松下翁は世の中というものは、常に流転し、どんな事があろうとも進歩発展していくものである仰っていますが、「お互いのあり方次第」という一つの条件を付けています。この「お互いのあり方」とは、どのようなあり方なのでしょうか。
その一つである「経営者のあり方」として、松下翁は以下のように述べています。
つまりは、経営者であるならば「世の中は必ず進化発展していくという事実に則した歴史を認識し、どんな激動の時代であろうとも道を求め続ける限りは決して行き詰まって終わることはないのだ」という強い信念を持つということでしょう。
更には、「お互いのあり方」の理想として、松下翁は以下のように述べています。
つまりは、お互いが素直な心を養い高めていったならば、流転する世の中において水のように融通無碍に処していくことが出来るのだと仰っています。
水のように生きることに関して、中国古典において困難な時代をしぶとく生き抜くための知恵が書かれた「老子」に以下のような言葉があります。
もっとも理想的な生き方とは、水のような生き方であるという意味です。
水には柔軟さ、謙虚さ、秘めたるエネルギーがあります。どんな形の器にも逆らわずに、器なりに形を変えていく柔軟さ、自分を主張することなく自然に低いところに流れていく謙虚さ、更には、水は静かな流れの中にも巨大なエネルギーを秘めています。この水は川のイメージで問題ありませんが、日本の清流のような川ではなく、中国の長江や黄河などのような大河のことであり、遠くから眺めると静かに見えるが、近くで見ると流れが渦巻く物凄いエネルギーを秘めている川のことです。
加えて、視野を広くし視点を高くし世の中を俯瞰して見る際には、中国古典において超越の思想、即ち小さな現実に振り回されず自在に生きる教えを説く「荘子」の言葉が参考になります。
時の巡り合わせに安んじ、自然の流れに従っていれば、哀も楽もないのだ。流れに逆らわない自然流の生き方がいい、という意味です。
つまりは、結果の伴わないプロセスを重視するあまり長時間残業をして必死の形相で流れに逆らってまで無理に頑張ろうとするのではなく、パレートの法則のような市場原理を理解した上で、テコの原理のように自分の持つ限られた資源を効果的に結果の出るポイントに無駄なく投下することで、いかに労働生産性の高い働き方に繋げることを考えるかということです。
「荘子」は「あくせく生きるだけでは、人生を豊かにすることはできない。流れに身を任せた自然流の生き方で、ここぞという時に頑張ることだ。もっとスマートに頑張りなさい」と言っている訳です。
流転しながら進歩発展していく世の中においては、素直な心をベースとした柔軟性と謙虚さを持ちつつ、遠くから見るとのんびりと生きているように見えながら、近くで見ると渦巻く流れを持つ秘めたるエネルギーを蓄えているような生き方を心掛けたいと私は考えます。