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朝ドラ批評家の『虎に翼』考 第15週で改めて感じた優三さんのスゴさよ
こんにちは普段はいろいろなところで文章を書きながら朝ドラ批評家としても活動しています、半澤則吉といいます。各所で朝ドラ記事を書いてきましたが、今回思い立ってnoteを始めたのでこちらにも書き残すことに。『虎に翼』が折り返しを少し過ぎた中途半端なタイミングですが、いろいろと書ければと思います。ちなみに他サイトでは勝手に朝ドラを思い出して散歩記事など書いております。記事はこちらよりどうぞ。
今回は表題の内容を語りたいので、総括的な内容はまたの機会に譲りましょう。では第15週についてみていきます。
絶好調かに見えた寅子、2つの問題を抱える
まずは超ざっくりストーリーを振り返ります。
「家庭裁判所の母」と呼ばれるほどの人気者になった寅子。ラジオに出演するなど法律家の地位を確立するも2つの問題を抱えます。1つ目は職場。調停案件で離婚を訴えられた女性から「あなたは女性たちの味方でしょ」と主張され、ついには刃傷沙汰になる始末。「男女平等」を実現させたいという想いと世間の温度差を改めて感じてしまいます。2つ目は家族。寅子にいい顔を見せなくては、お利口さんでいようと過ごしていた娘、優未(竹澤咲子)。そしてその姿を見守る花江(森田望智)たち。寅子に人事異動の話が舞い込んだことで水面下で生じていた歪みが露見。一家の大黒柱であり続けようと奮闘してきた寅子ですが、初めて自分が実はないがしろにしてきてしまったものに直面し反省します。
花江ちゃーんと叫びたい場面が多々
各週の週タイトルに現れているように本作は「女性」の視点、立場、権利というものが丁寧に書かれている作品です。これまでも法律や慣習など、この国が女性蔑視、男尊女卑を繰り返してきた様を伝えてきました。そして、改善された部分はあれど、今を生きる人々も何らかの生きづらさを感じ、今もあらゆる課題が山積している……そんな問題提示が見事に毎週織り込まれていますが第15週も、見ていると切なくなるほどでした。仕事と家庭。わかりやすい二局対立が描かれていましたが、寅子・花江を3カ月見守った僕たち視聴者にとっては「うわぁー」「ありゃー」「花江ちゃーん」と叫びたくなる場面がたくさんあり、両者の視点で胸が痛くなりました。
花江を演じる森田望智さんは、女学生時代こそ何故、彼女がこの役という疑問があったものの、寅子と家族であり、親友であり、バディでありもはや保護者でもある花江という役を表現するのには、なるほど森田さん級の俳優が必要だったのだと、最近よく感じます。実質、寅子との「ダブルヒロイン」とも言えるほどに花江は非常に重要な役。視聴者の写鏡であり、代弁者でもあります。第15週は寅子VS花江という構図が意図的に描かれていましたが、これはドラマ全体としても大きな転換点となるのではないでしょうか。森田さんはNetflix『シティハンター』での演技も圧倒的でした。その勢いそのままに『トラつば』でも見事な存在感を示しています。改めて配役も含めスゴい仕事だなあ。
今こそ思い出す、手羽元シェア。ありがとう優三さん、会いたいぞ優三さん
さて、やっと今回の本題です。
花江とぶつかった寅子は、家族とのズレ、歪みを感じ、家の裏口から自分のいない、つまり良い子を装っていない「猪爪家」を見つめ涙します(第73 話)。ここで、ありし日の優三(中野太賀)の回想シーンを挟み込む達者さよ!
「優未のいいお母さんでいてもいい」という優三の言葉が切なくそして、重たく寅子の心に響きました。
思えば優三さんが戦死が発覚したのは第9週。その翌週にも“生きてもないし、回想でもない”優三さんが登場し「イマジナリー優三さん」と話題になりましたが、あれから実は1カ月経っているんですね。だからこそ思い出してしまったのは、結婚した後、優三出兵までの幸せな期間です。
「嫌なことがあったらまたこうして二人で隠れて何かおいしいものを食べましょう。寅ちゃんもずっと正しい人のまんまだと疲れちゃうから、せめて僕の前では肩の荷をおろしてさ」(第37話)
そう、あの手羽元を二人で食ってたところ! ナレーションでもこの瞬間に寅子が完全に優三さんに惚れ込んだことがわかりますが、第15週を見て頭に浮かんだのがこのシーンでした。知らず知らずのうちに肩の荷をおろせてなかったし、ずっと正義の人であり続けないといけない立場になっていた寅子。優三さんの不在、消失が、結果、優三さんの存在の大きさを印象づけましたね。最低限の回想シーンだけで視聴者にここまでのことを考えさせてくれるのは、緻密にセリフや感情を積み上げてきてくれたからです。半年にわたる長期の作品である朝ドラだからこその、忘れた頃の時限爆弾、遅効性の毒ともいえるでしょう。イマジナリーも含め優三さん再登場、回想シーン差し込みもぜひお願いしたいところ。幸いまだ2カ月半ドラマは続くので、どうぞひとつよろしくお願いします。