健康診断に行った…後日談

 二泊三日の帰省から帰ると、玄関先は荷物の山だった。時刻は夜の9時前。家中のシャッターは開いたままで、風呂は古い湯が張られた状態で放置されている。
 二泊三日中、初日は鼻詰まりで息が出来ず、二日目は夜中の3時と4時に犬にトイレだと起こされた。結果、まともに睡眠が摂れなかった。
 そんなこちらの事情など関係ないにしても、出かける前に帰った後の用事を極力減らしたくて事前対策をとっている。風呂はちゃんと洗って出かけたから、汚したまま放置したのは、当然ながらこちらではない。
 このところ、殺し合い寸前にまで発展しそうな危機感を感じている。だから極力口を利かない。噴火寸前でイライラしながら、母が犬を散歩に連れ出している隙に、荷物を運び込み、全てばらす。夕食を買って来るタイミングを逃したので、母には冷凍のうどんを、私は旅先に持参して残った副菜と、レンチンごはんで済ませた。
 ほぼ半日運転をして、何故帰るなり人の汚した風呂を洗わねばならないのか…。母が入浴した後、すぐにでも入りたかったが、後回しになっている自分の荷物を片付けてしまわないと眠れない。一通り片付け終わったところで、風呂を汚して放置し、玄関先を荷物の山にしている当人が入浴する音が聞こえた。発狂しそうになった。

 翌日の体調は最悪だった。玄関先の荷物は全く片付いていないばかりか、開け放たれた納戸にまで大量に侵入している。母には「数日中に片付ける」と声がかかったらしいが、今まで何度も同じことを言って、片付いた試しがない。過去には三ヶ月和室内に荷物を放置し、祖母が田舎からやって来るのを理由に、ようやくどけさせたのだった。
 片付かない理由はそれだけではない。捨てられないから片付かない。やっているうちに嫌になる。散歩に出たり、買い物に出かけて気分転換を図る。長々とお茶を飲んで休憩する。高校選抜に春場所に、とにかく誘惑が多い。片付くわけがない。逃げているのだから…。
 何が悪かったのか、上半身の筋肉痛が酷い。肩凝りからか、頭痛が消えない。大量飛散すると言っていた花粉のせいで鼻が通らず、呼吸困難状態が続く。喉には白い5ミリ程度の丸い点がある。それが唾を飲み込むたびに引っかかるのか、ずっと違和感が消えなかった。
 犬の散歩後、昼過ぎまで横になっていたが、思うように眠れない。鼻は休みなしだし、背中や肩が痛くて仕方がない。固めの枕を背中に入れ、頭は柔らかい方に受け止めてもらう。ちょっと顎を上げたような姿勢で反ったまま寝そべっていたら、若干うつらうつらした。

 天日干しした荷物と大量の洗濯物を片付ける。それだけを午後の仕事とした。食事は出発前に作って冷凍しておいたカレーといただき物のポテサラを昼に、調理した後に冷凍した副菜、旅先で買ってきたじゃこ天をメインに、夜とする。過去の自分に助けられた。
 大腸がん検査の、便潜血検体を提出する必要があったが、外に出られるような体調ではなかった。5日間は大丈夫だと聞いたので、翌日に持って行こうと思っていたら、今回いくらか元気で、お土産配りなどで動き回っていた母が、出してきてくれると言うので頼んだ。窓口に提出するだけだから、必ずしも本人が行く必要はない。助かった。
 事前対策が功を奏したようで、片付けは段取りよく進んでいた。昼の終了がお三時になったせいか、食欲はなかったが、それでもゆっくり寝ていた犬が「おやつ」と言い出したので、いつもより半時間以上遅くはなったが、お茶をして散歩に連れ出そうと腰を上げたところ、電話が鳴った。ナンバーディスプレイに表示された番号は、市内のものだった。たまに外れがあるものの、一応出る。検診先の病院から、私宛にかかって来た電話だった。一瞬、検体提出を母に委ねたことが拙かったのかと慌てた。さもなくば、X線検査で何か異常が見つかったとか…。焦っていたのか、相手の女性は早口で声も大きくなっている。どきどきした。
「先日お渡しした検査結果、未だお持ちですか?」
 問われたのでハイと答える。何のことかわからなかった。
「あれ、料金請求用の方を間違えてお渡ししてしまったみたいで…。窓口に持ってきてもらえませんか?他の者には伝えておきますんで…」
 は?と思った。今日、私は体調が悪いから、母に検体の提出を委ねたのだ。検診に行ってから既に5日経っていて、その間、着信履歴も留守電も入っていなかった。
「持ってきてと言われても…今、体調が悪くて、回復しないと何とも…いつでも良いんですか?」
 尋ねると、「出来たら今週中に…」と言う。しかし今週は残り3日。そして、そちらが書類を提出する期限は来月十日だという。ということは、未だ二週間は猶予があるということだ。こちらは「今週中に…」とは敢えて明言せずに電話を切った。
 むくむくと怒りが湧いてくる。間違えたのは向こうなのに、何故こちらが出向かなければならないのだろう?せめて、「送料はお支払いします。郵送でも構いませんので…」もしくは「取りに伺ってもよろしいでしょうか?ご自宅が無理なら、せめてお近くまで…」ではないのだろうか?
 母に言ったら「もう捨てました、って言ったら良かったのに…」と言われた。ほんまや…と思った。
 何かやらかすと思ったが、案の定であった。その病院の評判が、私の中では下降の一途を辿っている。多分もう、上昇することは無いだろう。体の具合が益々悪くなる。病院としては有り得ない。
 旅で疲れて帰って疲れ、締めの電話で更に疲れた。
 入浴しても思ったように温まらず、どうにも体の様子がおかしいので、寝る前に市販の葛根湯を飲んで布団に入った。犬は何故か、今宵こそ三階で寝るのだと決めていたようで、いつもならひとりでいられないのに、入浴中もずっと、ひとりで三階にいた。廊下に居た子は既に部屋の本棚の前に居て、明け方4時4分に、「ベッドに乗せろ」と訴えた後、人の腹の前で横に伸び、暫くして足元へ移動、そこからやがて縦に伸びて添い寝してくれた。
 筋肉痛も頭痛も、鼻の不調も半分は、どうやら風邪だったようである。喉の白いのと肩凝り及び花粉症状は健在だが、昨日はしんどすぎて久々に飲んだ栄養ドリンクもまるで効かなかったのに、葛根湯に救われた私は、いつも通り元気になった。各種ストレスについては、今のところ、解消の見込みはなさそうである。

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