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#8まつりのうらで「Roots,Rock,Dub&Mia」
ミア、ミア、近づきたい
そこにいるんだ
ここにはいるんだ
僕のものにしたい、ミア
蒸し暑い山形の夜、ダサい服着たやつらを横目に、俺はいつものライブハウスに足を運んだ。本当は音楽になんか興味はない。デカイ音も得意じゃない。好きな音楽を聞かれるのも嫌いだ。
だが、そこにはミアがいる。(本名は梨沙というのだが、パルプフィクションのミアと似ていることから、俺はそう呼んでいる)
眉の上で切り揃えられた前髪、はっきりとした顔つき、若々しい性欲が見え隠れする体。そして彼女の瞳は異国の夜空を思い出させた。
「やあ、ミア」
「あらケンジ、最近よく会うね」
「そうかな、暇を持て余していてね」
君に会いに来ているなんて口が裂けても言えない。俺はシャイ • ボーイなんだ。
「そうなの。ねえケンジ、火を持ってない?」
「ああ、あるよ」
待ってました!と言わんばかりに俺はライターを取り出す。うやうやしく、彼女が咥えたピアニッシモ1mmロングに火を運ぶと、ミアの瞳にその場限りの暖かさが宿った。
「火はいつでもあるから、欲しくなったら言って」
「ありがとう」
彼女は安堵のような表情を浮かべ、煙を吹いた。フィルターに移った紅は、俺の胸をざわつかせた。
フロアに流れる曲調が変わり、ゆったりとしたブラジルっぽい曲が流れ出した。
「あたしの好きな曲!」
ミアは三分の一も吸っていないタバコを灰皿に擦り付け、踊りに行ってしまった。俺がつけた火は弱々しく消えた。
ミアは誰にも媚びずに、目を閉じて音楽に身を浸した。喋るとお高く止まっているように見えるミアは、ここではとても寂しそうに踊る。誰かに寄り掛かりたい、助けてほしい、そんな心許なさが俺には見えた。レーザービームが照らす後ろ姿は、親のいない幼い少女のようだった。
ああミア、君に近づきたい。
君の悲しみを教えてくれ
君の苦しみを俺に分けてくれ
ラム • コークの氷がカランと鳴った。
彼女と目が合った気がした。
撮影場所:山形駅前 Sandinista