺めていた頃は、自然と自分が読みたい本を見つけ出し選び抜くことができていた。
いまは、その能力が落ちてしまったのだ。
あぁ…なんということだろう…。


結局、なんとなくしょんぼりした気持ちになりながらトボトボと帰宅することになった。
せっかく大きな本屋さんに行ったのだから何かは手にしたいと思って、読みたいなと思っていた本を一冊だけ購入した。でもそれも、わたし自身が読みたいのではなくて仕事に必要そうな本。あぁ……。

今年は1人でホテルステイに挑戦したいと思っているのだが、いっそのこと本をたっぷり読めるホテルを選んでもいいなぁと思ったりしている。
おひとり様初心者なのでカーテンで仕切られているだけだと心許なくて、ちゃんとお部屋をお借りできるところがいいのだけれど。
たとえば、こんなところとか…。


…なんて考えていたら、ちょうどBOOK HOTEL神保町へ宿泊された方の記事を発見。いいなぁ、いいなぁと思いながら拝読。

最近、夜更かしが苦手になってきたわたしには一泊では足りない気もする。二泊したら味わい尽くせる?もう寝食忘れるくらい好きなことにどっぷり浸かりたい。正しくは、「好きだったことを取り戻したい」かもしれないけれど。

今年のやりたいこと、また一つ増えちゃったな。
こんな調子だから最近は生きているのがちょっと楽しいです。



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集