【詩】白堊
尊かろうが、尊くなかろうが、生まれてしまえば同じことだよ。細胞がひとりでに増殖して、そのたび生まれ変わること。無為に印刷された白紙みたいだね。冷たく見下ろすような目をした人たちの足元に、ばらばらばらばら散らかっていて、いつか「増えすぎたから、もう捨てちゃおうね」って言われるのが怖いから、ぼくたち、インクをまき散らすみたいに人を傷つけている。自らが持てる限りの無彩色であちこちを汚そうとして、書き殴るみたいに二度と消えない傷跡をつけようとして、けれども、いくら傷つけてもみんな、単にぼくたちの周りから霞のように消えてゆくだけだから、ぼくたちは、ただぼくたち自身によく似た無地の空を、茫然と眺めているだけだった。辞書に載っていたルサンチマンという言葉に慰められて、ぎりぎり立っていられること、強いか弱いかなんて本当のところ、まるっきり分かってなんかいなくて、みんな、なにを考えているのかさえも分からないから、なんだかぼくたち、そこら中に立っている街灯よりも、真っ白い壁よりも、この世界のどんな無機物よりも、ずっとずっとよわよわしい存在みたいだね。
ねえ、だったらさ、ぼくたち重なり合って、ただみんなの前に聳え立つ白堊になろうよ。人間でいるより、もっとみんなのことを傷つけられて、それで、もっとぼくたちのことを見てくれる気がする。ぼく、本当は知っているんだ。人間は、自分の一番大切な人よりも、ずっとずっと長い時間、なんの変哲もない壁を見ていること。この世界ぜんぶの愛は、ただの白い壁に吸い込まれてゆく。