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サンポ文学 第十六話

夜の桜を観に行くことが出来ないと、夜の桜のことばかりを思い出す。子供の頃は家族と行った。長じては友達と行き、一人で行き、母と行ったこともある。

普段の夜は、街灯がポツンとあるばかりの川べりなので、夜には行かないところである。桜が咲いて、ぼんぼりがあるから行くのである。


ある時の出来事がちょっと印象に残っている。出来事と言うより、ただの勘違いかもしれないが。

十年くらい前のことだったか、一人でそこへ行った。もう花の終わりかけの頃だった。でも週末とあって、結構な人出だった。

家から歩いて行くと三十分ほどかかり、川上から川下へ進む形となる。桜並木が終わればそこで折り返して戻ってくる。

桜並木の切れた先は開けている。家や建物はないので辺りは暗くなるが、遠くに大きな駅がありその辺りの明かりが前方には広がっている。

並木がもう少しで終わり、というところに来たとき、ふっと人並みが途切れた。ぼんぼりの灯りに浮かんでいたのは桜ばかりであった。


💙💛


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