見出し画像

ルックバックをルックする。

映画「ルックバック」がAmazonPrimeで配信されました。話題になった今作を観ました。
ルックバックをルックする。
見るという動詞とするという動詞が重なり、どうしようもありません。
冗談はさておき、このルックバックという映画は話題になるだけあり、それはもう心を掻きむしりたくなるほどの感動を与えてくれました。

※ネタバリあり

ルックバック直訳すると背後を見るという意味でしょうか。
絵が得意で学級新聞で漫画を描いている藤野は不登校で引きこもりの京本と出会います。
藤野は京本の絵のうまさに自信を失い漫画を一時辞めます。
小学生を卒業したとき、藤野は卒業証書を渡しに京本の家に行きます。
そこで京本は実は藤野のファンであるとの告白をうけます。
意気投合した二人は漫画家を目指します。
原作はチェーンソーンマンの藤本タツキです。
短編漫画でお話としては短いです。
よくこの短いお話を一時間近い映画にしたものです。しかもよくあるアニメオリジナルを入れて話を膨らませたのではなく、基本的には原作漫画と同じストーリー展開です。
ではどうやって話を長くしているのか。
それはキャラクターの感情表現です。
藤野の口の動きなんかはリップシンクしているのではないでしょうか。
口の動きが人間とほぼ同じです。
また藤野が京本から褒められて家に帰るシーンでは躍動感溢れる動きと景色の変化が見れます。
ルックバックというタイトル通り、テーマは背後だと思われます。
映画の中ではよく藤野の背中が映し出されます。
時間の経過が藤野が描きためたスケッチブックの積み重ねで表されています。
セリフは比較的少なめです。
キャラクターの動きで感情が表現され、背景の変化で時間が表されています。

藤野と京本は順調に漫画家への道を進みます。
二人で漫画の賞金を片手に都会に遊びに行くところは女子同士の友情が見れて心が温かくなります。
しかし、常に藤野の背中を見ていた京本が別の道に進みたいと言い出します。
ここで二人は袂を分かちます。
このあたり藤野のセリフは本当に人間くさいです。
京本と別れたくないという友情の感情と、成功のためには彼女才能が必要だという打算的な感情がごちゃごちゃに混じり合っていると思われます。

別れたあと京本は美大に進学します。
美大で優秀な成績をおさめる京本に
不幸が訪れます。
突如、京本は凶刃に倒れるのです。

漫画家として成功していた藤野に京本の訃報が知らされます。
自分が漫画に誘わなければ京本は死ななかった。
後悔が藤野を支配します。
ここでタイトルのルックバックのもう一つの意味が出てきます。
京本が後ろを見ず(ルックバック)に自分のことを無視すれば、彼女は生き残ります。
もう一つの世界線が始まります。
漫画の道に進まずに姉のすすめで空手を始めた藤野は京本を犯人から救います。

この犯人は自分の絵を盗作されたと思いこんでいます。こんなことが現実にもあります。アニメスタジオに放火された事件を否応なく思い出させます。理解不能な動機で犯行に及ぶ人間は実在するのです。これは決して漫画やアニメだけの話ではないのです。

個人的にはここでストーリーを終わらせてもいいと思いま。
藤野は京本を失わずに友達となり、同じ夢を目指す。そういう世界線があってもよかった。
でも物語は藤野の元から京本を連れ去ります。
それでも藤野は漫画を描き続けます。
それはクリエイターの宿命でしょう。
どんな状態になったとしても創作をやめることはできない。たとえ唯一心を許した親友がこの世を去ったとしても。
藤野のどこか寂しそうな背中と都会の風景がラストに映し出されます。
主人公の藤野は夢を追い続けるのでしょう。
クリエイターとはそういう生き物なのです。

ルックバックという映画はわずか一時間という短い間に心と感情を何度も揺さぶられます。
一番好きなシーンは藤野が京本の手を引き、都会を走るシーンです。二人は実に楽しそうに笑顔で見つめ合い、人混みのなかを走ります。
京本を振り返り見る藤野。
藤野の背中を笑顔で見る京本。
二つのルックバック。

人は誰かの背中を追いかけ、いつか追い抜く生き物だと思います。
人生一度は後ろをみる、ルックバックしてもいいでしょう。伸ばした手を掴んでくれる人がいるならばそれは幸いでしょう。

いいなと思ったら応援しよう!