【詩】礫
綺麗になりたい
姿形が整っているだとかそんなことではなくて、
宝石みたいに輝いてるだとかそんなことでもなくて、
ただただ透き通っていて、匂いもなくて、どこまでもどこまでも水平線みたいで、きみたちの世界の検索にもまったくかからない、誰もわたしを認識しようとすることなく、ただ真水みたいに、不純物の一切もなく、たんぱく質でもないなにか。
真水に比べたらみんな不純物だよ、とわたしは叫んでいる。
それは自分が純粋でないと嘆く誰かに対して、人間は不純なところも含めて素晴らしいのだとか、そういうことを説きたいから言うわけではもちろんなく、ただどこにも向かわない言葉として叫んでいるのだ、人間はどこまでも尊いのだと神様ぶった誰かが言うから、それに苛立って叫んでいるだけ、そしてそんな言葉がわたしは、世界で一番綺麗だと思っている。
この世界で一番純粋でないものは、意味のあるものではありませんか?教訓めいたものなんてちっとも透き通っていない、赤潮に染まった海水みたいだ、それで、人生もきっと同じくらい濁っていて、だからこそ人生にはどこまでも意味があって、でもそのことにはみんな気づかない。人生は美しいから意味があるのだと、毎日人が死んでゆくのに気づかないまま、そうひとつの公式を唱えるみたいに言っている。わたし、誰かから好かれるような容姿なんてどうでもいいから、人生の意味なんていらないから、誰かが他人に意味づけられ傷ついている横で、一生、きみに吸われることのない空気になりたいと思っていた。
けれども、そう思っていながらも、わたし、磨かれることすらないただの砂粒の一つに過ぎなくて、それでも、子どもたちが毎日砂場で遊ぶから、その砂粒ひとつひとつにも意味があるんだ、なんて言われるわたし、きっと世界中すべての人の下位互換だ。
意味のないものになれないなら、せめてわたしは、その鋭さで人を殺せるくらいの、一介の礫になりたかった。