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キラキラの棚

「今日の3時から6時、高円寺で遊んでくれる人はいないか」
 SNSに流れてきた友人の呟きに飛びつき、私は高円寺に向かっている。高円寺には個人経営の書店が多くあるそうで、友人の案内で巡ることになったのだ。
 思えば書店に行くのは久しぶりだ。以前は大型書店によく行っていた。文庫の棚をあれも欲しい、これも欲しいと思いながら巡る。限られた予算の中で今日はどれを買おうかと、本を吟味するのは本当に楽しかった。なのに、いつの間にか行かなくなってしまった。 

 そのきっかけは駅ナカの書店だと思う。本が好き。書店も好き。だからどんな書店も好きだと思っていた。なのに、ここの棚はつまらない。売れている本と確実に売れる本しか置いていない。
売れる本で埋め尽くされた棚は、お馴染みの作家の聞いたことがある題名ばかり。駅ナカで効率よく情報収集したい人には良いかもしれない。だけど私には何の発見もなく退屈だった。
 書店も好きだと思っていたのに、書店に対してつまらないと思うなんて。この自分の思いに私は、薄っすらショックを受け、いつしか書店そのものから足が遠のいてしまったのだった。

 高円寺では5件の書店を巡った。どこも魅力的だったが、中でも印象に残ったのは「蟹ブックス」の棚だ。
 まず色々なサイズの本が棚に並んでいるのに気が付いた。テーマ毎に本が並んでいるから、本の高さが揃っていないのだ。続いて背表紙のカラフルさと題名の様々なフォントに目が留まる。薄いピンク、メリハリのある黄色、淡いブルー。イラストのようにも見えるフォントは丸かったり、細長かったり。
 背表紙ってこんなにきれいだったっけと思いながら、心が躍り始める。棚に並ぶ本のバラバラさから、ここには本当に色々で、様々な本があると察知していた。どんな本が並んでいるのか、もっと本をよく見たいと前のめりになる。店中を巡りながら、集中力が続く限り本を見つめ続ける。

「どんな本があるの? その本にはどんな世界があるの? 隣の本はどんな感じ? その隣は?」

 背表紙と題名から本が発する情報や雰囲気を次々と受け取り、どんどん好奇心が刺激されていく。自らが宝石箱の中に飛び込んだようで、ワクワクとした気持ちが私の心をいっぱいにしていた。

 ぐるぐると店内を何周もした後、棚から2冊の文庫を取り、レジへ運んだ。いずれも今日初めて知った作家の本だ。この本は私をどんな世界に誘ってくれるだろう。
 キラキラの棚から選んだ本をワクワクと共に持って帰る。今度は自宅で、このキラキラを開き、一人で思いっきり楽しむのだ。

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