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オフィーリアの面影

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美術・音楽・映画その他、感想評論ごった煮
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闇系彼氏に首ったけ-ちょっとした悲劇と美術試論-

恋は突然に20XX年1月8日、AM5:25。 画面が完全にブラックアウトしたノートパソコンの前で、私の頭は真っ白になっていた。 神様。 確かに私は、この『彼氏』様と、2年間別れたいと言い続けてきました。 歴史に名を残すメンヘラで、サイコパスで、クッッッッッソきまじめで、超病み系すぎる『彼氏』様と、別れたいと願ってきましたよ、ええ。ええ。そりゃあもうツイッターのタイムラインを毎日「もうむり」「つらい」「逃げたい」といったワードの連続で荒らしまわるくらい、切望してきましたとも

JUNK

まだ興奮している。やることに隙間ができると思い出す。米津玄師。 感想を書くか迷った。ヨルシカのライブの感想は、オンライン「前世」を除けば一度も書いていないし、それはなんだか、言葉にしてしまうと端から容易くあの繊細な世界がわたしの裡から消失してしまいそうな気がするからなのだけれど、米津玄師のこと、わたしのこの、無性に高鳴って止まない感情は、やっぱり残しておかなければ、と思う。明日のわたしのために。まだドキドキしている。目の前がまだ、チカチカしている気がする。明滅する。光。 セ

どんな自分を選んで生きてゆくかについて/読了2024

今年も毎月本を読んだ。2024年読んだ本のまとめ。 January/岡真理『ガザに地下鉄が走る日』 February/キム・ジヘ『差別はたいてい悪意のない人がする』 国の課題図書にしたほうがいいと思う、というのはともかく。韓国と日本はとても状況が似ていて、けれどそのなかで本書がベストセラーになる韓国とそうではない日本の差を考えざるを得なかった/post(1) 無意識にやっている差別から構造的な差別まで幅広く考えられる。でもとくには、9章が印象的で、「不平等な社会が息苦

米津玄師「LOST CORNER」感想|今回もどこへも行けませんでしたけども。

私が米津玄師のアルバムで一番聴いたのは「BOOTLEG」なのだけども、「LOST CORNER」も負けず劣らずっていう感じなので、備忘録がてら。この感想は解釈ではなく私のフィーリングなので、本人のインタビューとかと乖離してても許してくれ。 アルバム全体の印象としては、最初から最後まで、車に乗ってどこかへ行こうとしてなんかいろいろなくしまくって結局どこへも行けませんでした、みたいな感じ。米津の曲がどこへも行けないのはいつものことなんだけど、なんかめっちゃ食ってるし、食べるとい

あなたのことは、あなたが決めていい

6月は祝日がないので、特に用事はなかったが有休を取った。惰眠を貪ろうかと思っていたが、陽が昇る頃に起きて、映画「違国日記」を観た。 画面全体の印象としては、是枝裕和監督作品「海街diary」やソフィア・コッポラ監督作品「SOMEWHERE」みたいな感じだった。ヤマシタトモコの原作を既読の私からすると、原作で肝要だった各所のメッセージを薄めているという感覚もあり、率直にいいか悪いかを聞かれたら「作品としては微妙」と言う。 例えば、森本千世が、女性という性別ゆえに蒙る理不尽に

私たちの絶望と祈り/読了2023

過去5年くらいまともに活字が読める感じではなかったのが今年は毎月読めたので、月ごとに読んだ本のまとめ。感想は殆どツイッターからの再録。 January/山内マリコ『あのこは貴族』 2022年のうちから「2023年の初めに読む本はこれ」と思い、取り寄せた本。 問いは「私が私として生きられる場所はどこか?」ということだと思うけれど、葛藤が浅くていろんな社会課題をつまみ食いするような展開なのでちょっと肩透かしな感じもした。もっと多層的で複雑なテーマだと考えているからかもしれな

私を真夜中から連れ出すヨタカ

BOOTLEGのカバージャケットがエドワード・ホッパーみたいだと人に言われて、見てみたら確かにホッパーのようだと思い、ちょうどそのとき書いていたこの曲に米津は「Nighthawks」と名づけたらしい。シカゴ美術館に所蔵されているNighthawks(夜更かしする人々)はホッパーの最も有名な作品である。どこに建っているかも明らかではない夜のレストランPHILLIESで、一組の男女、一人の男、一人の店員が揃っている。 私は最初、米津がホッパーの作品からインスパイアされてNigh

不埒な女の正体

掌編「La Maja」 北方の山脈の向こう、隣国で勃発した革命の気配が流れ込み始めている危機的な時世、夫である国王陛下が改革派の国務大臣を左遷した。次いで、相対する派閥、生粋の大貴族である公爵をその任に就けたけれども、公爵は何ら有効な手立てを打てず、しばらくして失脚した。代わりに国務大臣に任じられたのは、若干二十五歳の青年である。平民出身、十七の時分に近衛隊に入隊している。陛下に進言し、推挙したのはわたくしである。青年はわたくしの気に入りだった。五年前の話だ。 ますます危

陽炎に嫉む│デビュー10周年、私の米津玄師10曲プレイリストを作ってみた

2022年5月16日、米津玄師のデビュー10周年。おめでとうございます。 で、ナタリーの記念特集でAyase、syudou、須田景凪、菅田将暉、Vaundyがプレイリストを組んでいて面白かった。 特にAyaseの選曲はまんま俺すぎて笑った。私が組んだのか……? テーマ「まま流し推奨米津玄師プレイリスト」、わかりみが過ぎるAyase。 春雷、推されている(3)。次点でPale Blue、クランベリーとパンケーキ、死神、メランコリーキッチン、再上映(2)。 Excelにリスト

僕のヒーローアカデミア劇場版で考えた「エンパシーとは何か」

原作・堀越耕平の少年漫画『僕のヒーローアカデミア』の劇場版3作目「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE:ワールド・ヒーローズ・ミッション」を6回観に行ったので感想を書きたいと思う。 実は、8月6日に公開されてからほぼ2週間置きペースでこの映画を鑑賞していたのだけど、ぼやっと日記に書くだけできちんとまとめていなかった。というのも第一に、私はここ10年ほどの少年漫画に疎いので、感想を述べるのにそもそも若干及び腰なところがある。第二に、この原作漫画はMCUにたぶんめちゃくち

顔のない女などいない

セリーヌ・シアマ監督作品、映画「燃ゆる女の肖像」を観た。メニエール病を罹患してからの私はほとんど映画から遠ざかっているので近年の傾向はさっぱり浦島太郎なのだけど(映画館であれ家であれ長時間視聴することに負荷が強くすごく体力と気力を使うため足踏みしてしまうのだった)、2020年に映画好きの中で盛り上がっていたのが鮮明で、久しぶりにあぁ観ておきたいな、と思ったのだ。地元ではもう上映したのだろうかと調べたら、1月15日から2週間だけ上映するというので楽しみにしていた。 1月15日

青い日

ヨルシカのストリーミングライブ「前世」を観た。よかった。よかった、という安直な感想しか思いつかないくらい視聴後はわりと放心していて、それでも放心の中、感じたことを手繰り寄せた。「水、海、小宇宙、原初、全てが生まれる場所、だけど水槽は擬似的な空間でしかなく生まれるものなく私たちはどこへも行けない、それでも君といたい、眠るように、春を待って。パフォーミングアーツ、インスタレーション的な、ライブとは思えない芸銃的な作品」。アーカイブ配信があるのはわかっていたけれども、最初の感動はそ

【サンリオ展感想】「カワイイ」の中で生きている私たち

引きこもりも程々にしようとハローワークのついでにサンリオ展に行ってきた。毎日バナーを作っていて知識不足に唸っているのでデザインの引き出しを増やすのにも丁度よいかなと思い。 コロナ禍になってから閉館の2時間前くらいに美術館へ行くようになったのだけど、混んでいなくてよい。殆ど人がいなかったので写真撮り放題だった。撮影可の展覧会増えたなあ、まあ写真を撮っていると思考が疎かになるので良し悪しはどっこいどっこいな気はする。じっと作品をみて対話をする意識は撮影していると結構どこかへ行っ

菅田将暉と米津玄師の「まちがいさがし」のまちがいさがし

私は菅田将暉の歌う「まちがいさがし」が好きだ。どれくらいかというと、いっとき(おそらく2ヶ月ほどの間)、朝はこの曲しか聴かず、数日おきに行く一人カラオケで3時間ぶっ通し「まちがいさがし」しか歌っていなかったくらいである。 米津玄師「STRAY SHEEP」には、楽曲提供者である米津自身がセルフカバーしている「まちがいさがし」が収録されている。 インパクトの強いリード曲「カムパネルラ」から始まって、詞とリズムで捉えどころなくフラフラと舞い遊ぶ「Flamingo」、ドラマ主題