星と鳥と風27~ゴリラーマン

これは犯罪になるので、詳しい内容は書けない。

Tはある方法で無限に自販機から、大量のジュースをゲットする事が出来た。
【それをバイクのメットインに入れるだけ入れる】
なんならお釣りまで帰ってくる。
そして原付きに二人乗りで、猛スピードで家に戻る。

実質タダで大量の飲み物をゲットする事ができるが
只の窃盗だ

【良い子は絶対に真似しないでね】

根が真面目な私は、なんだか気が引けて、それっきり、その方法は使わないでいた。

ある日、Sに
「星!ジュースが無限に取れる方法があるぜ」
と言われて、中学生の私ながらに事態を察した。
【きっと口の軽いTの入れ知恵だ】
しかも自分の家のスーパーでそれを試すSもSだが、ある日その方法をSがやってみせたら、自販機から警報が鳴り始めた。
Sは
「ヤバい!クソ飲料会社め!攻略してきやがった」
と、ぼやいていたが
私は内心ほっとしていた。

それに捕まらなかったのは、実家の自販機だからであって、本来なら
【少年院行き案件】
だ。
それから飲料会社が自販機に小型のカメラまで設置するようになったのはきっとTとSの悪事のお陰だろう。

【Sはいつもそのカメラに向かって中指を立てていたが】

今思うと、クレイジーすぎる友達と
 【犯罪】
というものが身近に溢れていたなとおもう。

そんなバカで能天気な毎日を過ごしていた私達だが、そんな我々にも
【天敵】
が2人いた。
1人はただただトラウマすぎて、書きたくもないのだが
もう1人、僕らの間で

【ゴリラーマン】
と呼ばれている
多分僕らの5つ程年上の男がいた。

ゴリラーマン。
皆様はご存知だろうか?

【ハロルド作石の代表作。 白武高校に転校してきたゴリラのような風貌を持つ寡黙な男子生徒・ゴリラーマンが、不良グループの同級生たちと学園生活を送りながら、ときには不良同士の喧嘩抗争を繰り広げる姿を描くヤンキーギャグ漫画。】
なのだが、それの主人公にそっくりなので
【ゴリラーマン】
と、Sが名付けた。

登下校を共にしていたSと私は
毎朝Sの家の前で待ち合わせをして、チャリで中学校に通っていたのだが、ゴリラーマンは、高校生で、登下校の時間が私達と被るためによく遭遇した。
スーパーの近くには【金物屋】があって、金物屋の外には公衆電話と、ガチャポン、エロ本の自販機があったのだが、ゴリラーマンは毎朝エロ本を買っていた。
私も彼が朝早くに、エロ本を買っている所を目撃した事は無限にあるので、私にとっては
【いつもの光景】

「あ〜またあいつ買ってるわ」
くらいにしか思っていなかった。

ある日Sが
「星!あいつ(ゴリラーマン)さ、夜中もエロ本買いに来るんだぜ」
確かにSの部屋は、通り沿いに面した2階にあって、スーパーから200m先の金物屋がばっちり見えた。

「あっそ、あいつも好きだね〜」
と、漫画を読みながら僕が空返事で答えると
Sは

「あいつ、買う時様子がおかしいんだよね」

「毎晩23:00頃に来るから、一緒に見てみてよ。星の家には俺から電話して、今日はウチに泊まるって伝えとくから」
と、言ってきた。

【家に帰るより涼しくて、デカくて豪華な家で、無限にポテチやジュースも頂けて、誰にも怒られずにゲームも楽しめて、何より大好きな友達の家に泊まれるんだから、中2のおバカな僕に断る理由などあるはずない】

ゴリラーマンは気掛かりだったが。

そうは言ってもそんな事を忘れて、僕らは夜中まで、ゲームを楽しんでいた。

「ガタン!!」

急に、ストアーの外の自販機辺りで、何者かが自転車を停めた音がした。

「キタキタ!ゴリラーマンだ!」
時間は24時を回っていたと思う
Sは興奮しながら
「気配を消すね」
と言って、部屋の電気を全て消した。

ゴリラーマンはまず、ストアーの前に設置してある自販機でコーラを買っていた。
そして
「プシュッ」
と、炭酸が入った缶を勢いよく開ける音と
「ゴキュゴキュ」
とハッキリそれを飲み干す音がして
「よし!バッチリ」
と言い放った。

Sも僕も
【何がバッチリなんだよ!】

ツボにハマりすぎて、必死に笑いを堪えながら、部屋でのたうちまわったのを覚えている。

それからゴリラーマンは、夏だというのに、フード付きのパーカーを着ていて、フードを被って、慎重にエロ本の自販機へと歩を進めていた。

時に軽やかに
時に忍者のように
時には007のように
たまに前転をしては、電柱に隠れて、通り過ぎる車から身を隠しながら一歩ずつ
彼はエロ本の自販機に辿り着く。

「おぉ!」
そのエロ本に懸ける情熱に、笑いすぎて涙目の我々は、拍手を送った。

【エロの力は凄い】

彼は用意してきたお札を、周りを気にしながらも自販機に投入した。
すると
もう一台の車がハイビームで自販機の方へと向かって行った。
慌てたゴリラーマンは、右に左に、不自然な動きをした後に、前転して電柱に隠れたが、きっとアレはバレバレだったはずだ。

ハイビームの車の正体はパトカーで、ゴリラーマンは見事に職質をかけられそうになっていた。
彼は一瞬慌てて逃げようとした所を慌てて降りてきた警察官に、柔道技で取り押さえられた。

【ただエロ本を買っていただけなのに】

だが、真夏にフードを被って奇妙な動きをするゴリラーマンは、確かに誰がみても立派な
【職質対象者】
であった。

我々は性格が非常に悪いことも相なって
それを見て、死ぬほど笑わせてもらった。 

「ね!あいつヤバいやろ!?」

その日は2人共、目の前で起きた異様な光景と、パトカーの赤いランプとゴリラーマンのエロに対する情熱のおかげで、あまり眠れなかった。

次の日は土曜日で、午前中だけ授業があったので、眠い目を擦りながら、Sのお母さんが作ってくれた目の覚めるほど美味しい朝食を頂いた。

朝食を済ませて下に降りると、ゴリラーマンが、僕らの目の前を通り過ぎた。

【あいつ昨日捕まらなかったんだ】

どうやら職質だけで済んだらしいゴリラーマンは、若干やけを起こしているように見えた。
いつもならあんなに気にしていた人目も憚らず、堂々と昨晩買い忘れた新作を買っていた。

「おーい!ゴリラーマン!お前エロ本買いすぎやぞ」
急にSが大きな声で叫んだ。

ピタっと
ゴリラーマンの動きが止まって
5秒程の時間が流れた

「うぉぉ」

【何者かの唸り声】

「うぉおおおおおおおおお!!」
と雄叫びを上げながら、ゴリラーマンはチャリに跨って僕らに突進してきた。

【ヤバい】

僕らも直ぐに自転車に乗って、ダッシュで学校の方へ向かった。

【あの時のゴリラーマンの顔は忘れられない】
血走って殺意すら感じる目、ダラダラと垂れたヨダレを気にすることなく、僕らを一点に追いかけてきていた。

【うぉぉおおおおおお!!】

「これはあいつに捕まったら何されるか分かったもんじゃないわ」
そう言うSに、「バカ」と言うのが一杯一杯の僕は、限界を超えて一生懸命チャリを漕いだ。
学校まではいくら急いでも15分は掛かる。

【僕とSは毎日、チャリで競争して、そのタイムを測っていたので正確だ。」

しかし、ゴリラーマンがすぐ後ろまで迫っていた。同時に学校も目前だったが、私はゴリラーマンの手が微かに私の自転車に触れたのが分かった。

【捕まる!】

そう思った時
500m先から、僕らの担任の先生が
「おーい!S!星!お前たち後5分で遅刻扱いだぞー!それに、後ろのお前は誰だー!」
と叫んだ。

ゴリラーマンは僕らをすごい形相で睨みつけながら、通り過ぎていった。

間一髪僕らは助かった。 

そんな昔話を、5年振りにSと電話で喋りながら思い出していた


大人しいやつは〜
そっとしておけ怒らせるな〜
一度キレたらそいつは
もう誰にも止められねぇさ〜

jimmyの歌が、頭で流れた。




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