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愛を科学で測った男〜異端の心理学者ハリー・ハーロウとサル実験の真実 デボラ・ブラム

Am 23. Februar

Love at Goon Park
Deborah Blum



「母親の顔は常に美しい」




アドルフ・ヒトラーが人でなしと言われるように、ハリー・ハーロウも人でなしかい?

恐怖の20世紀、偉大なる科学教時代にようこそ!
いかれた思想がウヨウヨだよ!

ハリー・ハーロウ、「代理母実験」で有名なマッドサイエンティスト。
幼気な赤ちゃん猿を母親から引き離し、虫みたいな顔のタオル人形にあてがうあの実験だ。
写真を見たならゾッとするのが心ある人間ってもんだ、見てごらんよ、あの怯えて不安そうな赤ちゃんの顔、それでも唯一の母である物申さぬタオル人形にしがみつく健気さ。

フワフワで温くとも無反応な母と、ミルクはあれど文字通り鋼鉄の母、こんなものと一緒に育った子は一体どうなる?

そんな惨めな生き物を育てたのが彼だ。


ああ、神様、人でなしの彼に罰を与えたまえ!


みんなはそう思ったね。


でもさ、「人でなし」の彼はどうしてこんな実験をしたのかね?


人でなしの彼は「愛」の存在を証明したかった。

人でなしの彼は「母」の重要さを証明したかった。


子供に母の愛が必要かって?
そんな当たり前のことを証明するのに残酷極まる実験が必要なのかね?

そんな当たり前なことが当たり前になったのは彼の証明があったからじゃないのかい?

ほれ、彼の研究が認められる前のおぞましい科学崇拝の時代を見たまえだ。

ベイビーどもは無菌状態の箱で、母に触れられることも愛されることもなく孤独に「自立して」育つ、それが最先端科学に基づく意識高い系の子育て法だ。

赤ちゃんに、触レルナ、構ウナ、抱キシメルナ、だ!
シッシッ!近づくんじゃない!菌がつくじゃないか!

除菌祭りだ!病院も孤児院も消毒ダイスキ!
「菌」を殺せば、全て問題なし!ってね。
あれ、なんか今と似てない?


でもいつの時代も流行りってもんがあって、「お偉い先生」の言うことは疑う余地もない、いうこと聞いてりゃ間違いねえだ。
あれ、なんか今と似てない?


まあ、そんなピカピカ時代の「変わり者」ってわけだ、このヨレヨレのハリー・ハーロウ先生はね。
科学者が決して口にすべきでない「愛」なんかを持ち込みやがった女々しいポエマーだ。
そう、彼は詩が好き、科学者なれど。

冷血漢ハーロウが一生をかけて固執した「愛」、実態が見えぬゆえ科学者に毛嫌いされた「愛」とはなんだ?


ぼくのような犬奴隷の人間がこの本読んでて思うは、

「まるでドッグトレーニングの歴史とおんなじだな!」


彼自身が「愛」や他人の「反応」を渇望していた、そんな彼が妻を癌で亡くした時「うつ」になる。
この抑うつ状態がどこからくるのかを実験したのが、おぞましい「絶望の淵」だ。

V字型の入れ物に小猿を隔離する、何ヶ月も、ひどい時は一年もだ。
V字はツルツルで登ろうとしてもすぐ滑って底に落ちてしまう。
そのうち諦めて底で動かなくなる。

「ほとんどのサルは、装置の底の隅で典型的なうずくまりの姿勢を取るようになった。その時点で、彼らは自分の状況が絶望的であることに気づいたと仮定してよいだろう」

この装置は「うつ状態」をとても上手に生み出した、彼らは絶望し、無感覚状態になった。
「箱の中の赤ちゃん」、この本の中で、一番ゾッとした章だ。


「この実験のポイントは、すでに他者との絆を結んでいるサルを取り出して、その絆をぶち壊すことだった。」

絶望の淵はサルをサルでないものに変えた。
そんな奴らをどうしたら社会に戻せる?

彼らを救ったのは無邪気な者との触れ合い。。。
そう、赤ちゃんセラピーだ!



イキモノどもは完璧に機能している。

母が子にするやり方は、本能というハウツー本に全部書いてあるのよ。

「健全な母」は科学者が推奨する子育て法なんか知らなくともホモサピエンス的にわかるわけよ。

そしてこの小さなサルも同じだったんだね、「愛」のないサルは不自然なサルになっちまったんだ。

イキモノの精神形成はものすごく複雑だ。
イキモノが産まれた、いや、産まれ落ちる前から受け続ける色んな刺激、情報がきちんと組み合ってその個体を形成するのだね。
ヒトラーだってママのお腹の中にいる時から世界征服を狙ってたわけじゃない、ちっちゃな幼気な赤ちゃんだったんだ。
産まれた赤ちゃんはまず学ぶよ、大好きなママのお顔から!

「ハリーは、…多くの親なら普通に知っている常識に心理学が追いついていくのを見て面白がっていた。科学者の意見に一度も耳を傾けたことのない親なら、良い母は子どもを抱きしめ、良い父は子どもと遊ぶために時間を作るということをとっくに知っていた。」

彼は証明したかったんだ、ニンゲンには「愛」(かまわれること)が必要だって。
彼は色んな代理母を作ったよ、けれど、どの無機質な母も「正常」なサルを育てることができなかった、なぜ?
それはねニンゲンもサルも「社会的な動物」だから。
ぼくらが人間らしいニンゲンになるためには他の人間たちの「反応」が不可欠なんだね。
産まれた時から他者の「反応」を渇望してる、他者の「反応」を学ぶことで、ニンゲンなり、サルになってゆく。
そういった「反応」を得られないと、脳がうまく育たないんだね、脳の成長が不十分だと刺激に対して弱くなる、そう、些細な刺激にも耐えられずにすぐ壊れちゃうんだ。

「孤独」はぼくらを殺してしまう。
そのように設計されてるんだ。
社会的な生き物が全くひとりでいるのは不自然ゆえ、「孤独」はぼくらをニンゲンではないものにしてしまうんだね。

こういうことを証明したハーロウはやはり天才(一つのことにものすごく固執する者)なんだと思う。
けれど、この地球の仕組みの完璧さにはホントウに脱帽だよ。
全ての要素が全てをうまく作るように設計されている。

あれだ、人間様、考えすぎて「不自然」なんだね。
不自然になると、うまいことに、不具合が起こるね。


「当たり前のこと」を証明するのにこんなにも不愉快な実験をしなければならない、人間様は何がしたいんだろう。
でも、ハーロウが母と子の「愛」を証明しなければ、今頃みんな無菌ボックスで育ってたかもね。

子どもには「母」が必要だ、それを証明しなければならない世界って何なんだろう。

この世界システムミステリーを解明したい人間様の欲望はすごいけど、別に知らなくたってもいいじゃないか、とぼくなんかは思っちゃうね。
あらゆることにおいての人間様のこの「欲ぶかさ」、これがどでかい脳味噌を作った所以かね。


この瞬間にも、ぼくが知らないゾッとする実験が毎日行われてるんだろう。
この瞬間にも、幼気な者がおぞましい苦痛を与えられてるんだろう。
ああ、ニンゲン、毎日ホラーを創る者。

ぼくらゼンリョウな一般ピープルもさ、強欲な人間様の「便利」や「安心」の裏にどんなオッソロしい実験が行われてるか考えてみるのも「愛」のあるニンゲンかもね。


「赤ちゃんはミルクを与えてくれるから母親を愛するわけではない。より正確に表現するなら、赤ちゃんは母親に『夢中になる』のだ。」


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