星と鳥と風~1 クマさん
相も変わらず、中学2年の僕は
ダラダラと毎日を過ごしていた。
特べつ何かに興味を持っている訳でもなく
勉強は後ろから数えた方がいいくらいで
運動も中の上、初恋の人にも振られたばかり
全然良いとこ無しの、劣等生だった。
とにかく情熱のような気持ちが欠落していて
やりたい事なんて特別無かった。
(今もたまにそういう状態になるが)
教室の窓際を当てがわれた僕には
毎日の西陽が睡眠薬だった。
ベシッ!
「こら!星!お前また寝てるな!来週テストだぞ!また赤点取る気じゃないよな!?」
担任に定規で叩き起こされて
よく怒られた。
「まったくうるさい奴だ。
ミンミンミンミン蝉みたいに
本当にうるさい。
そんな一ミリも興味のないお勉強のお時間は
退屈で仕方なかったし、そんな蝉のような担任の声も、夏の音に紛れて、僕にとっては
【睡眠薬】
としての効果があるだけだった。
それにしても
【なんでこんなに思春期は眠いのだろう?】
それに、なんで僕はこんなにも、何にも興味がないのだろう?
そんな僕を心配した祖父は
ある日から家庭教師を付けたがったが
【僕は、それらを全力で拒否した】
冗談じゃない
見ず知らずの誰かが自分の部屋に来て
「オベンキョーオベンキョー」
また蝉のようにミンミン唱えるんだろ?
とんでもない。無理。絶対やだね。お金の無駄。
と言うと。
思い切り【孫の手】で叩かれた。
【正しい孫の手の使い方だ】
「バカタレ!このまま行くと高校受験を受かる見込みがないと、お前の担任から聞いたんだ!もう来週面接に来られるから、絶対に受けなさい!」
と、お叱りを受けた。
あー最悪だー
いやだー
勉強ばかりのガリ勉君?ちゃん?
の家庭教師か何か知らないが、
僕の部屋に?
絶対つまらなさそう〜
それに、学校から帰ってきてまでも
蝉との戦い。
「死ぬぅ」
が、正直な感想だったが
威厳ある祖父の決断からは
決して逃れられないことは
分かっていた。
(今考えると、相当有り難い)
【そしてその日はやってきた】
朝に親父から
「可愛い大学生が担当だとよ。良かったな。」
と言われ
中学2年のお猿な私は
満更でもない気持ちになった。
しかし
現れたのは
熊みたいな大学生で
しかも男だった。
愕然とした。
可愛い大学生でもなく
毛深いクマさんで
今からこのクマさんの圧力の元
勉強するなんて
地獄だ。
(大変、失礼)
だが
当時は正直にそう思った。
それに後ろの柱から
親父が僕を指差して
腹を抱えて、無言で爆笑していた。
親父は知っていたのだろう。
彼は安定の【悪魔】だった。
僕は、そんな悪魔を横目に
渋々クマさんを部屋に連れて上がった。
クマさんは、かなり毛深い腕にチョーカーのブレスレットを付けていて、髪の毛は葉加瀬さんのような髪型で、見た目も葉加瀬さんにかなり似ていた。
僕が、あだ名は
(クマさん)
か
(葉加瀬さん)
どっちがいい?
と聞くと、超高速で
(クマさん!)
と答えて
2人で爆笑した。
その掴みの一瞬で
クマさんとは打ち解けた。
「タバコ吸っていい?」
唐突にクマさんが質問してきた。
「あ、いいですよ」
と、僕が言うと
「君も吸いなよ。どうせ吸うんでしょ?吸わない訳ない顔してるよ。」
と、言われて、僕はなんだかほっとした。
クマさんはタバコを一服大きく吸うと
「ゲームある?」
と、聞いてきた。
「ゲームですか?今日は面接じゃ?」
「いいから、いいから、今日は顔合わせだし
それに、君こそ、全く勉強なんかしたくねー!
ってな顔してるよ。」
と、ニコニコしながなら
クマさんは答えた。
「まずはテトリスをしよう」
クマさんリクエストで
テトリスをやる事になったが
僕は、恐ろしい速さで負けた。
【テトリス、負けの速さのギネス】
があるなら、余裕で1番だ。
それに
クマさんはやり慣れてるし
コントローラーを操る指の動きが
明らかにおかしかった。
「そりゃそうだよ。
僕より年上で、頭も良いんだし
勝てて当然。
ずるいよ。」
と、言うと、クマさんは
「ハハハ!君の言うとおりだな。
じゃあ次は君の1番得意なゲームで勝負しよう。
そんで、負けた方が
最近、死ぬ程恥ずかしかった話をしよう。」
と、言ってきた。
僕は
【負けられない】
と感じ
クマさんとの戦いに
まだ誰にもそれほど負けた事はない
【マリオカート】を用意した。
(これなら負けるはずもあるまい)
僕には頑として自信があった。
「それで本当にいいの?」
クマさんはキョトンとしていた。
「負けたら、死ぬ程恥ずかしい話だよ?」
「僕はつまんない話しなんか聞きたくないから
先に聞いとくよ?」
*
「君は本当にそのゲームで
僕に勝つ気があるのかい?」
*
クマさんの圧力には魔力がかかっていた。
つづく