ナゾ解きと、家族の再生 じわっとくる、読後の満足感~「希望の糸」東野圭吾~
「糸」は人と人のつながり、縁、
血縁を示唆していて、
全体を通して、いくつもの家族の物語が
それぞれつながっていきます。
並行する複雑な展開が、
最終的にどう収拾するのかと思いつつ
読み進めると、
ナゾの種明かし、そして家族の変化、
再生のものがたりが紡がれていきます。
物語全体が糸のようなものかも、しれないです。
楽しく、引き込まれるように読み進めました。
(以下、本の内容に触れています)
物語には、「うん?」と引っかかるところも
あります。
ひとつは、殺人事件の下り。
そんな、いきなり殺すか?
衝動的とはいえ、その前に、
そんな重要な話なら、まず
同居相手の男性に確認するんじゃねえの?
という点に、ひっかかかりました。
あと、いくら父娘2人だけの家庭で、
14歳の娘と仲たがいしているとはいえ、
それぞれ別々に食事するか?という点も。
父親なら、そこはグッとこらえて、
娘のために食事を作る、夕方早く帰って、
家にいる、そのために職場と話し合って、
家のことをまずは優先する、
せめて子供が独り立ちするまでは、
我慢してでもそうするだろう、と
自分なら思います。
なので同居しているのに
中学生の娘と別々の暮らしをする父親、
というのは
ちょっとイメージしづらかったです。
あと、体外受精での取り違えって、
無茶苦茶レアケースで、
実際、そんなことあるにはあるけど、、、
ちょっと想像つかない、というか、
その医療ミスが物語のメインの
筋書きを支えている、という点で
前提部分でちょっと心のひっかかりが残ったまま、読み進めました。
とはいえ、やはり、筆力、展開力、
心情の描き方、と、
ぐいぐいと引き込まれました。
物語では、「糸」に、
「遺伝的な家族のつながり」という意味が
込められています。
親子関係という糸、です。
親子の縁、子供からすると選べない縁、
かもしれませんが
その縁で受け取ったもの、
受け継がれたものを大切にする思いを尊重する、
そんなメッセージを感じました。
14歳の、思春期の子供に、
親が一方的に思いをかぶせることは
圧力でもあり、重荷にもなる、というのは
思春期のこどもを抱える私としては、
心するようにという戒めと受け止めました。
「あたしは、
誰かの代わりに生まれてきたんじゃない」
もし、そう子供に言われたら、それは、
親が誤ったメッセージを送っていた、と
方針転換しなければ、と、自分の今後を思いました。
物語は、
・2人の子供を失い、新たな命に
過剰な期待をよせた父と、重荷に感じる娘
・遺言書で分かった、弟の存在を知る姉
・末期の父親の、隠された過去
・カフェを経営し、子宝に恵まれなかった女性の、縁(糸)を大切にする思い
・二度中絶し、縁を切ってきた女性と、同居男性の関係
・医療ミスで複雑になった、遺伝子上の父母と、育ての父母、という関係
そして
・事件を通じて、
これらの複雑な糸を解きほぐす刑事
と、それぞれのストーリーが重なり合って、
絡み合って進みます。
そのそれぞれの物語と関係のナゾを想像し、
そして、少しずつ”答え合わせ”する感覚が、
楽しく、読みがいがあります。
またも東野圭吾の力作です。小説の力を感じます。
2021年2月14日 自宅で読了 x4a4nさんありがとうございます。