読書記録2冊目。毒入りグレープフルーツ
小川洋子「妊娠カレンダー」(文春文庫)
収録作品
「妊娠カレンダー」
「ドミトリィ」
「夕暮れの給食室と雨のプール」
「妊娠カレンダー」
◆あらすじ
妊娠した姉との日々を綴った日記形式の短編。
◆感想
姉の食に対する描写が印象的だった。普段は妹の料理に不味いと言い放ち、つわり中の食べ物に対する嫌悪感の描写は凄まじいものを感じ、つわり後の食べ物への執着心は生々しかった。
とりわけ、主人公は、姉のお腹の子供にも影響があるかなと考えながら、'毒入り'グレープフルーツジャムを作り、毎日食べる様は異様だ。
主人公は姉の夫に対して良い感想を持っておらず、姉のわがままにも付き合っていて、なんだか捻じ曲がった姉妹愛を感じて怖かった。
「ドミトリィ」
◆あらすじ
夫の海外転勤が決まり、1人日本に残り夫からの連絡を気怠げに待つ主人公。そんな折に疎遠となっていた従兄弟から自分が学生時代に入っていた寮を紹介して欲しいと連絡がある。寂しげな学生寮には両手と片足がない管理人が1人で住んでいる。そんな管理人と主人公の静謐なやりとりが描かれている。
◆感想
先に赴任先に向かった夫からの連絡を待ちながら単調な日々を過ごしていて、海外に転居はしたくないのかと感じた。そんな時に日本で頼りにしてくれる親戚と、それをきっかけに話をするようになった管理人と過ごす日々の方が色づいていて複雑だなと思う。
夫からの手紙には必要な手続きと、妻を待ち侘びる思いが綴られているが、それを途方もないことのように捉えている主人公がいた。
なんだかうまく感想が出てこないけど、夫と妻の温度差みたいなものを感じた。
「夕暮れの給食室と雨のプール」
◆あらすじ
周囲の反対を気にせず年上の男性と結婚をした主人公。先に愛犬ジュジュと引っ越しをし彼を迎い入れる準備をしていた。新居に訪問してきた小さな男の子を連れた男性に何か感じるものがあっあ主人公。少しして彼らと小学校の給食室の前で再開する。
◆感想
子供が給食室を気に入ったからと、男は小学校の給食室を眺めていた。彼が小学生の頃みた給食室では、シチューがシャベルによって掻き回され、じゃがいもは長靴によって潰されていた。食べ物が、給食が大切に丁寧に作られているのではなく、乱暴で煩雑に扱われている。そんな様子を見た小学生の男は給食が食べられなくなる衝撃を受けた。一方、現代の給食室では、整然と並べられた材料が機械で均一に丁寧に作られている。
給食室で作られる食べ物の描写が具体的で変にリアリティに溢れていて、私も食べられなくなりそうだった。
◆本全体の感想
「妊娠カレンダー」は主人公の姉の結婚と妊娠、「ドミトリィ」は夫の海外転勤と転居、「夕暮れの給食室と雨のプール」は主人公自身の結婚。
人生の大きな転機となる出来事における主人公の女性たちの隠れた気持ちや心の動きが描かれているような気がした。また、食べ物の描写が、心情を表す鍵となり、繊細な心の動きが日常の描写から読み取れる。ただ、3編とも後味の悪いエンディングだ。だからこそ、読了後も考えることが多く残る作品集だった。