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顕在化していないニーズを言語化するための顧客インタビューの極意
こんにちは、いまふく(@happy_imafuku)です。
私は、株式会社リンケージというに入社して法人向けの新規プロダクトの立ち上げを2回経た後、現在はリリースから6年ほどになるプロダクトのプロダクトマネジメントをしております。
事業開発やプロダクトマネジメントにおいて、顧客との対話は大変重要であり、そのスキルによって事業の命運を左右するといっても過言ではないと思っています。
なぜならスタートアップが失敗する最も多い原因は、顧客のニーズがないものを作ってしまったこと、すなわち顧客から潜在的なニーズを引き出せなかったためです。
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職種柄、顧客インタビューをする機会が多く、新しいテーマのインタビューをする度に毎回書籍を読んで要点を思い出していたのですが、そろそろ自分の経験も踏まえて言語化したいと思い、BtoBの顧客インタビューでやるべきことや意識すべきことについてまとめていきます。
なお以下の書籍を参考にしておりますので、気になる方はぜひ一度読んでみてください。
前提
このnoteでは「顧客」という言葉は「カスタマー」という意味で使っており、お金を支払ってプロダクトを導入いただく法人や団体等の取引先を指します。
リンケージの事業体がBtoBtoE(Employee:従業員)であるため、真ん中のBである「顧客」は必ずしもプロダクトを触る「ユーザー」であるとは限りません。
顧客インタビューの流れ
では実際の流れに沿って、それぞれでやるべきことや意識すべきことをまとめていきます。
私は毎回、以下のような流れで顧客インタビューを行っております。
計画
準備
実施
分析
Step1. 計画
まずは、インタビューの計画を立てるところから始まります。
具体的には、3W1H(Why、Whom、What、How)をそれぞれ考えていきます。
Why(目的は何か)
目的を明確にしておかないと顧客に伺う内容や顧客から得る情報にブレが生じてしまい、自己満足にしかならなかったということになりかねません。
インタビューを実施するのは、時間も労力もかかります。
なぜ貴重なリソースをインタビューに充てるのかを、常に意識できるように言語化することが大切です。
これまで私が行ってきたインタビューはテーマによってもその目的は異なってきましたが、根底には
「顧客の思考や行動の解像度を高めることで、顧客が本当に欲しいもの(お金を払ってでも解決したいもの)を知るために、顧客の奥深くに眠る顕在化していないニーズを言語化するため」
という目的があります。
Whom(誰に聞くか)
目的が決まったら、誰にインタビューするかを決めます。
既に仮説となる課題や想定しているターゲット顧客が決まっていると思いますが、その中でも「イノベーター理論」でいう”イノベーター” や ”アーリーアダプター”(エバンジェリストカスタマー)と呼ばれる、不都合な状態に対して敏感で積極的に解決策を探している方々に話を聞くのが最適です。
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彼らは、不都合な状態を言語化したり、それを解決するための代替案に対して批判的な意見を持っていることが多く、非常に参考になります。
ではどうやってそういった人を探すのかというと、方法は多種多様ですが、例として以下のようなやり方があります。
(すぐにできるものから順番に並べていますが、下にいくほど想定しているような人物に辿り着きやすくなります。)
既存顧客から探す
SNSの検索で探す
SNSのグループに入る
友人・家族・知り合いで探す
社内で探す
友人・家族・知り合いからの紹介
顧客からの紹介
スポットコンサルティング(ビザスク等)
現場に赴く
コミュニティへの参加(カンファレンスや展示会等)
What(何を聞くか)
誰に聞くかが決まれば、実際に何を聞くかを決めていきます。
顧客も顕在化していないニーズを言語化するために「どんな課題があってどんな状態になりたくて、そのために何をしているのか」を聞いていきます。
今抱えている課題
時間や労力をかけていること、面倒なこと、不満やストレスを感じていることは何かを尋ねると答えやすいです。
本当はどうなってほしいかという理想の状態
現状と比べてどれくらいのギャップがあるかを把握できます。
そのために実際に行っていること(代替案)
もし何もアクションをしていないのであれば、本当に困っていることではない可能性が高いです
その場合、インタビューの相手として適切でない=エバンジェリストカスタマーでない可能性もあります。
代替案をとるに至った思考や意図
行動と思考はセットで聞くことで、その人が本当に求めるもの(潜在的なニーズ)が見えてきます。
代替案にかけているリソース(お金や工数)
どれくらい困っているかという程度を知る指標になります。
代替案の不満な点
代替案の課題を把握できます。
また、質問を考える際は以下のようなことを意識しています。
ファクト(事実)を具体的に聞く
現在の行動にヒントがあることが多いので、5W1Hを意識してできるだけ具体的に聞きます。
定量的に表現してもらう
感覚や印象では認識に違いが生まれかねないため、定量化できるところは数字で表現してもらいます。
例)
頻繁に→週に1回
徹底的に→約2時間かけて
とても困っている→10段階でいうと9の痛み
場合分けを想定する
スムーズに深堀りができるように、顧客の回答によって質問内容を変えられるようにしておきます。
誘導尋問をしない
答えありき(自分たちのソリューションありき)の質問をしても、顧客の本音は引き出せないため、回答を誘導するような聞き方をは避けましょう。
浅い(答えやすい)質問から、深い質問にしていく
いきなり深い質問をして、顧客が戸惑わないようにします。
その質問を聞く目的を明確にしておく
本当に聞く必要があるかを考えるきっかけになります。
またインタビュー現場で質問の要否が判断しやすくなったり、聞き方を変えやすくなります。
各質問に優先順位(三段階)をつける
P1:必ず聞く
P2:可能な限り聞くが、その場での質問を優先する
P3:時間が余ったら聞く
How(どのように聞くか)
インタビューには3種類ありますが、顧客インタビューでは効率性と柔軟性を併せ持つ「半構造化インタビュー」を行います。
構造化インタビュー
事前に質問を決めておき、その通りに質問していくやり方
非構造化インタビュー
インタビューする項目を決めずに、自由に質問していくやる方
半構造化インタビュー
事前に決めた質問と、インタビュー中に思いついた質問を適宜していくやり方
事前に考えた質問のみでよければ、そもそもインタビューである必要はなく、工数がかからず回答数も集めやすいアンケートの方が適切なはずです。
インタビューではその場で想定してない質問を通して顧客の行動と思考を深掘ることで、顧客の潜在的なニーズを得るヒントを得やすくなります。
そのため、質問数は必要最低限にして、事前に調べて分かることは聞かないようにしましょう。
先ほど挙げた、質問の目的を考えたり、質問に優先順位をつけたりするのは、その場での質問を重要視しているためです。
また、インタビューは顧客が周りに気を遣って本音を言いづらくならないように、できる限り1対1で行いましょう。
Step2. 準備
計画を立てたら、実際にインタビューをするための準備をします。
インタビューしたい顧客にコンタクトを取り、WhereとWhenを決めていきます。
Where(どこで聞くか)
私の経験上、可能であればオフライン(対面)で聞くことが望ましいです。
なぜなら、顧客の反応や表情、声色からも顧客のニーズにつながる貴重な情報が得られることが多く、対面の方が画面越しよりもそれらをはっきり認識することができるからです。
またオンラインだと顧客がこっそり内職をする可能性もあり、インタビューに集中していない状況になりやすい印象です。
ただオンラインは、気軽さという圧倒的な強みがあります。
そのため「できればオフラインがいいけど、オンラインも対応可」くらいの心持ちが最適であると思っています。
When(いつ聞くか)
顧客に無理をさせないよう、約2週間先の日程で調整をしましょう。
またインタビューの実施期限や、結論を出す期限がある場合はそれも踏まえて、早めに顧客に声をかけておきます。
Step3. 実施
計画・準備の時点で顧客インタビューが成功するかは6〜7割決まっていると思っています。
それくらいインタビューは事前の準備が大切であり、何も得られない悲惨なインタビューにはなることはまずないです。
ただより深い情報を得るためには、その場での意識や振る舞いが非常に重要になってきます。
ポイントとしては、とにかく顧客が本音を話しやすいような雰囲気・関係性をつくることです。
私は以下のようなことを実践しています。
インタビューの冒頭で、より本音で語ってもらえるように「商談ではないこと」「率直な意見を求めていて何を言われても傷つかないこと」を伝える
「何か買わされるかもしれない」「こんなことを言ったら失礼な人と思われるかもしれない」といった、本音を話す際に邪魔になる思いを抑制するためです。
インタビューの冒頭で、事前に調べた顧客に関する情報をさりげなく混ぜながら会話する
例)
ネットにあったインタビュー記事を読んで知ったのですが、、
所属されている企業では最近、、
顧客の弟子になって聞くことに集中する
顧客が語りたくなるように教えを乞う姿勢で、聞きましょう。
そもそも論や素朴な疑問も、無知な弟子として聞くと答えてもらいやすいです。
なおインタビューの中で「今話をしていて気付いたのですが、実は、、」といった発言があれば、そこにヒントになるインサイトがある可能性が高いので、注意深く聞きましょう。
オーバー気味にリアクションをする
めちゃくちゃ笑って、相手の心を開きましょう。
めちゃくちゃ頷いたり、声を出して驚くと相手は話していて気持ちよくなります。
「なるほど〜、面白いですね。もっと詳しく教えてください」という感じで、興味・関心を持っていることを全面に出すと、もっと話そうという心理になります。
顧客の話を確認しながら進めることで聞いていることのアピールをする
顧客の発言を繰り返したり、顧客の話を要約をすると、顧客は自分の話を真面目に聞いてくれていると認識して、さらに話をしたくなります。
自分の理解や認識が合っているかの確認にもなるので、一石二鳥です。
間を我慢する
顧客が沈黙している際、つい気まずくて途中で声をかけたくなりますが、顧客も必死に考えている可能性が高いので、我慢して自分も黙っておきましょう。
もし20秒以上答えが出てこなかったり、回答する気がなさそうでれば、質問内容を繰り返したり、回答例を伝えたりしましょう。
ただし回答例を出すと誘導尋問になりやすいので、最終手段として尋ねましょう。
顧客のミスや誤りは、すべて自分の非と捉える
顧客の「申し訳ない」という気持ちは本音を話す上での障壁になるので、できるだけそういった感情が起こらないように配慮します。
質問内容と異なる回答が返ってきたり、相手が聞き取れずに聞き返してきた場合などは、自分のインタビューのやり方に原因があることを伝えて謝りましょう。
また、質問に対する回答を受けて、顧客がエバンジェリストカスタマーに該当しているかどうかを判断することも重要です。
なぜならエバンジェリストカスタマーでない方にインタビューをした場合、往々にして有用なインサイトを得られないケースが多いためです。
表情や仕草、態度、発言が課題に対して前のめりでなく、エバンジェリストカスタマーと思われない場合は最低限の質問で済ませたり、将来顧客になるとしたら、、といった文脈での質問を行います。
Step4. 分析
インタビューが終了したら、インタビューで得た情報をもとに「潜在的なニーズ」を言語化するために考察を行います。
インタビューのメモは体裁を考えずにメモしていると思うので、インタビュー終了後の記憶が新しい内に体裁を整えます。
その後、インタビュー数が溜まったら(最低5人、できれば20人以上)、KJ法による分析を行います。
KJ法とは、1967年に発売された文化人類学者である川喜田 二郎の著書『発想法』に出てくる分析手法です。
古典的な方法ですが、アイデアの整理だけではなく、本質的な問題の特定や課題の発見、新たなアイデアの創出につながることが分かっています。
(参照:マネーフォワード クラウド給与)
ただ単に聞いたことを文字起こしするだけでは、潜在的なニーズを言語化することは難しいです。
インタビュー内容を分析することで、建前やリップサービス、表面的な素人分析といった「ノイズ」の奥から潜在的な課題や真因を引き出すことができます。
KJ法の手順は以下の通りです。
インタビューデータを集める
データを細かい単位(粒度)に分けて、それぞれ付箋に書く
付箋をホワイトボードや机に貼って、共通点や関連性のある付箋を近くに置いてグループ化する
表面的な単語で単純にまとめるのではなく、「So what?(つまりこれはどういうことか?)」という思考で抽象化した上でグループします。
グループごとに適切なラベル(名前)を付ける
グループ同士の関連性を書き出す
線で付箋同士をつないだり、囲んだりして関係性を可視化します。
対立、因果関係、原因・結果などの関係性を矢印などで書き表します。
課題の真因を言語化する
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おわりに
顧客インタビューは時間も労力もかかりますし、気楽にできるものでもないです。
ただ、顧客の潜在的なニーズを引き出す最も有効な手段であり、大変だからこそ競合も十分にできてない可能性があり、やることの価値が非常に高いです。
備忘的にまとめてきたので、多少雑な部分はありますが、少しでも顧客インタビューをする上での参考になり、素晴らしいプロダクトを生むきっかけになれば幸いです。