「サウナで汗をかける人になる」のが目標になったお話
30代の後半になって、朝の目覚めが猛烈に悪くなった。
寝ても寝ても疲労感でいっぱい。体は異常なまでに重たく、左腕はまるで一晩中誰かを腕枕したかのように痺れる。
1人目の出産をきっかけに出現したこの症状を、私は勝手に「強烈な産後疲れ」とばかり思い込んでいた。
しかし、この救い難い疲労感の原因は産後疲れでは片ずけられないものだった。
私は歯科医師という職業柄、患者さんの口の中の金属を削りまくっている。
その削って細かくなった金属を私は吸い込んでいたのだ。
本来なら体に溜まった重金属は、汗である程度は排出されるらしい。
しかし、空調の効いた快適な部屋で仕事をし、車通勤で歩くことさえしない私は、汗とは無縁の生活を何年も送っていた。
いよいよ30代後半に妊娠し、切迫早産で絶対安静をしいられ筋力まで落ちた私。
私の体は代謝も血の巡りも、人生史上最も悪くなっていたのだろう。
吸い込んだ金属が体の外に出なくなった代わりに、「朝起きられなくなるほどの疲労感」という症状が現れるようになったのだ。
この信じがたい原因を見事に指摘し、治療までしてくれたのは統合医療の内科の先生だった。
産婦人科や内科、外科を受診しても治らなかった疲労感と腕の痺れは、この統合医療の先生が処方してくれた「金属を除去する漢方薬」を飲むことでみるみる改善した。
しかし、汗をかかない私はどうしても定期的に金属が体に貯まる。
すると、あの何とも辛い疲労感がまた襲ってくる。
その度に漢方薬を飲むことで対処する私に、統合医療の内科の先生はこうアドバイスをしてくれた。
漢方薬で重金属を体から排出するのはもちろん効果的だ。
しかし、貯めない体になることが本当の治療であると先生は言う。
確かにそうだ。
病気にならない体を作ったほうが、ずっと健康で幸せに違いない!
私は先生の教えに素直に従ってみることにした。
週末、我が家はキャンプに行った帰りに必ず温泉に行く。息子と娘は夫のいる男湯に入るので、私はゆっくり女湯に入ることができる。
私はこれ幸いと、温泉施設のサウナに汗をかくべく入ってみた。
サウナ内の温度は90度。
毎週来ているであろう「サウナ常連おばちゃん達」の中に混じって、私は端っこに座りじっと汗が出てくるのを待った。
熱い・・・砂時計の砂が落ちるのがスローモーションのように感じる。
こんな灼熱地獄の中にいるのだから、私の体からは滴るように汗が出てくるはず。待て、待つんだ私・・・・。
心の中で「外に出たい自分」を説得し、汗が出てくるのをひたすら待った。
しかし、目安の8分が過ぎても、私の体から1滴の汗も出てこない。
汗どころか体の表面がどんどん乾いてヒリヒリしてきた。
そんな私をみて、このサウナを知り尽くした常連おばちゃんは声をかけてくれた。
「次に入る時、完全に体を拭き上げずに水が残るくらいで入ってみなさい。そうしたら汗が出やすくなるわよ。」
なんと!!サウナ入り口にはこう書いてある。
しかしそんなことをしたら、今の汗をかきにくい私はこのサウナの中では干物になってしまう。
サウナのプロ(?)である常連のおばちゃんは、いかにもサウナ初心者の私を素早く見抜いてアドバイスしてくれたのだ。
「ありがとうございます。」
そう言うと私は外に出て水をたくさん飲み、体をシャワーで冷やした。
そして体を休めた後、私は体に適度な水滴を残したまま2回戦とばかりにサウナに戻った。
何年も汗をかかない生活をした私は、汗をかきにくい体になってしまっていたのだ。
以前、病気を治すために酵素風呂に通っている友達が、「最初は全く汗をかかなかった」と話していた。
私の体も全く同じことになっていたのだ。
汗をかけないということは、デトックスできない。すなわち病気の原因が溜まっていくということになる。
たいして体の悩みがないので自分は健康とばかり思い込んでいたが、そうでもなかったと言う事実に驚いた。
未病のうちに病の芽は摘むに越したことはない。
統合医療では、病気になる前に予防するすることを勧めている。
私も今年はせっせと温泉に通い、サウナで汗をかける体質に変えて行こうと思った。
そしていつしか、あのサウナの達人のように滝のような汗をかいてスッキリとデトックスできる体を手にいれてみせると心に誓った。