【尊敬するバカ族について】
私は、約14年前にピグミー族のバカ族について初めて知りました。
ピグミー族はカメルーンや他のアフリカの地域に住んでいる、身長約150cmほどの小柄な人々です。ピグミー族にも様々な種族がありますが、バカ族は「バカ語」という言語でコミュニケーションを取っています。
この「バカ」という響きに興味を持ち調べたところ、現地の言葉で「バカ」とは「人間」を意味することがわかりました。つまり、彼らは「人間族」であり「人間語」を使っているのです。
バカ族は森の中を移動しながら暮らしています。
彼らは狩猟採集を行い、住んでいる場所の近くで手に入るものを食べて生きています。
例えば、川で魚を捕り、森で木の実や食べられる植物を集めています。彼らの家財道具は、登山用のリュックくらいの大きさのカゴ一つで、調理用の木製の臼と杵、鹿の皮から作ったチリトリ兼玄関マット、マット、服2枚、調理器具などの最低限の必需品だけを持ち歩きます。
引越しは短いと2、3日、長くて2、3ヶ月かかることもあります。移動の理由は様々で、食物が少なくなったからや、何となく、時にはケンカが原因になることもあるそうです。
彼らは「モングル」と呼ばれる、折り曲げた木の枝に大きな葉を被せたドーム型のテントで生活しています。平均的なモングルは直径2.5メートル、高さ1.3メートルほどの円形で、木で骨格を組み、クズウコン科の葉で屋根を葺いています。
家づくりは女性の仕事で、約4時間程度で完成します。内部にはマットが敷かれ、食べ物の煮炊きも行います。モングルは小柄なバカ族にとっても狭い住居ですが、それは寒暖差があるためです。日中の暑さに比べ、朝夕は15℃まで気温が下がるので、狭い住まいの方が暖を取りやすいのです。
講義で特に印象に残ったことが二つあります。まず、バカ族にはリーダーがいないことです。皆が平等というスタンスを持ち続け、あえてリーダーを置かないのです。もう一つは、コミュニケーションを大切にしていることです。バカ族は日々の暮らしの中で1日の大半をコミュニケーションに費やしています。
彼らは朝日と共に目覚め、身支度を整えて狩りに出かけ、川で魚を捕ったり、住まいの近くで木の実や植物を採取したりします。そして、一日の食べ物が手に入ったら、家に戻って食べ物を平等に分け、調理します。そして、それを持ち寄り、食べながら長い時間をかけてコミュニケーションを取ります。歌や踊り、太鼓やギターのような弦楽器を奏でながら、夜遅くまで過ごします。
問題や決断をしなければならない時は、誰かが自然に音頭を取って「こうしてみましょう」「そうですね」「そうしましょう」と静かにことが決まっていきます。バカ族は平等を大切にし、食物を皆で分かち合います。手に入ったものは必ず皆とシェアし、小さな子どもでも例外ではありません。自分が取ったものを他の家族に持っていき、同じ種類の物でも分かち合うのです。分かち合うこと自体が大切なのです。
バカ族は音楽を愛し、毎日のように歌い踊ります。彼らの音楽には主旋律と伴奏がなく、自己主張のない自然な歌い方をします。録音されたバカ族の歌声を聞くと、民謡のように皆で自然にハモっているようでした。彼らはタイコやギター、動物の角から作った笛などの楽器も演奏します。
約14年前に講義で聞いたのは、ピグミーの森の危機でした。国立公園の設立で森を自由に移動できなくなり、説明もフランス語で行われるため、バカ族は内容を理解できません。さらに、伐採業者が森の木を切り倒し、動物がいなくなり、狩猟が難しくなっています。研究者たちはバカ族を救うために立ち上がり、コミュニティーセンターの設立に向けてチャリティー活動を行っています。センターでは、バカ族がフランス語を学び、公平な判断をして交渉できるよう教育を行います。
教育による現代社会の悪影響も懸念されていますが、それ以上にバカ族は危機に瀕しています。森が破壊され続けると、彼らの生存が難しくなります。私はピグミー族について知る前は小さな人たちということしか知りませんでしたが、音楽を愛し、平等を大切にし、森と共存する生活を2500年もの間続けてきた彼らに感銘を受けました。
しばらくの間、会う人ごとにピグミーのバカ族の話をしていましたが、日々の暮らしに追われ、忘れてしまっていました。
でも、私は思い出しました。
だから、今でもバカ族を見習い、欲を持たず、今日食べるものを得るために働き、残りの時間を人々とのコミュニケーションに当てる暮らしを理想としています。
その理想に近づけるよう、努力を楽しんでいきたい。