【詩】57
これ以上ないくらい単純な言葉で、救われたかったのだ。花火が打ち上がって、そのあいだに銃殺される誰かのこと、気が付かないまま、打ち上がる花火の綺麗さばかり見つめて、視界が、万華鏡みたいに鮮烈に染まっていたから、この世界のぜんぶは代用がきかないんだと、わたしは、気持ちよく唄っていた。きみの物語なんて、どうでもいいんだよ、と、そんな感情がわたしの心のどこかにあったとしても、それが解剖されて打ち出されることなく、純粋なふりをしていられるあいだ、他人の死だって忘れることができる。わたしたち、おんなじことばかり言ってるけれど、おんなじことばかりしているけれど、それすらも気にならないくらいに花火はこの瞬間、鮮やかに光っていて、理論さえも置き去りにする。愛とか恋とかの外側にある風景。「ぼくたちはね、みんな唯一無二の存在なんだ。素数みたいに割り切れなくて、誰ひとりとして代用のきかない、そういう特別な存在なんだよ」なんて、どんな顔して言ってるんだろう。すべての言葉がこの瞬間、何も特別じゃない残滓みたいに空に打ち上がって、綺麗、綺麗でした。