星と鳥と風9~ナイトナース

前回
小学校卒業までのざっくりすぎる流れを書いたのだけれど、【おまけ】でもう少し
小学校時代を回想しようと思う。

あれは激しく暑い夏の日だった。
僕は朝から隼人と一緒に僕の実家にいて
庭でサッカーをして遊んでいた。

家には休みの親父が【トド】のように寝そべって、TVを見ていたのだが
急に親父のポケベルが、けたたましく鳴り響いた。
それと同時に飛び起きた親父は
僕らに

「おい!クソガキ共!海にでも行くか?」

と言ってきた。

それを聞いた僕らは、「やったー!」と言って、喜びの舞いを2人で舞っていた。
なんせ住んでる所は山間の地域。
しかも1番の仲良しの親友と海にいけるとなったものだから、僕らの喜びの【舞】は頂点に達していた。

「早く準備しろ!」
すぐさま現実に引き戻されるほどの強烈なゲンコツが飛んできた。

痛たたた。
(まったく、この親父は本当に、、加減という言葉を知らないのか)
当時、親父の馬鹿力は半端じゃなく
片手でリンゴを握りつぶす程だった。

「早く乗れ」
そう言われて、バタバタと水着やお気に入りのおもちゃ(ウルトラマンのゼンマイ式で泳ぐやつ)をバックに詰め込んで
2人とも慌てて親父の車に乗り込んだ。

「おい、星!お前も隼人と後ろに乗れ!」と言われた。
(いつも僕は助手席だった)が
この日は後ろに回された。
親友と一緒に後部座席も悪くないかと
特に気にする事はなかった。

親父の車は当時やはりVIP車で
車にはサンルーフが付いていた。
サンルーフ越しに見える青い空と
夏らしい入道雲が
僕らの海への期待値を爆上げした。

「おじちゃん!これ開けて、頭を出していい⁈」隼人が親父に呼びかけた。

「おういいぞ!」と言ってサンルーフが開いた。

子供2人のぼくたちはそこから顔を出して
アホみたいな歌を歌ったり
暑い夏の日の太陽や風を浴びた。

地元だけど、少し離れた市街は
僕らにとって刺激的で
街の中に生えているヤシの木に止まった蝉は
ミンミンと【魂の雄叫び】をあげていた。

途中マクドナルドでドライブスルーして、
2人でテリヤキバーガーを頬張り、遅めの朝食を取った。よく冷えた車内で食べるバーガーと、コカコーラは幼い僕らにとってはご馳走だった。

しかし車は一向に海に向かう気配が無く、はしゃぎすぎた隼人は隣でうとうとしていた。
すると親父はますます海とは関係ない住宅地に入っていった。
そして、あるマンションの横に車を横付けして、徐にポケベルを打ち出した。

するとすぐに「ガチャ」とマンションの扉が開く音が聞こえ、降りてきた女性らしき人と会話をしていた。まだまだ背も小さな僕の位置からはどんな人か見えなかったが
話を終えてすぐに

「お邪魔しま〜す」と言って、助手席に乗り込んできた。

振り返って、「こんにちは」と言ってきたその女性は、歳にして27~30くらいの女性で、髪は茶髪で巻髪のロングヘアーで、良い香りを放っていた。

そして子供の僕らでもわかるほどに
【べっぴんさん】
だった。

Sと僕は一瞬(誰?)となって、目を見合わせたが、幼い僕らにとって興味があるのは
【海】だけだった

「君達小学生なの〜?」
お姉さんは車に乗っている間
僕らに色んな話をしてきていた。
物腰の柔らかな喋り方
話の引き出し方
話の巧さ
今更ながらどう考えても
【夜のお姉さん】件
親父の
【ナイトナース】だったのだろう。

一気に不思議な組み合わせで海に向かう事となったが、よく見るとお姉さんはまだ3.4歳の女の子を抱き抱えていた。

【その子が恐ろしいほどに可愛かった】
そして人懐っこい子でもあったので、後部座席で一緒に遊んだりしていたら、僕らを乗せた車はあっという間に海に到着した。

「おい!着いたぞ!」
相変わらず、ぶっきらぼうな話し方だが、心なしか親父の言葉尻のトーンは上がっていた。

車から降りて周りを見渡すと
地元の綺麗な海は、シーズン真っ盛りな事もあり、沢山の人達で賑わっていた。一刻も早く海に触れたかった隼人と僕は、早速その場で着替えた。
まだあまり泳げない僕達は、波内側ではしゃぎまくっていたのだが、そこに親父が際どい水着に着替えたお姉さんと登場した。

「おい!星!お前、ちゃんと泳げるようになったのかぁ?」
と親父は僕を抱えて沖に泳ぎ始めた。
足のつかない場所が恐怖な僕は
「いやだ!やめて!」
と抵抗したが
親父はニヤニヤしながら
沖に設置してある 
【休憩所?溺れないように、発泡スチロールで出来たその場所】に
僕を置いた。

「自力で泳いで帰ってこい!誰も助けに来ないからな!」そう言って親父はみんなのとこに泳いで帰って行った。

「悪魔だ」
あの人にはそういう所があった。
僕はそんな理不尽さが大嫌いだったし
当時親父を【本物の悪魔】だと思っていた。

とはいえ、早く沖から脱出したい小さな僕は、恐怖で足をガタガタ振るわせながら、脳をフルに回転させた。

つづく



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