空き家になった実家を「DIY賃貸」に~付加価値をつけて蘇らせる新たな形~
2021年からスタートした、DIY賃貸事業。賃貸でも、自分好みの部屋に変えて、家への愛着を持ってほしい。引っ越すときに原状回復をしなくてはいけない日本の賃貸事情の不自由さを少しでも変えたいとの思いで始めました。
部屋の一部をDIYできる仕様にして、いつでも建築家のプロ集団ハンディハウスプロジェクトにDIYの相談ができる。そんな付加価値をつけることによって、築年数を重ねた物件も賃料を下げずに貸すことができるため、空き家対策の新しい形としても活用できます。
今回は、DIY賃貸第2弾、埼玉県新座市にある戸建て物件をDIY賃貸に蘇らせました。DIY賃貸を企画した加藤が、物件オーナーさんに、今回のプロジェクトへの思いを聞いてきました。
加藤:ひばりが丘の住宅が完成しましたね!実際、完成したものを見てどうでした?
伊藤さん:いやぁもう、予想していたよりも素敵に仕上がっていたのでびっくりしました。もはや実家じゃないみたい(笑)特にリビングと和室がつながって広くなり、天井も高くなって、キッチンもモダンなかっこいい仕上がりになって。なんか、今の自宅よりも実家のほうがよくなっちゃったって思いました(笑)。
加藤:そう言っていただいてよかったです!ありがとうございます。
伊藤:2階の部屋が、DIYできる仕様になってるところも好きです。私だったら好きな壁紙を貼ってみたいですね。
加藤:初めてお会いしたときに、伊藤さんもDIYにすごく興味があると伺って、これは奇跡的な出会いだなって思っていました。
思い入れがある実家 賃貸に出す負担と簡単には売却できない悩ましさ
加藤:ご実家にすごく思い入れがあったんですよね?
伊藤:そうですね。高校時代から10年ほどこの家に住んでいたんですけれど、両親がフランスで暮らしていた経験もあって、母親は自分で壁を塗り直したりしながら家を大切にしていました。フランスでは古いものを大事にする文化があるみたいで。
加藤:ヨーロッパでは、古いものほど価値が高いと言われていますね。
伊藤:そうみたいですね。でも、父が亡くなってからは、母は関西で暮らし始めて、兄弟も私もそれぞれ家庭を持って別々のところに住んでいるので、4年ほど空き家状態になっていました。母もいつかこの家に戻ってきたいと言っていますし、大切にしていた家をすぐに売却する気持ちにはなれなかったんです。
ーーそうだったんですね。
伊藤:その間、私が月に1度、掃除や草抜きをしに来ていました。でもそれも大変で…。
加藤:伊藤さんのように、ご実家に思い入れがあって簡単に売却したくないって考えている方は多いと思います。
伊藤さん:賃貸に出して誰かに住んでもらおうかなって思って、調べたり不動産屋に相談したりしたのですが、自分でリフォームをして、水回りも全部直してから、賃貸に出す方法を提案されました。そのときに、水回りのリフォームだけでも600万円ほどかかりますよって言われて、自分が住まないのにそんなにお金は出せないなと悩んでいました。
加藤:そうですよね。金銭的な負担もあるし、自分の労力の問題もあるし、どういう人に頼むのがいいのかとか考えると、なかなか難しいですよね。
コンセプトを現代に合わせて蘇らせる プロのサポート付きDIYで付加価値も
ーー今回はカリアゲJAPANさんの「カリアゲ」という仕組みを利用して、物件オーナーさんの負担無しで賃貸にできたんですよね?
加藤:そうなんです。いま、ハンディはカリアゲのパートナー(※1)となる形でも、DIY賃貸を運営しています。リノベーション費用をハンディが負担する代わりに賃料の一部をいただく。さらには、大家さん業の管理もハンディが行うので、オーナーさんは管理する必要がなくて負担ゼロ。そして、6年後にはオーナーさんに物件が戻ってくる仕組みになってます。カリアゲのパートナーになっている会社は他にもありますが、ハンディハウスプロジェクトでは、DIY賃貸というコンセプトにして、賃貸でも家作りを楽しめる形にしました。
ーーこの仕組みを利用して、ハンディとDIY賃貸をスタートさせていかがですか?
伊藤さん:もっと早くお願いしていればよかったっていう気持ちでいっぱいですね。仕上がりがほんと素敵だったので、6年後に戻ってくるなんてラッキーです。お願いする前は、いつか売却しようと思っていましたが、そういった気持ちがなくなりました。
加藤:それは嬉しいですね。
伊藤さん:あのレベルのリフォームを自分でやっていたらけっこうな金額になったかと思いますが、それが自己負担ゼロなんて。完成を見て、将来娘に使ってもらうのもいいかなと思って、そのときの楽しみもできました。
ーー今回の賃貸のコンセプトは、現代の事情にも合わせたものにしたんですよね?
加藤:いまコロナ禍でリモートワークが普及して、通勤も必要がなくなったので、郊外の静かな場所での暮らしを希望する人が増えています。なので、ひばりが丘のような都心から少し離れている場所でも、若い人たちからニーズがあったりするんですよね。
ーー確かにそうですね。
加藤:一方で、友人同士やカップルなど、複数人で暮らす人たちは、リモートワークになったことで部屋数が必要となってきています。
ーーリモート会議とか、同じ部屋ではしづらいですもんね。
加藤:なので、1階は部屋を繋げて広い空間にしましたが、2階は敢えて部屋数をそのままに残して、全部で5部屋あります。
ーーそれは仕事もしやすいですね!ファミリー向けにもできますし、ニーズが広がりそうですね。
加藤:実際に内覧を申し込んでくる方の中には、若いカップルの方もいましたね。そして、入居者は、受付を開始して1週間以内に決まりました。
ーーそれはすごい!現代のニーズに合わせたコンセプトにしたことで、扱いに困っていた空き家が、“若い人たちも住みたくなる家”に変わったんですね。
ーーご実家を若い人たちも見に来ていたって聞いて、いかがですか?
伊藤さん:なんか不思議な気分。素敵になりすぎちゃってるので何とも言えない(笑)いやぁ、すごい嬉しいです。
加藤:どんな風に暮らしてほしいですか?
伊藤さん:私も自分の好きな空間にいられるのはすごく幸せだから、自分の好きなように、できる範囲で、DIYをしたり直したりしながら楽しんで暮らしてほしいです。それが自分に戻ってきたときに味が出ているだろうから、その日も楽しみにしてます。
設計から施工まで自分たちでやっているからこそできること
ーーDIY賃貸も設計から施工までハンディメンバーがやってるんですよね?
加藤:もちろんそうです。今回は、若手の大石、秋山、寛野のチームで取り組みました。設計も施工もできるチームなので全てお任せしましたね。
伊藤さん:初めてお会いしたとき、あの方たちが工事できるの?って思いました(笑)
加藤:そこ心配でした?(笑)
伊藤さん:工事はどちらかの業者にお願いするのかと思ってたので。
加藤:通常の建築会社だとそうなりますよね。ハンディの人が工事もしてる…みたいなことよくオーナーさんに言われます(笑)でも、ハンディのメンバーが全部担当しているからこそ、途中段階でオーナーさんも現場を見に来やすいっていうのはあるかと思います。伊藤さんも見に来てくださいましたよね。
伊藤さん:工事の過程も見られて、ほんと面白かったです。自分の家がこんな風になってるんだってワクワクしました。
加藤:壁の中とかこう作ってるんだとか、色々発見はありますよね。
伊藤さん:そうですね!家がどんな風に作られているのか見たことで、今住んでいる自分の家も色々DIYやってみようかなって思いました。
加藤:それは嬉しいなぁ。ハンディの仕事って、一業者としてオーナーさんからお金をもらって、ただ要望通りに作るんじゃなくて、オーナーさんも含めてひとつのチームになって、その人の暮らしの場所をつくるっていうところを大事にしています。
加藤:もちろん伊藤さんのオープンな人柄もあって、今回気軽に見に来ていただけたのもありますが、賃貸のプロジェクトであっても、現場にオーナーさんを呼べて、自分の今の暮らしへの発見を持ち帰ってくれるっていうのは、僕たちとしても新しい気づきでしたね。普段、家のリノベーションの現場では、家が作られる過程を知ったり、どんな人が作っているのかがわかると、暮らしてからの家への愛着が沸いたり、こう作り変えてみようっていう妄想がどんどん生まれてくる。賃貸だとオーナーさんは住まないのでそうした感情は沸かないかもなと思っていたところもあったので、伊藤さんのお話を聞いて、賃貸への可能性を感じましたね。とても勉強になりました。ありがとうございました!
ハンディハウスプロジェクトのDIY賃貸は、家作りを楽しめる仕組みをひとつの価値としてコンセプトに入れていますが、DIYをしなくても快適に暮らせるリノベーションを施しています。
地域やそのときのニーズに合わせて、物件オーナーさんや不動産屋さんと一緒に、物件の価値をあげられるようなコンセプトを考えています。ぜひ、ご興味ある方は、お気軽にお問い合わせください。
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取材・文 石垣藍子