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あのメールが全ての始まりだった クッポグラフィーと歩んだ スタジオ建築10年の軌跡
2024年8月、あるプロジェクトオーナー(施主)さんのインスタグラムで、10年越しの思いが綴られた。書き出しには、「受信トレイに届いた一通のメールから、クッポグラフィーのフォトスタジオは始まった」と一言。クッポグラフィーの代表でフォトグラファーの久保真人さん。
ハンディハウスプロジェクトと久保さんの付き合いは今年で10年目になる。これまで、スタジオ7店舗と久保さんのご自宅づくりを担当した。
「何をするかではなく、誰とつくるかが大事」
お互いに駆け出しだった頃から二人三脚で歩んだ道のりを振り返る中で、クッポグラフィーの写真とハンディハウスプロジェクトの建築には、“作り手の人柄”が欠かせないという、共通点があることも見えてきた。
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クッポグラフィー代表 久保真人(くぼ まさと)さん ※写真中央
1982年生まれ。大学卒業後、フリーの報道写真家として、中東・アジア・アフリカなどの紛争地で現地の人たちと暮らしを共にしながら撮影をした。海外取材の合間にウェディングフォトの撮影に携わり、人の人生に触れるこの撮影は自分にとって天職だと感じ、ウエディングフォトグラファーに転身。2011年、世界のトップウェディングフォトグラファーで構成されるWPJAで、日本人初の会員となる。
2014年、クッポグラフィー初のスタジオをハンディハウスプロジェクトとつくる。現在は、東京、横浜、福岡、沖縄にスタジオを展開。今も現役で撮影を続けながら、ウェディングフォトグラファー向けのワークショップも開催している。
坂田裕貴(さかた ゆうき) ※写真左
ハンディハウスプロジェクト 創業メンバー。2014年以降、クッポグラフィーのスタジオづくりを担当。ハンディハウスプロジェクトでは、現在は「後援メンバー」として携わり、若手建築家向けの勉強会などで育成につながるサポートを行う。株式会社a.d.p 代表。
加藤渓一(かとう けいいち) ※写真右
ハンディハウスプロジェクト創業メンバー。意匠設計の経験をもとに、つくることだけではなく、デザインやアイディアの創出を大切にしている。自分の頭の中にあるイメージを自分の手でつくることを楽しむ建築家。株式会社スタジオピース一級建築士事務所 代表。
HandiHouse project(ハンディハウスプロジェクト)※以下ハンディ
設計から施工まで、すべて自分たちで行う建築家集団。「どんな家(店)にしようか」という最初の妄想からつくる過程まで、“施主参加型”の家やお店づくりを提案。合言葉は「妄想から打ち上げまで」普段は別々の現場で活動をしているが、一人でできないプロジェクトはチームを組んで取り組んでいる。
10年分の思いを伝える インスタのメッセージ
ーー先日は、久保さんのインスタでハンディについて投稿をしてくださりありがとうございました。このタイミングでハンディとのスタジオづくりについて発信してくださったのはどうしてだったのでしょうか?
久保さん:普段僕のインスタでは、自分の中で言葉にできるような撮影があったり、撮影後に伝えたい思いがまとまったときなどに投稿をしていて。今回、加藤さんがお子さまが産まれたお祝いで福岡スタジオに来てくれて、ちょうどそのときに僕も福岡にいたこともあって撮影をする機会に恵まれて。久しぶりの再会に思いが溢れて投稿をしてみました。
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加藤:お互い福岡にいて、こんな形で再会ができて嬉しかったです。投稿してくださったのは、久保さんがハンディにスタジオづくりの依頼で問い合わせをしてくださったメールに対して、僕が返信をした内容についてでしたね。懐かしい。
【久保真人さんのインスタグラムの文章】
2014年1月9日、深夜0時44分。
受信トレイに届いた一通のメールから、クッポグラフィーのフォトスタジオは始まった。
“久保さまこんばんは。想いの詰まったお返事ありがとうございます。メンバー全員で読ませて頂きました。率直に言うと、ご一緒にお仕事したい!という意見で4人共一致しています。
ハンディハウスが大切にしているものは、「スタートラインの立ち方です。」従来の工務店の多くは、綺麗な「モノ」を渡すだけ。お客さんは完成品のみしか与えられません。僕らはデザインも工事も一緒になって、プロセスから楽しみます。
また、設計期間で決めた内容が絶対ではなく、一緒に現場で作りながら考え、その都度新しいアイディアを形にすることができます。現場でのひらめきは、もの作りの醍醐味ですし、ひらめきやイベントの数だけ、新しい空間への想いも増すはずです。
この「楽しいプロセス」を共有することで、「愛着」が生まれます。
お客さまにとっては完成がスタートラインです。
完成時の想いが、これからその空間での生活や仕事を、楽しく、意識高く、してくれるのではないかと考えています。
お断り前提でも構いませんので、近々で一度お会いしませんか?
お仕事ご一緒できなくても、僕らと話すことで、久保さんに何かきっかけが生まれれば良いなと思っています。お忙しいとは思いますが、ご都合いかがでしょうか?しつこくてすみません。ただ、メールを読んで一度お会いできたらなと思う次第です。お返事頂ければ嬉しいです。どうぞよろしくお願い致します。 加藤渓一”
初めて銀行からお金を借りてスタジオづくりを始めた僕は、大手の建設会社のリノベーション部門がおしゃれに作っているウェブサイトに惹かれて、何度か打合せを重ねていた。
しかし、大企業ならではなのか思ったように自分の思いが届かず、出てくる提案は、内部の壁を白く塗っただけのようなものだった。
迫ってくる物件の契約、発生する家賃。
日に日に焦りが増して、早くもはじめてのスタジオ作りに挫折しそうな時だった。
「妄想から打ち上げまで」
そんな変わったコピーを謳う、同世代の作り手集団。設計もするし工事も自分たちでする。なんなら依頼主である施主も工事に関わって、一緒にお店や家を作っていく。それが、Handihouse project(ハンディハウス プロジェクト)のやり方だった。
当時フリーランスだった僕にとって、その作り手精神がとても共感できたし、何より肩を並べて同じ目線でものづくりができそうで、直感的に「この人たちしかいない!」と思って、ウェブサイトのフォームからメールを送った。
今では皆さん大忙しで、一緒にプロジェクトを進めることはあまりないけれど、当時はまだ贅沢の極みで、メンバー4人全員で初めての打ち合わせに来てくれた。
忘れもしない、渋谷駅の新南口にあるカフェ。奥のソファ席に座って、5人でああでもない、こうでもないと、話は尽きなかった。
そんな出会いから始まったクッポグラフィーのフォトスタジオは、今では業界の中でも少し名の知れたものにまで成長した。そして、ハンディさんなしでは、今のように発展することは絶対になかったと断言できる。
その時のプロジェクト件数などから、設計は加藤さんではなく坂田さんにご担当いただくことになったが、加藤さんも色んなスタジオに足を運んでいただいた。
今までに、
2014年 横浜港北スタジオ
2016年 横浜オフィス
2017年 沖縄スタジオ
2019年 横浜港北スタジオの移転リニューアル
2020年 駒沢公園スタジオ
2021年 沖縄スタジオのリニューアル
2022年 駒沢オフィス
おまけに2018年には、僕の自宅のリノベーションまで担当していただいた。
ここまでが前置き(笑)
先日、初めのメールをくれた加藤さんが福岡スタジオの予約をしてくれて、僕が撮影を担当することができた。
今までの10年間のお礼を伝えるにはまだまだ足りないけれど、少しは恩返しができたかな。
何をやるかよりも、誰とやるかのほうが大事。
仕事をしていればよく聞く言葉ではあるけど、それを本当の意味で教えてくれた、HandiHouse project 加藤さんファミリーの撮影でした。
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久保さん:やっぱりお世話になった方の写真を撮ると、特別な気持ちになりますね。坂田さんは結婚式で撮らせてもらいましたね。
坂田:その節はありがとうございました。
久保さん:そういえばハンディさんについてはインスタで書いたことはなかったなと思って。10年分の思いを一つ一つ思い出しながら書いたのですが、書きたいことがどんどん出てきてしまって。あんなに長文を書こうと思っていたわけではなかったのですが(笑)
坂田:メールの内容は、投稿文を書きながら思い出したのですか?
久保さん:あれはもうずっと僕の心に残っている一通です。
加藤:そうなんですね!嬉しい。
初めて触れる建築業界で感じた “ワクワクしないものづくり”
ーー久保さんと出会った頃は、ハンディはまだ創業から2年ほどでした。
坂田:よく僕たちを見つけてくれましたね。
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久保さん:とにかく検索して建築会社を探しました。ちょうど大手の建築会社に相談をしている最中のことでした。当時まだ僕はフリーのフォトグラファーとしてウエディングを中心に撮影をしていた頃で、そのときに手持ちで出せる予算が限られていて。融資で借りる予定でしたが、手持ちの予算に合わせた提案しかつくってもらえなくて先に進みませんでした。融資を確約できていない以上、建築会社も予算以上の提案に労力をかけるのは難しいですよね。頭ではわかっていましたが、予算の話ではなくて、どんなお店をつくるのか、中身の話をしたかった。
坂田:建築業界のシステムの壁にぶつかったわけですね。どうしても現実的な予算に合わせた内容や見積りをつくることが先行しますからね、この業界では。
久保さん:そう。お店づくりってもっとワクワクするものだと思っていたのですが、いきなり困難しかなかった。
ーーそれで、別の会社を探し始めたわけですね。
久保さん:世の中にどういった作り手の方がいるのかがわからなかったので、手当たり次第に調べました。ハンディさんのホームページを見つけて、あ!ここだ!って。直観的に感じましたね。
ーーどんな部分に魅かれたのですか?
久保さん:ハンディさんのメンバーは、僕と同じように各々がフリーで活動をされていたので、きっと同じテンションでコミュニケーションがとれるだろうって思ったんです。しかも、建築業界のルールや悪しき伝統を良い方向に変えたくて創業したことも、ホームページにも書いてあったので、きっと僕の気持ちをわかってくれるだろうって。
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一通のメールから始まった10年の付き合い
ーー加藤さんが送ったメールの熱量もすごかったですね。
久保さん:定型文とかではなくて、本当に思っていることを返信してくださってると感じました。思いのたけをメールで送ってみたらこんなに熱い返事をいただいて。
この一連のやり取りが、自分にとってはすごく印象的で。あのメールが全ての始まりだったなって今でもよく覚えています。
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ーー最初のメールでは、スケジュールが厳しいとお断りの返事をしたそうですね。それなのに、仕事がご一緒できなくても会いたいとメール文に書いたのはどうしてだったのですか?
加藤:今読むと、全然よくわからないメールですよね。スケジュール的に難しかったのに、会って話しません?みたいな。
久保さん:お願いしているのは僕だったんですけど、逆に会いたいって言われてる(笑)
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坂田:確かに(笑) でも、今でも久保さんのように情熱をぶつけてくれるような方からお願いされたら、忙しくても何とかして引き受けてしまうかも。これはちょっとやらないとダメだなって。
あとは単純に、自分たちに興味を持ってくれている方がどんな人なのかが知りたかった。当時は特に、色んな人たちから必死に学ぼうとしていました。あらゆる機会や出会いを、どうにか自分たちの学びに変えていきたかったし、理解したいと思っていました。今でも同じ気持ちでいますけどね。
ーー実際に会ったことで、気持ちが変わったんですね。
加藤:そうですね。久保さんと一緒にスタジオをつくることは、ハンディにとっても転機になるかもしれないと話しながら感じました。まだほとんど知られていなかった頃の僕たちのホームページを見て問い合わせをくださったことがそもそも嬉しかったし、その思いを絶対に取りこぼしたくない。そんなハングリーさもあったと思います。
久保さん:ハンディさんに会って、建築業界へのイメージが180度変わりました。建築について何も知らない僕の話に本気で向き合ってくれて、まるで自分のスタジオをつくるかのように、みんなでディスカッションをしてくれて。その時間が本当に楽しくて、皆さんへの信頼が増していきましたね。
ーー坂田さんが担当することになって、クッポグラフィーとのお付き合いは今年で10年になります。この間、7店舗と久保さんのご自宅をつくりました。
坂田:当時僕が一番店舗づくりの経験があったこともあり、メンバーの中田さんが「このプロジェクト、坂田くんがいいんじゃない?」って言ってくれたんですよね。
おかげさまで、2人の子どもを養えています。我が家を支えていただいてありがとうございます(笑) 当時の中田さんにも感謝ですね。
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転機となった駒沢公園スタジオ 空間の力を感じた瞬間
坂田:全部で7店舗をつくらせていただきましたが、駒沢公園スタジオから、少し久保さんの建築に対する意識の変化を感じて。あのときはどんなことを考えていたのですか?
久保さん:以前は、“撮影をするための場所をつくる”という意識で依頼をしていたのかもしれないですね。こういう背景が欲しいとか、アンティークな雰囲気がいいとか。
でも、2019年の横浜港北スタジオの移転リニューアルでカフェスペースをつくっていただいたり、Yard Works(ヤードワークス)さんに植栽で入っていただいたりする中で、空間が持つ力ってすごいなって感じるようになっていって。
ーー空間が持つ力。
久保さん:カフェスペースをつくると、そこは撮影をするためのスタジオという機能だけではなく、ひとつの“場”になります。
坂田:居場所のような。
久保さん:そう。人が滞在することによって、新しい空気が生まれていくような。
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久保さん:撮影用の背景としてのスタジオではなく、居心地の良い“場”となる空間にしたいと考えるようになっていきました。背景はどんなものであっても、フォトグラファーが頑張れば写真のクオリティは上がるので。
坂田:僕への依頼の仕方にも変化を感じました。最初は細かく要望を伝えてくださっていたなと思って。
久保さん:駒沢公園スタジオを依頼したときはリブランディングの時期と重なっていました。空間やブランディングなどについて調べたり、実際にスタジオづくりを重ねていく中で、その人の持っているクリエイティビティを発揮していただくためには、指示は具体的すぎないほうが良いということも学んで。確かにそうだなと。僕たちが新郎新婦さんから、こういう写真を撮ってくださいって細かく言われるのと同じことになってしまいますからね。
加藤:1店舗目からのブレイクスルーを傍で見ていて面白かったです。久保さんの中で何が起きたんだろうって。これまで撮影背景を重視した2次元の空間だったものが、急に駒沢公園スタジオから3次元の空間に変化したように感じて。
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久保さん:しかしこの物件ではご苦労をおかけしました。やりたいことと物件のポテンシャルに乖離があったりもして。
坂田:そうでしたね。半分はカフェスペースにしたいという要望がある一方で、フォトグラファーが引いて撮影する分のスペースもつくらないといけなかったりもして。
久保さん:何度かやり取りする中で、手前にもう一つ小屋のような個室をつくって光を取り入れるアイディアをもらったときは、「もう、すごいっ!!」って思いました。ひとつの空間をどう仕切るかしか考えていなかったので、別の小屋をつくるという提案をいただいたときは、すごすぎて…。もうこれしかないですねとお伝えしました。
絶対に自分ではこんな考えは浮かばない。プロの力を知って、心からリスペクトしました。
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坂田:駒沢公園スタジオからは、ざっくりとしたイメージを共有しながら、自分自身のこれまでの引き出しや新たなアイディアを形にしていく空間づくりに変わっていって。これまでの自分を掘ってもらっているような感覚にもなったんですよね。設計をしたり空間をつくることって楽しいんだなって、改めて感じられる仕事になりました。
ハンディが大事にする スタートラインの立ち方
ーー加藤さんがメール文で伝えていた、「スタートラインの立ち方」あの言葉にはどんな意味が込められているのでしょうか?
ハンディハウスが大切にしているものは、「スタートラインの立ち方です。」
加藤:文面に書いたことは、ハンディを創業する前からメンバー4人で話し合ってきたことの全てです。
この言葉は、岐阜の老舗繊維メーカーを営むオーナーさんから言ってもらった言葉なんですよね。僕たちが大切にしていることをまさに言語化してくださったなと思って、使わせてもらってます。
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加藤:完成した後にオーナーさんから、「良いスタートラインに立つことができました」とメールをいただいて。その言葉に感動しましたね。あぁ、僕たちがこれから日本全国に広めようとしている価値観の先にはこういうことが待ってるんだなって。
従来型の家や場所づくりのプロセスにはオーナーさん(施主)が関わっていないことが多いですよね。そこに疑問を感じてハンディを創業しました。プロセスの部分にも住まい手や使う方が一緒に参加することで、建築全体へのリテラシーが上がって建物への理解が深まります。そうすると、完成していざ使い始めるスタートラインで、家やお店に対して全然見え方が変わってくると考えていて。愛着がわいた状態でスタートラインに立てると、その後の仕事や暮らしが豊かになると信じてハンディをやっています。
坂田:空間が動き出したときにはもう僕たちはいませんからね。スタートラインに立つところまでを僕たちが頑張る。
加藤:なんかかっこいいね。
久保さん:名言が出た。
面白いですよね。空間が出来上がったらハンディさんはいなくなるじゃないですか。写真と似てるなって。僕たちも撮影が終わったらいなくなりますが、写真はその人の家にあって。僕は毎日その人を直接的にサポートすることはできないけれど、その写真が励ます存在になってくれると信じてやっています。空間も、一緒につくった人たちの顔が時々浮かんだり、あの時は楽しかったなって思うと元気が出たり。愛着を持った状態でそこにいられるのは、本当に幸せだなって思います。
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ーークッポグラフィーは、撮影のプロセスも心に残る時間になるように大切にされていますね。ハンディとクッポグラフィーは、プロセスを大切にしているところが似ていますね。
久保さん:価値観が似ていますね。僕は自宅も坂田さんにつくってもらいましたが、明らかに家に対する思いが変わりました。
ーーどんな風にですか?
久保さん:一般的には、家を購入することを検討し始めたとき、戸建て?マンション?どこに住む?といった話になるかと思います。
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久保さん:僕はハンディさんとスタジオづくりをしながら建築に対するリテラシーが上がっていって。家をつくることになったとき、まず最初に考えたのが「どんな暮らしを望んでいるのか」でした。例えば、無垢のフローリングの上で寝そべる時間を想像したり、家での居心地について思いを巡らせたり。全てのプロセスに参加してつくった自宅での暮らしはとても快適で豊かです。
坂田:それはよかった。実際に手を動かさなくても、プロセスの段階で住まい手が選択する経験があるかないかだけでも、その後の暮らしがずいぶん違うと思います。
久保さん:そうですよね。坂田さんと相談をしながら、区切られていたいくつかの部屋をひと続きの広い空間として使えるようにしました。そうしたことで、夕暮れ時、どの部屋にいても淡い色に移ろいでいく空を眺めることができるように。家の中にいながら、どこにいても空を感じられて、まるで外にいるような居心地になるんですよね。日々の暮らしでこんな心地よさを感じられることを、とても気に入っています。
何をやるかよりも、誰とやるかのほうが大事
ーー久保さんのインスタの一文にあった「何をやるかよりも、誰とやるかのほうが大事」この言葉も印象的でした。
久保さん:クリエイティブなものってそのもの自体よりも、誰がどうやって生み出したのか、そのストーリーこそが価値をつくっていくと思っていて。写真でも家でも、そこにどれだけ人が情熱をかけたのか、その人と一緒につくって育まれた愛着が価値となっていく。そう考えると、どんなものでも、つくった人やプロセスを知らずに購入するのはちょっともったいないなって。
だからこそ、いつもプレッシャーを感じながら撮影しています。僕だから新婦さんのお父さんが泣いている瞬間に気づいて、この写真を届けられたと思えるように。僕が撮った写真のおかげで人生が変わったと思ってもらえるように。自分が撮影する意味や、自分だからこそ提供できる写真についていつも考えています。
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CONTAXとウェディングケーキ
(撮影・文 久保真人/久保さんのInstagramより)
「昔から優しい子やったよ」」
そう言ってお父さんがこっそり教えてくれた、新婦の子ども時代。
「納屋の方で捨て猫が5, 6匹見つかってね、そしたらあの子が『私が大きくなったら働いてお金を返すから、この子たちをみんな飼ってほしい』って言ったんです。その後は、ねこ屋敷ですよ(笑)」
お父さんは昔もきっと、新婦がその猫たちと遊ぶ姿を、このCONTAXで追いかけたんだろう。一瞬も逃すまいと、今日みたいに足を踏ん張って、構えたんだろう。
その家族のストーリーを写真で紡ぐ。
それが、私たちクッポグラフィーにできること。
私たちがその場にいなければ、一生振り返る機会がないかもしれないこと。
そんなことを一つひとつ写真に残して、その人の永遠の思い出にするのが、私たちの役目だと思っています。
いつかふたりがこの写真を振り返った時に、自分たちの人生がとても豊かで幸せなものだと再確認できるように。
一枚いちまい思いを込めて。
今日も結婚式の撮影に向かいます。
久保さん:ハンディさんとの家やスタジオづくりを通して、誰とつくるのかが本当に大事なことなんだなって改めて感じました。
坂田:そんな風に言っていただいて、嬉しいです。
久保さん:品質も重要ではありますが、それ以上に、少ない予算の中で何とかやってあげたいっていう思いで、僕のために皆さんが知恵を絞ってくれたあの時間が、その後の心の支えになりました。最初の横浜港北スタジオのときは、本来ドア1枚をつくるのにも何万円もかかるところを、既存のドアをひっくり返したりしながら、お金をかけずに何とかしようと一生懸命に考えてくれて。
坂田:写真も建築も、ストーリーを肉付けすることで愛着となり、そのもの自体の価値が高まるのかもしれないですね。だからこそ、ストーリーが崩れた瞬間に、品質まで一気に悪い印象になってしまったりも。ちょっとの減点では済まされず、100まで積み上げたものが、一気にマイナス100になってしまうこともゼロではない。そういったプレッシャーと戦いながらやっているところはありますね。
久保さん:本当に。魅力的な組織って、社名を見て浮かぶのは人の顔だったりします。ハンディさんのロゴを見て浮かぶのは、あの日渋谷のカフェで出会った創業メンバー4人の顔です。魅力的な人が組織にいて、その人たちの熱量でチームが大きくなっていって、その人たちに魅了されたお客さんがハンディハウスプロジェクトを好きになっていく。品質以上に作り手の人柄は重要だと思います。
加藤:僕は過去に何度か、クッポグラフィーで他のフォトグラファーの方にも写真を撮ってもらったことがあって。どの方に撮っていただいたときも、すごく良い時間が得られてあのときのことを思い出します。撮影以外でも、散歩がてらカフェに立ち寄ったりしますが、皆さん明るくて気持ちが良いんですよね。誰にお願いしても、誰と接しても、クッポグラフィーの方々がもつ“人柄”によってその日一日の価値が高まるのはすごいなって。
家づくりも、この人のこの作品が好きだから指名するということもあるのですが、たまたま担当した、作品性などのフィルターがかかっていない人と、一緒に汗を流してつくっていいものができたときこそ、感動が倍増すると思っていて。自分の想像の範疇を超えて何かが起こったりすると、すごく楽しかったりしますよね。
僕たちもクッポグラフィーのように、誰が担当しても、「ハンディとつくってよかった」と言ってもらえるような組織をつくっていきたいなと思っています。
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ーー10年前、クッポグラフィーはどんなスタートラインに立つことができましたか?
久保さん:ハンディの皆さんと出会えたことで、僕たちはフォトスタジオとしても、フォトグラファーとしても、真の意味でスタートラインに立てたと思います。
スタジオづくりの過程において、「できない」とか「足りない」といって色んなことを諦めるのではなく、逆境をバネにしてどんなことも楽しみながら実現していくんだということを、ハンディの皆さんから教えてもらいました。
まだ世の中にない、クッポグラフィーだから届けられる新しい撮影や写真の価値を、僕たちが業界の常識に縛られることなく心から追求することができているのは、ハンディの皆さんと一緒にスタジオづくりができたおかげです。
これからも一緒に、クッポグラフィーのスタジオの可能性を広げていける関係であり続けていただけたら嬉しいです。
取材・文 石垣藍子
kuppographyとHandiHouse projectのメンバーがスタジオを一緒につくったときの動画です。ぜひご覧になってください!
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