首、寝違えた!

 心が折れて疲れ果て、入浴中に寝てしまいそうだと判断した夏の日、少し横になった。暑すぎて何度も目覚める。眠いし疲れが取れないのでそれでも寝ようとする。二度寝三度寝を繰り返し、ようやく入浴を決意した時には汗だく。室温が31度あったので、寝苦しいのは当たり前だ。しかし本当に疲れていたのだった。
 この時期は、午前5時頃から朝の散歩に出ていた。ドライヤーは地獄なので、扇風機で髪を乾かし、再び布団に入った時には、既に4時を回っていた。
 変な寝方をしたのでなかなか寝付けない。寝たところで、すぐに起きなければならないと思っているから、余計に眠れない。うとうとしたと思ったら、変な夢を見た。

 田舎の薄暗い洗面所に、箱に入った金属のハブラシが積み重なっている。箱にはそれぞれ名前がプリントされている。聞けば叔父が、近所の保育園の子どもたちに歯科指導をしているという。そのハブラシだった。祖父母もそれを知っているとかなんとか…。
 叔父は歯科医ではないし、近所に保育園なんかない。叔父は洗面所に登場したが、祖父母の気配はあっても、姿は見えなかったように思う。
 10歳年下の友達が近くまで来た。久しぶりなので、何処かで食事しようと、店を提案する。うちのお隣さんが自宅で高級志向の食堂をやっている。なかなか人気で、メニューを見に暖簾を潜ると、続々と客が入り、席が埋まっていった。しかし友達は気に入らなかったようで、店を出た。
 数軒隣のお宅でも食堂をやっている。こちらはコロッケなど、庶民派だ。店内は明るかったが、友達はこちらも気に入らなかった様子。黙って店を出る。
 じゃあ何処に行きたいねん…と思っていた私の胸の内を知ってか知らずか、友達は黙って何処かへ行ってしまった。

 10歳年下の友達とは、もう何年も会っていない。あまりに疎遠になってしまったので、今年から誕生日にメールするのも控えようと思っていたところだ。共通の、10歳年上の友達(彼女からしたら20歳年上)の誕生日にも、今年は連絡しなかった。ラインの履歴が、相手へのお祝い文とスタンプだけの羅列になっていることに、ちょっと疲れたのだ。友達って難しい…年々思う。幾つになっても連絡を取り合い、会えば毎日会って話しているかのように盛り上がる人もいるようだが、私はそうはならない。最近では、友達の枠組みすら判断出来なくなってきている。
 因みに、お隣さんも数軒隣さんも、一般のお宅で、食堂なんかやっていない。

 5時を過ぎて扉がガリリと鳴った。犬が起こしに来たのだ。
 トータルしてもそれほど眠れていないのでダラダラしていたいが、窓を開けたら外は風もなく、既に陽も上がって暑苦しかった。引き延ばせば益々、散歩が苦痛になる。
 重い体を引きずるように外へ出る。暑い割に、犬はこの数日と比べてよく歩いた。
 しかし私が左を向けない。寝違えたのか、首が回らず、激痛が走る。疲労に加え、下腹部の鈍痛も伴っていたので、体調は最悪だった。
 朝のルーティーンを済ませた後、自分に甘いのではないかと思いながら、湿布薬を探す。ロキソニンテープがあったので、即効性を求めた。折れた心はまだ接合されておらず、腹痛からも回復していない。用事は一通り済ませたが、その後、何もせずに寝ていることには後ろめたさがあった。せめて首の痛みを何とかしたい。そうすれば、前向きに物事を考えて、より良く生きる方法に目を向けることも少しは出来る気がしたのだ。
 ロキソニンテープを貼るのに、3回失敗した。テープが伸びすぎて皮膚が引っ張られ、不愉快。患部からずれる。皴になる…の繰り返しである。皴だらけのまま貼って、3時間過ごしたが、スースーするだけで痛みは微塵も和らがなかった。諦めて剥がした。
 午後からネットで、【寝違えを早く治す方法】を調べ、試みる。2セットずつを2種類やれと書かれてあったので真面目にやったが、私に限って即効性は無かった。
 唯、ひとつ勉強になった。寝違えとは違うが、私が子どもの頃からよくなる、首がぐきっとなるやつ…。あれ、人が「足攣ったーっ」というやつの首バージョンかと思っていたが、実際は“ぎっくり首”と言うらしい。ぎっくり腰にはなったことがあるが、未だ足を攣ったことのない私。ぎっくり腰は一度やると長引くが、ぎっくり首は一瞬激痛にもんどりうっても、割とすぐに回復するので、腰の方と仲間だとは思わなかった。
 借金はないはずでも、寝違えて首が回らないのは痛くて辛い。

いいなと思ったら応援しよう!