シェア
HAPPY TORTILLA
2018年10月1日 07:01
この街で最良の居心地を誇るカフェバーにて。 便利でスピーディーな時代の象徴、インターネットの動画サイト。僕は60年代や70年代のプレイリストに浸る。 「イヤホンなんてしなくていいのに。それ、今晩のBGMにしようか」 マスターが言った。こざっぱりした黒髪ショートのヘアスタイルに、生成りのショートエプロン。いつもと同じ低いトーンの声。 「いいの?ドレスコードみたいのとかないの?ドレ
2018年9月25日 07:44
「夢を見てたのは、僕のほうなのかもしれない」 大きくなりすぎたテーブルヤシの向こう側の席から、聴き慣れた声がした。街中のレストランの、洗練されたデザインのダイニングテーブルとチェア、ピアノとヴィオラの室内楽。いつもとはずいぶん雰囲気の違う店で、こことは違う店でよく聴く声を、僕はキャッチした。 「人の中で生きていけると思ったんだよ、お前といたとき。とんだ勘違いだったけど」 話し
2018年7月30日 07:31
西の空にほんのりと残るオレンジ色。古びた木の手摺のある登り坂には、アンプから流れる音が響く。バーのテラスには、形の揃わない椅子が、並べられているとは言えないような配置で適当に置かれている。ぬるい風に揺らされる松明の炎。火の入った野菜とスパイスの混じるディナーの香り。 「いつもより人が多い」 僕は言った。 「そりゃ、ライブだもの」 マスターが言った。 「誰が歌う