ギシギシ山
※今回は不謹慎かもしれないことを承知の上で書かせていただきたい。
全盲の私がパソコンや携帯を操作したり、インターネットを使う時には、画面を音声で読み上げてくれるソフトやアプリを使用している。
それらのおかげでニュースやSNSをチェックしたり、こうしてネットに記事を投稿したり、自分の考えや表現を発信できたりするのは本当にありがたいことだ。
しかしそんな画面音声読み上げソフトなのだが、まだまだ未発達なところがある。それは漢字などの読みを正しく読んでくれないところだ。特に著名人などの人名や地名になるとそれが顕著に現れる。
地レジかされて以降、テレビをあまり見なくなった私は、芦田愛菜ちゃんのことをしばらくの間「アイナちゃん」と言っていたし、武井咲を「エミ」なのか「サキ」なのかも今だに分からなくなる。芋洗い坂係長という芸人が出てきた時も、携帯の画面読み上げの音声が「イモセンザカ」と読むのでそう思っていたら、お笑い好きだった妹から、「あー、イモアライザカね」と冷静に突っ込まれてしまった。
そのようなことがあるから、私たち全盲者は目が見えている人以上に知ったかぶりができない。
先日もうたた寝から目覚めた午後、何の気無しにIphoneに届いた通知を見ていると、ふとある言葉に耳が止まった。
「北海道のギシギシ山(羊蹄山、ヨウテイザン)で雪崩…」
羊蹄山を、Iphoneの画面音声読み上げアプリのボイスオーバーは「ギシギシ山」と読んだのだ。
ギシギシ山…、北海道にはそんな山があるのかー!ずいぶん変わった名前の山だなあと、まだ半分寝ぼけた状態の頭で思った。
だが少ししてから考え直した。果たして本当に「ギシギシ山」なのだろうか。実際は違う読みかもしれない。
そう思ってこんどはパソコンを立ち上げてYahoo!ニュースを開いてみた。
「ヨウテイザン」
pcトーカーの音声はそう読んだ。カーソルを動かして文字を一つづつ読んでいくと、「羊」、「蹄」、「山」と書いて「羊蹄山(ヨウテイザン)」と読むようだ。
羊蹄山…、たぶんこれが正しい読みなのだろう。そう思いたい。だがその一報で、ギシギシ山であってくれたらおもしろいんだけどなあと、若干期待していたのも正直なところだったりする。
その真相を確かめようと、夜7時のNHKニュースをつけてみた。
「北海道のヨウテイザンで今日…」
NHKの男性アナウンサーは確かに「ヨウテイザン」と言った。読み上げソフトの音声ではない生身の人間の声が言うのだから確実にそうなのだろう。
そっかー、やはりヨウテイザンだったかー。そりゃあそうだよなあと思いつつ、アナウンサーが冷静なトーンで「ギシギシ山」と言って、それに対して、「えっ、ギシギシ山だったの?!」というようなまさかの衝撃を味わってみたかったなあと少し残念に思った。
でも正しい読みを確認しておいてよかった。おかげで皆の前で、「ねえ、北海道のギシギシ山で事故があったみたいだよ」と言って恥をかかなくて済んだ。これだから全盲者は目が見えている人以上に知ったかぶりができないのだ。
それにしても、羊に蹄と書いてなぜそれを「ギシギシ」と読むのだろうか。それが今だに謎である。