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あの夏の花火の思い出 #虎吉の交流部屋初企画



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● お題季語 : 「花火」、「キャンプ」、
         「熱帯夜」

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今回は7月の季語をテーマに1つ記事を書こうと思ったのだが、これが意外と難しい。
自分で決めたテーマに難しさを感じる自分が可笑しくなって笑ってしまった。

7月と言えば花火大会など華やかなイベントが各地で開催され、梅雨の鬱憤を晴らすかのように世の中が活気と高揚感に満ちてくる。

そうした華やかなイベントももちろん好きだが、僕はどちらかというと家族や友人と静かに楽しめるイベントの方が好きだ。

僕が小学生低学年の頃、母が異常にキャンプにはまった時期があった。月に1回ほど、父の車で2.3時間かけて遠方のキャンプ場に向かう。

父を含め、僕たち兄弟もそれほどキャンプに興味がなく、ただただ母の一方的な趣味に付き合わされていたような感じだった。

キャンプ場に着くと、テントを組み立てるのに手こずる父に母が苛立ちを見せ始める。
幼心にも父は何て気の毒なんだろうと同情の念を抱いたことを今でも覚えている。

夜になって家族そろっていざテントで寝ようとすると、真夏だったのでとにかく暑いし耳元を蚊がブーンと飛ぶ音やらでとても寝れたものではない。そこはまさに熱帯夜だった。

何とか寝られたものの、もうこんなのはまっぴらごめんだと強く思った。

翌日、僕は「もう帰りたい」と母にすがりついたが、全く聞く耳を持ってくれようとしない。
僕は半ばふてくされたまま、真夏の暑さにもキャンプという家族行事にもうんざりし、何もかもどうでもいい気持ちになっていた。

その夜、キャンプ場近くのお風呂に入り、出てくると、僕たちのテントの近くでぼんやりとした光が不規則に揺れているのが見えた。

恐る恐る近づいてみると、どうやら大人たちが集まって手持ち花火を楽しんでいるようだった。

いいなぁ、本当は僕もあんなことがしたかったのにな、としばらく見つめていると、小さな子どもが夢中に自分たちの方に視線を集中させていることに向こうも気づいたのだろう。

目線が合うよう優しく膝を折り、訪ねてきた。

「僕、何才 ? 」
「8才です」
「じゃあ小学生だね、名前は何ていうの ? 」
「と、虎吉です」

なかなか家族のもとへ帰って来ない母が心配して走ってこちらに寄ってきた。

「どうもすいません。何かご迷惑をおかけしなかったでしょうか」と母が大人たちに尋ねる。

「いえいえ、可愛いお子さんですね。僕たちの方をずっと見ていたのでつい声をかけてしまいまして」

「それはすいませんでした。じゃあ虎吉、そろそろ戻ろうか」と答えた母の言葉を遮るように、大人たちがこんなことを言ってくれたのだ。

「虎吉くん、よかったらテントに帰る前に少し僕たちと花火して遊ばない ? 」
戸惑う僕を見て母が言う。
「え、いいんですか !? 」
「もちろん、小さな子がいてくれた方が僕たちもよけいに楽しいんで ! 」

そんなやり取りを経て、僕は大人たちと一緒に花火をさせてもらうことになった。よく見るとまだ若い大学生くらいの「お兄さん、お姉さんたち」だった。

火の付け方や花火の持ち方を優しく教えてくれ、「虎吉くん、上手だねぇ」などと褒めてくれる。
それは本当の優しさだった。子どもと遊ぶのが心底好きなんだろうなという無邪気な笑顔を終始見せてくれた。

何てかっこいいお兄さん、お姉さんなんだろう。自分はあんな大人になれるかな···。
こうして一夜限りのささやかな「花火会」は僕にとって生涯忘れない記憶になった。

花火が終わり母が、
「虎吉、お兄さんたちにありがとうは ? 」
「ありがとう」
手を振り去っていくお兄さんたちの表情には満面の笑みが浮かんでいた。

あの夜、鬱屈としていた幼い僕の心を救ってくれたお兄さんたちは今どこで何をしているんだろう。きっとそれぞれに悩み、苦しみ、自分なりの生き方に辿り着いているんだろうな。
いつまでも消えないあの日の花火のように。

僕は今でもその方々の背中を追い続けている。
いつまでもあの時のように輝いていてほしい。
今なお心に生き続ける僕の「永遠のヒーロー」なのだから。




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