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生涯にわたり

「これは生涯に渡ってということです」
医師の言葉に、私の心がざわっと揺れた。


総合病院の脳神経外科。
少し前に「くも膜のう胞」という良性疾患が見つかった次男の受診で言われたことだ。

くも膜のう胞はそれ自体は何も悪さをせず、治療の必要性はない。
しかし、頭蓋骨と脳の間にそれなりの大きさ(次男の場合、アボカドの種くらいの大きさがある)ののう胞がある訳だから、ある種のリスクはある。
そのリスクというのは大きく2つ。

  1. のう胞が大きくなり、脳を圧迫すること

  2. 強い衝撃等で硬膜下血腫という合併症を引き起こす可能性が高いこと

1については、次男の年齢を考えても、これ以上肥大化する可能性は低いという。
念のため5歳になったころにもう一度MRIをとり、そこで極度の肥大化が認められなければフォロー終了となる。

問題は、2について。
くも膜のう胞がある人は、そうでない人に比べて、衝撃による硬膜下血腫を引き起こす可能性が高いという。

そのため、ラグビーや柔道、アメフトやボクシングなど、頭部に強い衝撃が加わる可能性があるスポーツはできない。

特にボクシングについては、くも膜のう胞がある選手はその状態により出場を制限されることもあるそう。
だから彼は、プロボクサーにはなれない。

これは、「生涯に渡り」ということ。


生涯に渡って人が背負うものなんてたくさんある。
次男に限っていえば、きっと彼は生涯に渡って背が低いし、目は二重だし、まつげは長い。
生涯に渡って私の息子だし、生涯に渡って長男の弟だ。
だから、生涯に渡ってラグビーや柔道やアメフトができなくたって、プロボクサーになれなくたって、それは大したことではないんだ。
命にかかわる病気にかかったわけでもない。

正直に言って、「なんで自分はプロボクサーになれないんだ」と思うことより、「なんで自分はこんなに背が低いんだ」と思うことのほうが多いだろう。


それでも、診察室で医師からはっきりと告げられた、息子についての「生涯に渡る」禁止事項は、なんだか私の心のずっしりとのしかかった。
それは、私が生み出した命の重みを、再確認させられるようなものだった。

小さな産婦人科で生まれ落ちて、すくすくと育って、小学生になり、中学生になり、親元を離れて社会人になり、中年になり高齢になり、命落とすその瞬間まで生きる「人間」。
それを私は生み出して、いま育てているんだと。

そう再認識したら、なんだかとっても弱気になってしまった。
らしくないな。


育つように育て。
たとえプロボクサーになれなくたって、可能性は無限にあるのだから。



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