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水曜日の午前休には、映画に行って良かった。


ちょっと調べ物で行きたいところがあって、取得した水曜日の午前休。火曜日の夜に、あれもしかして危ないかもと、開館スケジュールをチェックしてみたら、なんと第三水曜日は特別休館だった。普段からこういうことをよくやってしまうので、少し落ち込んでしまう。まぁ、よくあることだしくよくよしてもしょうがないかと気分を上げる。こうやって人は図太くなって行くのかもと思いながら、この午前休にやりたいことを探してみた。

映画に行ってみよう。ちょうど、最近思っても見なかったことに、ヒット中の映画が私の好みのジャンルだったのだ。いきたいなーと思いつつ映画って高いよね…と尻込みしていたなかでの、突然持て余してしまった時間。そして、水曜日ということもあって、映画が安い。安くなった分でパンフレットも買える。映画を見るとどうしてと買いたくなってしまう。パンフレットの情報の密度にいつもワクワクするから。

朝の2本目ぐらいの時間帯にいったので、電車はいつもより遅め。といってもフレックスでゆっくり出社のときもあるから、対してそんな新鮮味はない。会社の近くの映画館に朝早く入るのは初めてで、映画館用のエントランスじゃないところから入ってしまってちょっと焦る。誰も乗らないエレベーターに、映画館に止まるのかヒヤヒヤしながらひっそりと乗る。

ドキドキしてたのが嘘みたいに映画館のフロアには結構人がいた。水曜日だからとみんな時間を見つけては映画館に足を運んでいるのか。平日なのに、こんなゆったりしてでいいなぁとチケットを発券しようとするけど、事前にスクショに撮ってあったQRコードをみると発券が必要ないって書いてある。映画には滅多にこないけど、来ないからこそ映画館のチケットを日記や手帳に貼っていた。いま手元に残るのは、スクショのQRコードだけで、結局はスマホの容量のために削除してしまうからなんか寂しくなってくる。

時間通りにぴったりついて、すぐシアターが会場されて、手持ち無沙汰なので会場に向かうと、すでに扉は開いていた。同時に入室した人とはちょうど一つ空いた席に座ってて、広いシアタールームに2人だけいることに恥ずかしくなっている。そんなに人がこないかなって思ってたら、パラパラパラパラと集まってきて、一つ一つ席をあけて座っていった。みちみちじゃないけどシアタールームはほどよく人で埋まってた。

こんなにも平日、お休みの人がいて、水曜日に映画を見るのか〜となんだか感動した。午前休って初めてとるなあって考えていたら、ふっと思い出す。転職する前は激務で有給休暇なんてなかなか取れず、有給5日制度のおかげでやっと自由に休めるようになった。それでも古い会社だから有給休暇をとるには紙に理由を書いてハンコリレーをしなきゃならなかった。上司に小言を言われて、へーこらへーこらしないと有給を貰えないのがなんだかいたたまれなくて、有給なんて取りたくないのになって思ってしまう。取りたいんだけどね、本当は。

初めてとった半休は、病院に行くためだった。胃にポリープができたから検査をしなくちゃいけなくて、頑張ってスコープを鼻から入れたんだった。あれは痛かった、すごい痛くて息もできなくて、顔は液でべちょべちょになってたっけ。結局頑張って診断を受けたのに、受けたことに満足して、また歯車として仕事に戻って働いて、診断結果をもらわずにずっと過ごしてしまったのだった。気づいたときにはもう数ヶ月経っていて、連絡もないからとりあえずポリープはなんともなかったのだろうと軽く考えたまた働いた。

映画館の予告を見ていてそんな記憶がうわーって頭の中に浮かんできて、平日に午前休をとっているのが申し訳なくなってくる。そわそわしてきて、もしかして何か大事な案件の進行をすっぽかしてないか、なにか会議にはいっていたのではないかと不安になってくる。事前に前もって午前休を取れるように仕事は調整していたし、昨日だって上司に確認をとっていた。だから大丈夫だってわかっているはずなのに、なんだか社用スマホの電源を切るのもドキドキする。

休むのが下手だ。自分がいない間に何かが起こって、誰かを困らせているのではないか? そういうことが起きたらどんな対処をすればいいだろうか、例えば……と起こってもいないことを回避しようと必死になっている。そんな気持ちのまま映画はぬるりと始まっていく。だんだんとそんなどうでもいい気持ちを忘れられるくらいには映画に没頭していって、最終的にはマスクがしめしめになってしまう。

涙腺が崩壊しているので一度泣き始めたら永遠と泣くしかない。セリフの独特な話ぶりや言葉遣いに、この有名な脚本家はそういえば、リアルでは言わなそうなセリフを使うような人だった。途端に没入していた感覚から引きでシーンを見てしまうのは、このセリフ回しのせいな気がする。映画のことはよくわからないけど、登場人物のセリフをわざわざ遠回しに描くのに、そういう思惑を感じてしまう。

好きなジャンルのセオリーをやぶって楽しんでいる感じがあって、かたにハマらない面白さに満足して、気合の入ったパンフレットを買う。パラパラとめくるだけで、どんなファンがどんな目的で買うのかがわかって面白かった。アイドルにハマると世界はまた違う様子を呈していることがよくわかる。ずっとアイドルを知らない世界に生きていた。

昔のことを思い出してはうっとなりながらも今を生きていているとき、本当に過去と現在と未来はミルフィーユのように重なっているような気がする。未来のことは想像してたくさんの私が生まれは消えて、過去のことは思い出して忘れてる。そうやって想像もしてなかったような今を生きている。

会社に戻ると、上司におはよって言われる。
「午前休って人生得した気分になるよね」って言われる。にこにこ笑ってあとはよろしく〜と仕事を回して去っていった上司を見てると、昔の上司の顔がチラついたけどそんなに苦しくなかった。たまには水曜日に午前休をとって映画を観に行くのも悪くない気がした。

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葉々(yoyo)
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