鏡
この前、電車落とし物市で70年代のバッグを買った。中は整理されてなくって、歯医者の診察券と手持ち鏡と黄ばんだハンカチが出てきた。汚かった。一通り掃除と殺菌をして鏡と見つめ合った。あんたは私より長生きしてんだなぁ、と思った。見つめ合いすぎて前の持ち主の顔映らんかなぁとか思った。当然そんなことは無かった。
親戚が故人の鏡を預かったことがある。彼女はそれを日常使いしたが、それからお気に入りの皿が割れたり、骨折したり、胃腸炎になったりした。小さな不運に見舞われた。彼女はふとその鏡をみて、お前かっとそれに尋ねた。
パリーん
と鏡が地面に落ちて割れた。ゴメンっ!と謝ってる様子だったらしい。その鏡の以前の持ち主は、綺麗な黒髪でワンピースが似合い、赤いリップを欠かさず持ち歩く彼女に嫉妬したのだろう。だから、鏡に魂を宿し悪戯をした。
嘘みたいな本当の話だ。
だから私は鏡に一言、
私可愛いけど、嫉妬せんとってや
と言った。
今んとこ大丈夫。
でもなんで、診察券、ハンカチや鏡が入ったバッグを電車に忘れたん?そこで死んでもうたん?
とか考えてしまった。
でもそれもあり得る話。
もしくは、めっちゃ急いでたとか?
恋人に貰ったバッグやって、振られたから、もうそのバッグ見たくあらへんって電車に置いてきたん?
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