【第170回直木賞候補作品 受賞作予想&感想】
半年に一度の直木賞、今回は明日、1月17日に発表予定です。
前回は全作品読み切れないまま、発表日を迎えてしまったのですが、今回は発表日前に、6冊のノミネート作品を全て読破することが出来ました。
全作品とても面白かったので、なかなか困難なのですが、受賞作を予想してみたいと思います。
《個人的な好みランキング》
『まいまいつぶろ』 村木嵐
『なれのはて』 加藤シゲアキ
『ラウリ・クースクを探して』 宮内悠介
『襷がけの二人』 嶋津輝
『八月の御所グラウンド』 万城目学
『ともぐい』 河﨑秋子
どの作品もすごく面白かったのですが、個人的な私の好みだけで順位づけすると、こんな感じになりました。
ノミネート作品が発表される前から購入していた本は『襷がけの二人』の一冊だけでした。
ノミネートされていなければ読まなかったであろう作品もいくつかあったので、一つひとつの作品に出会わせてくれた直木賞に感謝です。
《受賞作予想》
『まいまいつぶろ』 村木嵐
『なれのはて』 加藤シゲアキ
『ともぐい』 河﨑秋子
上記の3作品のうち、2作品が受賞するのではないかと予想しています。
『ともぐい』は、たまたま私の好みではなかったのですが、圧倒的な作品のチカラを感じたのは事実なので、きっと評価されると予想。
純粋な作品だけの評価だと『なれのはて』は、きっと入ってくると思います。
アイドルが書いた本を売りたいから下駄を履かせるのでは?というような事も言われているようですが、読めばわかると思いますが、そういう事は関係なしに完成度の高い作品でした。
ただ、加藤シゲアキさんの所属事務所がネックになることはあるのかも…。
その場合は『まいまいつぶろ』と『ともぐい』かな。
事務所問題が関係なしと判断されれば『なれのはて』と『まいまいつぶろ』または『ともぐい』になるのではないでしょうか。
《追記:実際の受賞作は…》
実際の受賞作は、
『ともぐい』 河﨑秋子
『八月の御所グラウンド』 万城目学
の、2作品でした!
『ともぐい』の受賞は当てる事はできましたが、『まいまいつぶろ』『なれのはて』は外れてしまいました。
『八月の御所グラウンド』は、面白かったですし、読後感もとても良かったのですが、直木賞を受賞するタイプの小説には感じなかったので、意外でした…!
《各作品の感想(読了順)》
◆『ラウリ・クースクを探して』宮内悠介
ソ連時代〜現代までのエストニアが舞台で、プログラミングの申し子ラウリ・クースクが主人公。
エストニアがIT先進国となった立役者の半生記的な話なのかな?と思いきや、まあまったくの無関係ではなかったけれども違いました。
思った話と違ったけど、とても面白かったです!
そして、この題材を小説にして、面白く仕上げる腕前がすごいなと思いました。
IT先進国家としてのコンセプトが『情報空間に不死を作る』であり、それは大国の支配を受けてきた歴史から学んだ結果であることや、民族問題、民主化が作った格差など、色々知る事が出来ました。
◆『襷がけの二人』
時代設定も主人公たちの年齢差も全然違うのだけれど、一穂ミチさんの『光のとこにいてね』に似ているな、と感じました。
主人公の千代とお初さんの関係性や、ソウルメイト感がとても似ているんです。
時代は戦前から始まり、戦後まで。移りゆく時代の中で、その関係性だったり、二人を取り巻く人間関係、日常の暮らしにフォーカスしている物語でした。
今と違って情報が簡単に手に入らないし、自分の意志で結婚するのもままならない時代でしたが、この二人が出会って大切に育んでいたものは、友情を超えて昇華された愛のひとつの形なのだと思いました。
◆『八月の御所グラウンド』万城目学
直木賞候補作に挙がったとのことで、久しぶりに万城目学さんの作品を読みました。
以前読んだ作品は確か『プリンセス・トヨトミ』だったかな?『偉大なる、しゅららぼん』は読んだか記憶になく、とにかく10年以上振りだと思うので印象しか残っていないのですが、今作では以前の作品の『ハチャメチャ感』が薄れ、良く言えば読みやすく、悪く言っちゃうと少し個性的でなくなったように思いました。
若者が主人公で、スポーツを題材にした2作品、爽やかな読後感を得られる一冊だったなと思います。
表題作も良かったけど、駅伝の話の方が好みでした。
◆『まいまいつぶろ』村木嵐
江戸幕府九代将軍の徳川家重と、脳性麻痺のため不明瞭だった家重の言葉をただ一人理解出来たという、側近の大岡忠光、2人の友情と信頼の物語。
歴史の授業では、平和で重要事件もなくスルーされていた九代将軍時代なので、家重についてはほとんど何も知らず、先入観なしで読めました。
それが良かったのか、ものすごく面白かったです。
特に、家重目線の記述があまりないというのが、作り話っぽくなくて良かったです。
歴史的にはドラマが少ないとはいえ将軍なので、掘り下げると色々ある、そんな生涯が丁寧に描かれていて、素晴らしいと思いました。
◆『ともぐい』河﨑秋子
帯に『熊文学』と紹介されていて、熊文学??何それ?というのが第一印象でしたが、とにかく読み進めました。
舞台は明治時代の北海道の山奥。
猟師の男が主人公で、彼と熊との死闘や、数少ない人間との出会いを通して、生とは、生きることとは何なのか、という事を読者に問い続ける作品です。作者の向き合った『何か』を描き切ったな、ということが強く伝わってくる作品だったと思います。
直木賞の候補に挙がらなかったら間違いなく読むことはなかっただろう作品ですが、とにかく主人公や動物たちの生々しいまでの在り方に、圧倒される一冊でした。
◆『なれのはて』 加藤シゲアキ
めちゃくちゃ面白かったです。
一枚の絵から少しずつ明らかになっていく家族の物語。
ストーリー性が高く、ミステリーとしても面白かったし、時代を超えて様々な人のドラマを描く群像劇としても読み応えがあったと思います。
登場人物が多いので、相関図や一覧などを作りながら読み進めた方がわかりやすいかもしれません。
また、文章に癖がなくて読みやすかったです。
この作品の良いところは、自閉症や犯罪、戦争の傷痕など、ネガティブな要素を社会問題として扱うというよりも、そのまま受け入れる形で物語に組み込んでいるところかなと思いました。