星と鳥と風6~Tちゃん
ある日僕は父が運転する車の助手席に座っていた。
父は当時黒塗の、(グロリアY30)という、いかにもな車に乗っていて、頭もリーゼントをポマードでかっちりロックしていて、18金のゴツいネックレスが、虎柄のシャツの中からちらちら見え隠れするような、【The 昭和のや◯ざ】な出立ちだったにも関わらず、意外にも車の中でかかっているカセットテープはメロウで男女がテーマな邦楽POPs が多かった。
【なんなんだそのギャップは!】
と
実の息子の僕でも心の隅で思いながら、同時に憤も感じていた。
周りの友達達も、TVで流れる今をときめく邦楽にしか興味が無かったし、僕自身も初めて買ったCDは、【だんご3兄弟】だった。
しかも以前お伝えしたように、僕は丸い物にしか興味が無かったので、だんご3兄弟のフォルムにしか興味は無かった。
ジャケ買いってやつかな?
ただ歌うことは何故か大好きだった。
小学校6年生の頃の話
同じクラスにTちゃんというスーパーキッズがいた。
Tちゃんは女の子では無く男の子なのだが、音楽の才能に恵まれていた。ギターだけでは無く、ベースも、ドラムも叩けたし、曲を耳コピするだけでは無く、一度聴いた楽曲はすぐにアレンジして再現出来るような、まさに【スーパーキッズ】だった。
ある日学校の遠足でぼくらは登山をする事になっていた。
六年生だけで3クラス程なのだが、Tちゃんとは同じクラスで、その日はバスで移動だった事と、席が隣りな事、現地に着くのに2時間半という時間があった事も合わさって、沢山色んな事を話したりした。
仲が悪いわけでは全然無かったが、同じクラスだったのにTちゃんとはこれまで喋る機会がなかった。
Tちゃんは音楽が大好きで、殆どが音楽の話しだった。
何を思ったのか僕はTちゃんに、◯◯イは歌えるよ!と言った。
父も歌う事が好きで、たまにカラオケに連れて行ってもらっていたのだが、「星は歌が上手いな!」と、父に少し言われただけで、人に自慢し始める、今思えばお調子者だったと思う。
Tちゃんは嬉しそうに、ニヤニヤしながら、「今それ、聴かせてよ」と言ってきた。
僕「今!?」
僕「アカペラで?!」
T「そう!いいじゃん!聴かせてよ」
あまりの推しの強さに負けたのと、満更でもなかった僕はバスの窓際の席で、皆んなに聴こえないように歌った。聴こえないようにと言っても、バスの中はカオスだったので、あまり気にする必要は無かったが…
「バンドやろうよ」
歌の感想を聞く前にTちゃんにそう言われた。
【まぎれもなくこれが僕の音楽人生の初まりだった】
「え?!バンド⁈」
「そう!コピーバンドしよう」
「星がベースとボーカル、俺がギターで、、あとはドラムがいれば、今度の卒業発表会で演奏出来るね!」
唖然と、あんぐり口をしていた僕の口に人差し指を入れてきて
「おーい!聞こえてますか〜?」と尋ねてくるTが何故か天使に見えた。
そして、名もなき、ギター以外素人以下の小学生バンドが誕生した。(名前はあったが、忘れた)
ドラムもいないけどね。
それにしても僕たちは卒業まで後3週間程しかないのだ。
それから毎日学校が終わるとTちゃんの家に通って、ベースの練習をした。譜面も読めないし、コードも分からない、そんな僕にTちゃんは、指の形の作り方で鳴る音も同時に覚えさせた。
「星は耳がいいから、鳴ってる音は分かるでしょ?後はその指が正しいかどうかだよ!正しければその音が鳴る。簡単だよ。」と言い放ったが、そんな簡単なはずは
無かった。
なかったが、それでもズブな素人がほんの1週間程で一応曲は弾けるようになったのだから、Tちゃんはやっぱり凄い。
いつも夜中まで練習をして、指の皮が何度も剥がれて痛かったのを覚えている。
僕がおぼつかないベースラインを弾き、Tちゃんが上手に合わせてギターを弾くと、たちまち
【イケてる】気分になった。
それに、音と音が交わると、どこかにぶっ飛ばされるような、快楽のような不思議な感覚もあった。
【音って、ヤバい!】
全身の毛穴が逆立っていた。
説明のつかない、形のない、【音】という生き物を知るきっかけには充分な材料だったと思う。
それから、無事ドラム経験のあるFも加入し、いよいよ僕らは、卒業式を迎えるのだった。
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