![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/137765898/rectangle_large_type_2_26eebab6336902e408037c03b99790c1.png?width=1200)
天空カフェ 忘れていた景色
テレビに映し出された景色を見て息をのんだ。
この景色。
見たことがある。
雄大に広がる空と、鏡のようにそれを写した浅い水面。
どこまでも広がっている。
テレビの声はボリビアのウユニ塩湖の景色と言っている。
そんな場所は知らない。
夢だ。夢の中で見た景色だ。
完全に忘れ去っていた。
記憶の深く暗い海の中から、突然鮮やかに蘇った景色。
思い出した。
あるとき、私は広い海岸のような場所でテーブル席に着き熱いコーヒーを飲んでいた。
これは夢だろうという認識はわずかにあった。
足元は浅い水に覆われ、裸足であった。
広い場所のあちこちに似たようなテーブルと椅子があり、そのいくつかに人影が見えた。
遥か彼方まで続く水辺に点々と席が用意されている。
天空カフェ、そんな言葉が浮かんだ。
水平線には日没前の太陽が見え、最後の光彩を放っている。
足元の水面にもその景色が映り、まるで空に浮かんでいるような壮大な空間が楽しめた。
沈む太陽から吹き付ける海風は柔らかく、頬や髪をなでていく。
静かだ。
周りのテーブル席の人影も動かない。
熱いコーヒーの香りだけが現実的だ。
ここ、いいな。
思わずにっこりしながら壮大な夕陽のショーをながめる。
強まる夕陽の輝きの中にテーブル席の人々は飲み込まれていく。
私もうっとりと楽しみながら白い光に包まれていった。
夢の中で意識が消える。
絵 マシュー・カサイ「天空カフェ 忘れていた景色」水彩