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#フィクション

8.鉄の扉 【マジックリアリズム】

8.鉄の扉 【マジックリアリズム】

「夢を見てたのは、僕のほうなのかもしれない」

大きくなりすぎたテーブルヤシの向こう側の席から、聴き慣れた声がした。
街中のレストランの、洗練されたデザインのダイニングテーブルとチェア、ピアノとヴィオラの室内楽。
いつもとはずいぶん雰囲気の違う店で、こことは違う店でよく聴く声を、僕はキャッチした。

「人の中で生きていけると思ったんだよ、お前といたとき。とんだ勘違いだったけど」

話し

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7.迷子 【マジックリアリズム】

7.迷子 【マジックリアリズム】

古びた手摺をコンコンと叩きながら、海岸沿いの坂道を登る。
ピーマンの収穫のバイトは、慣れた頃には終盤に差し掛かってきていた。先の予定が決まっていないことに違和感がなくなり、さて次はどうしようかなと余裕をもって構えていた。
その余裕が、少し前の記憶を呼び起こさせたのかもしれない。
ここに来るまえ、僕はWEBデザインの会社に勤めていた。
案件ごとで稼ぐスタイルだったということもあって、時間の自由がわり

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3.ドライアイ 【マジックリアリズム】

3.ドライアイ 【マジックリアリズム】

スコールあがりの空には、開放感が満ちている。
洗われた街は、清らかな湿気に覆われて、沈むその瞬間まで強い光を放つ南国の陽が、濡れた花を、建物を、人々を輝かせる。

地方の観光誌を作る会社の採用面接に惨敗してから、シシトウやトマトを収穫するバイトをしている。
身体を動かすのは思いのほか気持ちがよかった。

「このままでは、ここの素晴らしい景色を愛でる余裕すらなくなってしまいそうだ」

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