ハナサクヤマガタ

東北芸術工科大学 企画構想学科が主催する「ハナサクヤマガタ’22」のアカウントです。花笠祭りのうらでひっそり楽しめるようなコラムを連載中。 https://www.instagram.com/hanasakuyamagata/

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最近の記事

#8まつりのうらで「Roots,Rock,Dub&Mia」

ミア、ミア、近づきたい そこにいるんだ ここにはいるんだ 僕のものにしたい、ミア  蒸し暑い山形の夜、ダサい服着たやつらを横目に、俺はいつものライブハウスに足を運んだ。本当は音楽になんか興味はない。デカイ音も得意じゃない。好きな音楽を聞かれるのも嫌いだ。  だが、そこにはミアがいる。(本名は梨沙というのだが、パルプフィクションのミアと似ていることから、俺はそう呼んでいる)  眉の上で切り揃えられた前髪、はっきりとした顔つき、若々しい性欲が見え隠れする体。そして彼女の瞳

    • #7まつりのうらで「種の感情」

       なんだこの このやろうが 今にも泣き出したい、泣く寸前の喉の詰まりが嫌だ 全てが気に入らなかった、夏、まとわりつく湿気、なくなりそうな薬、バイト、バイト、バイト、音信不通の親友、壊れたモバイルバッテリー、死にそうな家族、キリがない 叫びたい 悲しい  感情の輪郭が見えなくて、殴りたくても実体がないから空振り。答えがないそのイライラを片づけるために、わたしは実家から送られてきた大量すぎるさくらんぼを潰すことにした。(潰すと言っても、ジャムにするだけ)  普通の果物だと適当

      • #6まつりのうらで「二度と来ない」

        「...バス、遅いね」 「おかしいな、いつもはすぐ来るはずなのに」 バスの運行状況を示すHPに飛んでみると、目的地の表示は〈繝ェ繝翫Ρ繝シ繝ォ繝〉となっている。頑張っても読めない。 時間きっかり、区間はっきり、頭四角で尻まで四角、それがバスである。 こんなに遅れるだなんて。丸いフォルムならまだしも、四角い顔して時間に遅れるのは、21世紀にもなって許されない...。 「待つのってタイクツ」 「そのあたりを歩いてみる?」 待合所を出る。 自販機・生垣・タイル・市役所・公衆

        • #5まつりのうらで「転生者」

          日がな立ちっぱなしの仕事ももう飽きた。 足のひらは痛むし、靴のサイズも小さめだから風呂の中で青痰を発見することもある。 この仕事をやめるのが先か、靴を買うのが先か...。 危険のランプが点滅している。 正常な判断ができていないかも知れない。 明日の身支度を整え、眠りにつく。 ______ 思えば朝になっていた。 ぐっすり眠れているのか、こんな寝覚めはしょっちゅうだ。 みんなが同じ顔に見えることと似ているかもしれない(そんなことを考えている暇はない!早く仕事に行かな

          #4まつりのうらで「そして ボーイミーツガール」

           「好きなんだけどね」 彼女はポンデリングを頬張りながらそう言った。くずがポロポロと膝に落ちる。  僕たちは今、山形市の駅近くのミスタードーナツで、いわゆる別れ話というやつをしている。今までもそれは何回かあったが、全て彼女の気まぐれによるものだった。今回もそうだと踏んでいる。  「僕のことが好きなのに、何故別れる必要があるのかわからないな。第一、昨日まで楽しく過ごしていたじゃないか」  「それはそうなのだけど、昨日の私はもういないのよ、あなただってそうじゃない?」 それを言っ

          #4まつりのうらで「そして ボーイミーツガール」

          #3 まつりのうらで「月極コイン駐車場パーキングサイト」

           ボーリング・イエロー・ストップ。 俺らのたまり場はいつだって黄色で線引きされている。 お決まりのやつらもいれば、県外ナンバーの流者がいたりする。 出会いはいつだって風任せだ。 旅の話に盛り上がったり、主人の愚痴を喋ったりしているうちにカーラジオから蛍の光が流れ出すのもしょっちゅう。 ああ、Sleep,Sleeep.あくびが出ちまう。  といっても俺らは夜に集まるから、あの曲が流れ出すのはいつも朝方なんだけどさ。 ------------------- 「あそこ

          #3 まつりのうらで「月極コイン駐車場パーキングサイト」

          #2 まつりのうらで 「今、空気を感じること」

          君には悩みがあるか、私にはある。 この世の人間に蔓延る悩みは多種多様、人間関係、学校、仕事、家族、恋愛 皆ほどほどに人生に疲れ、生活に細やかな倦怠感を拾い上げている。 些細な悩みというのは時間と共に肥大していく、笑っちゃうほど大きな怪物に変わっている。何にもしていないのに疲れて希死念慮を抱くのはそいつらのせいだろう。”何もしていないこと”が自分を苦しめる。 そんな時私がすることは、提出期限を過ぎた課題を片付けることでも、怒らせてしまった友人の機嫌をとることでもない この

          #2 まつりのうらで 「今、空気を感じること」

          #1 まつりのうらで「誰かが街の地図を剥がした」

           誰かが、街の地図を剝がした。 区画だけがおぼろげに、体裁を保っている。 うぐいす色の線は幹道にあたるのだろうか。剥がしたというよりも、掻き毟ったような跡である。ずいぶん昔の傷。はたまた最近の傷。 この地図は何時間、何日間、風雨にさらされただろう。 どれだけの往来が、この地図を前にして発生しただろう。 どれほどの人が、この地図をたよりに目的地へたどり着いただろう。 __ぺたりと、地図が掲示板に貼られた瞬間を思い出す。 ぴかぴかの光沢紙、つやつやのラミネート。 ただ、貼

          #1 まつりのうらで「誰かが街の地図を剥がした」