マガジンのカバー画像

昭和 近代文学 名著復刻版

15
1926〜1943(昭和元年〜昭和18年)
運営しているクリエイター

2022年7月の記事一覧

暗夜行路

志賀直哉 60歳。 長編小説。大きくてずっしり重たい「百科事典」のような本。表紙は文字のみですが、本体には挿絵が8枚も入っています(ページに貼り付けているタイプ)。 これまで数多くの本を紹介してきましたが、「口絵、挿絵」を担当した人の名前が紹介されていない場合がほとんどでした。ところがこちらの本では1ページを使い、丁寧に紹介してくれています。(ありがたい) 本の装丁には著者の思いがこめられています。なので私としては是非知っておきたいのです。

新篇 路傍の石

山本有三 54歳。 奉公に出された吾一が多くの困難にぶつかりながらも成長していくストーリー。昭和16年の夏、厳しい検閲の監視の下にて出版されました。 山本有三と主人公(吾一)との共通点、それは「呉服屋での奉公」。山本自身は奉公先から逃げ出したそうですが、小説の主人公は何度も困難に立ち向かうことになります。 ◉装釘 南沢用介(白井晟一〜建築家) 著者 山本有三 発行書 岩波書店 戦後は議員、1965年には文化勲章を授与されるなどして、87歳でこの世を去りました。 *

風立ちぬ

堀辰雄 34歳。 白を基調とした上品で美しい本。非常に丁寧な作りで製本されています。色は白と茶、背表紙の表題はゴールド。 自身も病を抱えながら婚約者とともに長野県の療養所に入院、のちに婚約者は死去。「風立ちぬ」はそのときの体験に基づいて書かれています。 ポール・ヴァレリーの詩、「海辺の墓地」より。 生きなくてはいけない。という意味だそうです。 ただ私が感じたのは「生きてみようかなぁ」のほうがなんとなくしっくりくる。当時の結核は不治の病。堀自身が長年の病に苦しめられ・

雪国

川端康成 38歳。 ノーベル文学賞受賞。 著作者 川端康成 版元 創元社 ところで旅行がもたらす効果について・・ 「雪国」「伊豆の踊子」どちらも著者が旅行先でネタやアイディアを思いついているんですよね。 特に効果がありそうなのは 旅先で人生を変えるほどの「大チャンス」に巡り合えるかもしれません。 ◎川端康成が宿泊した温泉宿、「雪国の宿 高半」

濹東綺譚

永井荷風 58歳。 濹東綺譚 =隅田川東側の話 向島区(現・墨田区)にある私娼街、玉の井が舞台。小説家(永井自身といわれている)と若い娼婦との出会いと別れのストーリー。 表紙カバーがなく、白と黒のみ。挿絵に白黒写真。本全体に鮮やかな色彩はありません。 この本が出版されたのは1937年。盧溝橋事件がきっかけで日中戦争が始まった年になります。 この時代、すでに活動写真という言葉は廃れ「映画」と呼ばれていました。そこをあえて昔の言葉を使う荷風。昔を懐かしんでいるのがわかりま

故旧忘れ得べき

高見順 29歳。小説家、詩人。 「故旧忘れ得べき」が第一回芥川賞の候補となり注目される。 政府の弾圧でマルクス主義から思想を転向させられた人たちの「その後」の話。高見自身、1933年に検挙された経験があります。*同年、小林多喜二が拷問で死去。 著者 高見順 発行者 人民社 全体的に質素でサイズが文庫本よりちょっと大きいくらい。表紙の濃紺がとても上品。長期保管、持ち運びに便利ですね。 ・・・ 当時なにがあったのか?どんな社会風潮だったのか?を知るために。

盲目物語

谷崎潤一郎 46歳。 1923年の関東大震災後、38歳で関西へ移住。上方の商人文化や古典美に親しむようになる。 神戸・岡本での豪遊生活で金欠となり、高野山の宿坊「龍泉院」へ一時住まいを移す☄︎☄︎☄︎ そこ(高野山)で、書かれたのが「盲目物語」。織田信長の妹お市、遺児お茶々(淀君)の悲しい話。そばで仕えていた三味線引きの盲人によって語られています。 著者 谷崎潤一郎 発行所 中央公論社 ほか、「吉野葛」も収録。大阪の商家を継いだ友人が幼少時に死別した母を探すために奈良

聖家族

堀辰雄 28歳。 師としていた芥川龍之介の自死に衝撃を受ける。その後、芥川や堀自身を含む関係者をモデルとした「聖家族」を出版(江川書房)。 本体と厚紙(表紙)というちょっと変わったタイプの装丁。無駄な装飾がまったくありません。 私の憶測ですが、本全体が真っ白というのは喪に服すという意味なのかも・・。 アンカット版。まるで小さな絵本のよう。 大学に入学した年の夏。軽井沢で芥川と室生犀星の近くで暮らす。堀にとっては忘れられない貴重な体験だったようです。若い頃の思い出ってい

文芸評論

小林秀雄 29歳。独自性のある文芸評論家。 装丁は親友の青山二郎。*親戚にクーデンホーフ光子 様々なる意匠、志賀直哉、横光利一、マルクスの悟達、批評家失格など・・ 川端康成によると「小林秀雄が現れてから、多くの人々の評論が通俗的に見え出した」とか。そんな小林秀雄の若い頃の初期批評論です。 著作者 小林秀雄 発行所 白水社 ・・・